虐待されていた私ですが、夫たちと幸せに暮らすために頑張ります

赤羽夕夜

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いきたいところはどこだ、と言われても、家族がいるならどこでもいいし、やはり領地も心配なので、かなりの遠出は避けたかった。

となると、やはり帰省をしたいと思うわけで、距離はあるけど緊急時には帰るのにも外国と比べると苦労はしない王都のお養父様の家しかないと思い、夫たちを連れてオーツ家へと戻ってきた。

私やアリスタウは家族と縁を切っているし、ギルバートの家も従兄が家督を継ぎ、居住まいも悪いので帰れないそうだ。ミハイルも実家に顔を見せたいだろうし、満場一致で王都に決まったというわけだ。

帰省をするという手紙を出すと、即答でOKを貰えたので帰ってくると、お養父様もお養母様も笑顔で出迎えてくれた。



…………。

「お姉様!お帰りなさいませ。お兄様もお元気そうでなによりです!」

「まぁ、ジュリアン。見ない間に大きくなりましたね」

「お姉様たち、お仕事じゃなくて、お休みでここに滞在するんでしょ?また僕と遊びに行こ!」

家の中に入ると、まるで主人の帰りを待ちわびた大型犬のように突進して抱き着く影がひとつ。

この子はジュリアン。お養父様とお養母様の実子で、次期オーツ家の跡取りだ。

かなりの天才で飲み込みが早く、4歳の時には基礎的な教育課程を修了し、6歳の時には学園に入学。今も在籍しているそうで、ちょうど私たちの帰省時期と長期休みが重なったようだ。

天才といえども、中身はまだまだ子供。人見知りで甘えたがりな年ごろだ。この子が笑顔を向けてくれる度に、可愛すぎてなにか買ってあげたいし、お小遣いを上げたくなってしまう。

子供を持つとこんな気持ちになるのだろうか。

それとも甥っ子だからだろうか。

「ジュリアン、ヴァシリッサをあまり困らせるものではありませんよ。後ろにいる人たちにも挨拶して差し上げなさい」

お養母様のフォローもあり、ジュリアンは急にぶすっとしだし、顔を上げる。

相変わらず人見知りだな、とジュリアンの頭を撫でると、私の背後にいる夫たちにも挨拶をする。


「アリスタウもいたんだ。おかえり」

「た、ただいま」

「それで、その後ろは……例の人たち?」

人見知りをする子で、私やベルナルド以外の人間には素っ気ない態度をとってしまうジュリアン。こればかりは性格だからしかたないにしても、もう少し私たちに接するみたいにできないものなのか。彼の困った性格のひとつだ。

――そういえば、ジュリアンはタイミングが悪くてミハイルと会ったことがないし、ギルバートに関しても顔を合わせたことがないようだ。

「初めまして。ジュリアン・オーツと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「ミハイルだ。ジュリアンとは何度か顔を合わせたことはあると思うのだが……」

「アレーナの姓になってからは初めてです。そんなことも覚えていないのですか?」

「あ、ああ……、すまないな」

相変わらずの、知らない人に対しての毒舌。相手を見て言葉を選んでいるのだから余計質が悪い。

ミハイルが10も年下の子に圧倒されている。

反対にギルバートは気にしていない様子でジュリアンの頭を撫でくり回す。

「ギルバートだ。俺はジュリアンと会うのは初めてだな。気が強いのが玉に瑕だが、男たるもの、気が強いくらいが丁度いい!よろしくな」

「ちょっと、頭撫でないで下さい。髪の毛がボサボサに――ってか痛い!髪の毛が抜ける!!」

「はっはっは!ならば、年上は敬うことだ!人をこき下ろすのはいいが、自分の力量でどうにかならない者にはしてはいけないぞ。お前はまだまだ若いのだから、その辺はしっかりと勉強しないとな!」

「姉様!助けて!野蛮人がいじめる!」

ギルバートのマイペースさについていけなく、なんとか腕から抜け出すと私の影に隠れるジュリアン。

こういう尖った子の扱いもうまいのね。さすがギルバートだわ。

「あなたも、ミハイルとギルバートは私の夫よ。気安くするな、とは言わない。仲がいいことはいいことだし、私も仲良くしてくれるなら嬉しいとは思う。けれど、礼儀は弁えなさい。親しき仲にも礼儀ありというでしょう?人と接する礼儀を守れない、線引きできない子は嫌われるわよ」

「……ごめんなさい。……ミハイルも、ギルバートも言い過ぎた。お姉様とずっと一緒にいるんだもん。そりゃ、嫉妬したくもなるよ」

ジュリアンは賢い子だ。私の言うことにも瞬時に理解して、己の反省点に対して向き合う強さも持っている。私の前に出て、きゅっとズボンを握りながら2人に謝る。聞き分けはいいが、認めていない者に対しては気位の高いジュリアンは、素直に謝る。


ミハイルも、ギルバートも許してくれるそうなので、蟠りができなくてよかった。

「お姉様、僕、お姉様たちが帰ってきたらやりたいことが沢山あったんだ!学園での話も聞いて欲しいし、小さい頃に一緒に作ったクッキーも一緒に作りたいし、お出かけもしたい!」

「そうね、そうね。ずっと会えなかったものね。いいわ。ジュリアンがしたいこと、全てやりましょう」

この可愛げしかない弟は本当におねだり上手だ。愛らしく、活発に私の顔を見上げて甘える姿は全て叶えたくなってしまう。前世では弟なんていなかったから、その反動もあるかもしれない。きっと、私に子供ができたら、ジュリアンに接するみたいに全ての行動に対して甘やかしたくなってしまうくらい、子煩悩になってしまうのだろうか。

――想像ができる。だって、愛らしい、尽くしたいという感情は抑えきれないもの。

「ジュリアン、ヴァシリッサに我儘いうものではありませんよ。彼女たちはあくまで休暇で帰省したのです。一緒に過ごすなとは言いませんが、我儘はほどほどになさいね。それと、勉強も忘れずに」

「わかってます、お母様。――というか、学園の長期休暇の課題はお姉様が来るってわかって全て終わらせましたし、後は論文を書くだけですから。休暇中遊んでいても御釣りがきますよ」

お養母様の注意に不貞腐れたジュリアンは私から離れ、誤魔化すようにアリスタウに向き直って話をそらした。

「そうだ、ジュリアン。君が僕の薬草園の管理を引き継いだって聞いたんだけど、後で案内してくれない?欲しい薬草があるし、ついでだから教えてよ」

こうなったらお養母様の話など聞かない。反抗期というやつかもしれない。あのお養母様相手に強く出られるのはさすがは宰相家の嫡男と言えるだろう。まだまだ我儘いいたい年なのだと安心させてくれる。

「いいよ。その代わり、その薬草について僕にも教えてね。アリスタウが薬草について手紙で書くと妙に長ったらしくて要領得ないんだよね」

「いいけど、僕口下手だから……、手紙の方が理解できるくない?」

「アリスタウの場合は自信がないだけで、口頭で説明した方がとても分かりやすいよ。きっと、喋るのが面倒くさいって思っているから、癖で必要な情報と不必要な情報を取捨選択して話しているからだと思う。その要領で、薬草の説明も書いて欲しいな」

アリスタウと共にジュリアンは庭園の裏へと消えていってしまう。きっと薬草園に向かったのだろう。

私たちもお養母様たちの案内で屋敷の中に入り、旅の疲れを癒した。



…………。



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