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第一章 理不尽の塊
Ep.0 恐怖
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異世界転生と言うと、何を思い浮かべるだろうか。
異世界でのスローライフを満喫できるかもしれない。
勇者になって、仲間と一緒に世界を救えるかもしれない。
美女たちに囲まれたハーレム生活を送れるかもしれない。
そんな妄想にも、昔の自分なら浸れたのだろうか。
だが、今はもうそんな妄想には浸らない。いや、浸れないと言った方が正しいだろう。
俺には仲間なんてできないだろうし、もしできたとしてもどうせ見限られて殺されるのがオチだ。というか元々性格がひん曲がっているのだから、生まれ変わったとしても俺の性格はそのまんまに違いない。
何故、そんなことを考えているのか。
その理由を説明するためには、少しだけ、俺の身の上話をしなければならない。
俺はこれまで生きてきた中で、努力というものを1度もしたことが無い。
何かのために頑張る、ということをしてこなかった。
そのくせ変な意地だけは持っていて、
ーーその結果、同級生たちからのいじめにあった。
最初は軽い嫌がらせ程度だったのが、段々とエスカレートしていき、挙句の果てには暴力、暴言、金銭、なんでもありになった。自分のありもしない噂も流された。
俺は耐えきれなくなって、いじめの首謀者を突き飛ばした。
そんなに強い力じゃなかったと思う。決して弱くはなかったにしろ、怪我に繋がるような突き飛ばし方では無かった。
だが、打ちどころが悪かった。
幸い、命には関わらなかったが、何針も縫うようなひどい怪我だった。
向こうにも非はあるということで、退学処分なんてことにはならなかったのだが、俺がこれまでに流されていた噂もあって、俺の学校での立場は最悪。到底普通に登校できるような状況じゃなくなった。
だから俺は、死のうと思った。
どうせ何もしてこなかった人生だ。後悔もくそもない。
親も、優秀な兄にばかり期待をして、自分には目を向けていなかった。
挙句、暴力沙汰を起こしたときた。
俺が死んだとて、誰も悲しまないだろう。
俺は学校の屋上に登った。空気が澄んでいて、いい天気だ。
俺はこの時、死ぬ事への恐怖よりも、ようやく楽になれることへの喜びの方が勝っていた。
自分の体が宙に舞う。
ものすごいスピードで地面が近づいてくる。
そうしてようやく、死を実感した。
ああ、俺は死ぬのか。
もう、この足で歩くことも、この手で何かを掴むことも、この目で何かを見ることも、この耳で何かを聞くことも、何もかもが出来なくなるのだ。
それがなぜか、「怖い」と思ってしまった。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
何で死のうなんて思ったのだろう。
ーー最後に家族にくらい、ありがとうって言っておけばよかったな。
そんなことを思いながら、俺の頭は地面と正面衝突して、
恐らくぐしゃりと音を立てて潰れた。
もっとも、その音は聞こえなかったが。
異世界でのスローライフを満喫できるかもしれない。
勇者になって、仲間と一緒に世界を救えるかもしれない。
美女たちに囲まれたハーレム生活を送れるかもしれない。
そんな妄想にも、昔の自分なら浸れたのだろうか。
だが、今はもうそんな妄想には浸らない。いや、浸れないと言った方が正しいだろう。
俺には仲間なんてできないだろうし、もしできたとしてもどうせ見限られて殺されるのがオチだ。というか元々性格がひん曲がっているのだから、生まれ変わったとしても俺の性格はそのまんまに違いない。
何故、そんなことを考えているのか。
その理由を説明するためには、少しだけ、俺の身の上話をしなければならない。
俺はこれまで生きてきた中で、努力というものを1度もしたことが無い。
何かのために頑張る、ということをしてこなかった。
そのくせ変な意地だけは持っていて、
ーーその結果、同級生たちからのいじめにあった。
最初は軽い嫌がらせ程度だったのが、段々とエスカレートしていき、挙句の果てには暴力、暴言、金銭、なんでもありになった。自分のありもしない噂も流された。
俺は耐えきれなくなって、いじめの首謀者を突き飛ばした。
そんなに強い力じゃなかったと思う。決して弱くはなかったにしろ、怪我に繋がるような突き飛ばし方では無かった。
だが、打ちどころが悪かった。
幸い、命には関わらなかったが、何針も縫うようなひどい怪我だった。
向こうにも非はあるということで、退学処分なんてことにはならなかったのだが、俺がこれまでに流されていた噂もあって、俺の学校での立場は最悪。到底普通に登校できるような状況じゃなくなった。
だから俺は、死のうと思った。
どうせ何もしてこなかった人生だ。後悔もくそもない。
親も、優秀な兄にばかり期待をして、自分には目を向けていなかった。
挙句、暴力沙汰を起こしたときた。
俺が死んだとて、誰も悲しまないだろう。
俺は学校の屋上に登った。空気が澄んでいて、いい天気だ。
俺はこの時、死ぬ事への恐怖よりも、ようやく楽になれることへの喜びの方が勝っていた。
自分の体が宙に舞う。
ものすごいスピードで地面が近づいてくる。
そうしてようやく、死を実感した。
ああ、俺は死ぬのか。
もう、この足で歩くことも、この手で何かを掴むことも、この目で何かを見ることも、この耳で何かを聞くことも、何もかもが出来なくなるのだ。
それがなぜか、「怖い」と思ってしまった。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
何で死のうなんて思ったのだろう。
ーー最後に家族にくらい、ありがとうって言っておけばよかったな。
そんなことを思いながら、俺の頭は地面と正面衝突して、
恐らくぐしゃりと音を立てて潰れた。
もっとも、その音は聞こえなかったが。
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