6 / 41
第1章
6. 考えてもしょうがない
しおりを挟む
「朱璃は、景雪に預けようと思う」
桜雅が夜明けと同時に出発した一行に告げた言葉に、桃弥が落馬しそうになった。
「ななな、何て言った? 今っ!」
「景雪に朱璃の師となってもらう」
「ないっないっ それはあり得ない! だめっだめだ! あんなへそ曲がりの根性悪にこんな純真な子供預けるなんてどうかしてる!」
飛んでくる唾を、微妙に隠し切れていない嫌な顔をして避けつつ桜雅が首をひねる。
「確かに景雪は変わり者だが、祇国随一の秀才と言われる男だ。今は隠居中で時間もあるだろうし、師としては何の問題もないだろう」
「あるに決まっているっ!秀才だの天才だと言うが、あれは紙一重の馬鹿の方だ。馬鹿でもただの馬鹿ではないっ! 変態混じりの大馬鹿だぞ。あの人が師となるくらいなら山に捨てられた方が10倍、否 100倍幸せになれる。お、おれ!朱璃の幸せのために山に捨ててくる!!」
そう言うと、桜雅と桃弥の口論に目を丸くしていた朱璃を、馬の上からガシッと捕まえ、自分の方に抱きあげようとした。
桜雅も取られてなるものかと、自分の前に座る朱璃の腰にしっかりと腕をまわす。
イケメン2人が私を取り合い……
現実逃避するしかない朱璃であった。
「こらこらーちょっと待て」
「桃弥 落ち着いて下さい。朱璃がびっくりしているでしょう。可哀想に」
様子を見ていた泉李と莉己が見かねて2人の間に割って入った。朱璃は何とか再び桜雅の方へ引き寄せられる。
「莉己様、朱璃があまりに気の毒です」
桃弥が涙すら浮かべ、必死で抗議するのを見て、泉李は複雑な心境だった。
間違いなく、景雪は変人だが実弟にここまで言われるというのも どうかと思う。
景雪は名門秦家の次男(桃弥は三男)で、幼きころより文武共に優れ、同世代では右に出るものはいなかった。その実力を買われ、15歳という若さで官吏として朝廷入りし、名宰相 朴 典康の片腕としてその名を轟かせた。そして、4年前、前王の病死による政権交代で、王の器とは言い難かった第1公子ではなく、第2公子を、着任させた立役者となった。
しかし、その1年後、彼は官史を辞めてしまったのだ。
実は、官史となる前に『10年だけ』という約束が秦家当主である父親との間でなされていた。溢れる才能を持ち得るのに、全く国政に興味を持たず、ふらふら遊び回ってばかりの次男を、何とか落ちつかせる為の苦肉の策だったらしい。
結局『10年間は、国と王に忠誠を誓うが、その後は自分に一切関与しない』という事で双方が妥協した。そして、もしかして10年の間に気が変わるかも知れないという淡い期待を裏切り、きっかり10年後、周りの猛反対を物ともせず官史をやめたのだ。
そんな事情を知らない人々は、全ての地位も名誉も捨ててしまった名官史 秦景雪《しんけいせつ》を惜しむと同時に、辞めた理由を噂した。
元々、文句のつけようのない整った顔立ちとその貴公子っぷりからも人気が高かった。極めつけは数年前に恋人を無くした事はこの国で知らぬものはおらず、それが原因だと悲劇のヒーローごとく伝説のように語り継がれているらしい。
この話には、もう1つ秦家側から見た伝説と言われているものがある。
実弟曰く、父親の当主はもちろんのこと、母親、兄弟を含む身内の誰もが、10年間朝廷勤めを果たすとは思っていなかった。一応大人しく朝廷勤めをする景雪に、天変地異の前触れだと3年を過ぎたあたりから、いつ何時、何があっても大丈夫なように防災対策は完壁になされていた。光州だけではなく、各州の秦家一族の屋敷には、数年は生活に困らないだけの 備蓄が揃っている。というのだ。
『桃弥のお兄様?』
どうやら、今から自分が連れていかれるのは桃弥の兄のところで、桃弥が激しく反対しているらしいということはわかった。さっきまでの様子からして、嫌な予感しかしない。
そんな心情を察っしてか、桜雅が朱璃の頭をやさしくなでた。
「心配いらない」
言葉が判れば、
「いやいや心配するでしょ。怪しさ全開でしょ」
と鋭いツッコミを入れていたであろうが、生憎意味は分からず、優しい笑顔を見つめる事しか出来なかった。
いやー何度見ても男前。
現実逃避しつつ、桜雅を信じるしかないと朱璃は腹をくくり、ゆっくりとうなづいた。
桜雅が夜明けと同時に出発した一行に告げた言葉に、桃弥が落馬しそうになった。
「ななな、何て言った? 今っ!」
「景雪に朱璃の師となってもらう」
「ないっないっ それはあり得ない! だめっだめだ! あんなへそ曲がりの根性悪にこんな純真な子供預けるなんてどうかしてる!」
飛んでくる唾を、微妙に隠し切れていない嫌な顔をして避けつつ桜雅が首をひねる。
「確かに景雪は変わり者だが、祇国随一の秀才と言われる男だ。今は隠居中で時間もあるだろうし、師としては何の問題もないだろう」
「あるに決まっているっ!秀才だの天才だと言うが、あれは紙一重の馬鹿の方だ。馬鹿でもただの馬鹿ではないっ! 変態混じりの大馬鹿だぞ。あの人が師となるくらいなら山に捨てられた方が10倍、否 100倍幸せになれる。お、おれ!朱璃の幸せのために山に捨ててくる!!」
そう言うと、桜雅と桃弥の口論に目を丸くしていた朱璃を、馬の上からガシッと捕まえ、自分の方に抱きあげようとした。
桜雅も取られてなるものかと、自分の前に座る朱璃の腰にしっかりと腕をまわす。
イケメン2人が私を取り合い……
現実逃避するしかない朱璃であった。
「こらこらーちょっと待て」
「桃弥 落ち着いて下さい。朱璃がびっくりしているでしょう。可哀想に」
様子を見ていた泉李と莉己が見かねて2人の間に割って入った。朱璃は何とか再び桜雅の方へ引き寄せられる。
「莉己様、朱璃があまりに気の毒です」
桃弥が涙すら浮かべ、必死で抗議するのを見て、泉李は複雑な心境だった。
間違いなく、景雪は変人だが実弟にここまで言われるというのも どうかと思う。
景雪は名門秦家の次男(桃弥は三男)で、幼きころより文武共に優れ、同世代では右に出るものはいなかった。その実力を買われ、15歳という若さで官吏として朝廷入りし、名宰相 朴 典康の片腕としてその名を轟かせた。そして、4年前、前王の病死による政権交代で、王の器とは言い難かった第1公子ではなく、第2公子を、着任させた立役者となった。
しかし、その1年後、彼は官史を辞めてしまったのだ。
実は、官史となる前に『10年だけ』という約束が秦家当主である父親との間でなされていた。溢れる才能を持ち得るのに、全く国政に興味を持たず、ふらふら遊び回ってばかりの次男を、何とか落ちつかせる為の苦肉の策だったらしい。
結局『10年間は、国と王に忠誠を誓うが、その後は自分に一切関与しない』という事で双方が妥協した。そして、もしかして10年の間に気が変わるかも知れないという淡い期待を裏切り、きっかり10年後、周りの猛反対を物ともせず官史をやめたのだ。
そんな事情を知らない人々は、全ての地位も名誉も捨ててしまった名官史 秦景雪《しんけいせつ》を惜しむと同時に、辞めた理由を噂した。
元々、文句のつけようのない整った顔立ちとその貴公子っぷりからも人気が高かった。極めつけは数年前に恋人を無くした事はこの国で知らぬものはおらず、それが原因だと悲劇のヒーローごとく伝説のように語り継がれているらしい。
この話には、もう1つ秦家側から見た伝説と言われているものがある。
実弟曰く、父親の当主はもちろんのこと、母親、兄弟を含む身内の誰もが、10年間朝廷勤めを果たすとは思っていなかった。一応大人しく朝廷勤めをする景雪に、天変地異の前触れだと3年を過ぎたあたりから、いつ何時、何があっても大丈夫なように防災対策は完壁になされていた。光州だけではなく、各州の秦家一族の屋敷には、数年は生活に困らないだけの 備蓄が揃っている。というのだ。
『桃弥のお兄様?』
どうやら、今から自分が連れていかれるのは桃弥の兄のところで、桃弥が激しく反対しているらしいということはわかった。さっきまでの様子からして、嫌な予感しかしない。
そんな心情を察っしてか、桜雅が朱璃の頭をやさしくなでた。
「心配いらない」
言葉が判れば、
「いやいや心配するでしょ。怪しさ全開でしょ」
と鋭いツッコミを入れていたであろうが、生憎意味は分からず、優しい笑顔を見つめる事しか出来なかった。
いやー何度見ても男前。
現実逃避しつつ、桜雅を信じるしかないと朱璃は腹をくくり、ゆっくりとうなづいた。
241
あなたにおすすめの小説
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる