異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

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第3章

1. 謀反

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「バク、起きろ!」
 小声ではあるが鋭い景雪の声に目を覚ました朱璃は、辺りがかなりの暗闇だと気付く。
「夕ご飯ですか?」
  日の高いうちに寝てしまった事を思い出したのだ。
「メシはとっくの昔に食べた」
「……私の分は? 先生が食べたんですか?」
「起きてこないお前が悪い。んな事より早く着いてこい」
 景雪にしては珍しく急かして庭の外に出て行ってしまった。
 押し付けられるように持たされた防具をボーと見ていた朱璃だったが、徐々に目が覚めてきた。
流石に尋常でない状況に陥っていると悟り、慌てて景雪の後を追う。

 池の方まで行くと、自分が寝ていた部屋の方で大きな物音がした。
「女は何処に行きやがった!」
 けっしてお上品とは言えない怒声が聞こえ、急に屋敷内が騒がしくなってきた。

「早くこいっ」
  景雪が思わず立ち止まった朱璃を叱った。
「景先生、何したんですか?」
「俺は何もしてない」
  むっとしたように景雪が答えるのを聞いて、いつの間にか側に居た泉李と莉己が笑った。

 2人の忍笑いに景雪はさらにむっとし、怒ったように言った。
「船は確保できたか」
「ったく……無理を言わないで下さい。そう都合よく船なんか見つかりませんよ」
「馬は陵才が用意してくれたから、朝までになんとか関所につけるだろう。どうせ閉鎖されいるだろうが」
「その位はなんとでもなる」

 朱璃は3人の会話に首を傾げつつ、追っ手を弓で牽制した。
「おーやるな」
 朱璃の矢によって倒れた男につまずき、将棋倒しのようになる様子を見て泉李が笑った。
 その後も次々と追っ手が現れるも4人は全くの余裕で足止めされる事なく、裏門へ向かう。

「兄上」
 手前の塀の上から声がした。桃弥が退路を確保してくれていたようだ。
 直ぐさま泉李の補助を受け、莉己が大人2人分は軽くありそうな塀に軽やかに飛び乗った。
「カッコいいー」
  上を見上げ拍手をする能天気な朱璃の頭を景雪が小突く。
「早く行け」
「はーい。お願いします」
 泉李の作ってくれる足場に、莉己を真似て助走をつけて足を掛けると、軽々と持ち上げられた。そして塀の上の桃弥と莉己にこれまた軽々と引き上げられた。
「ありがとうございます。お手数お掛けします」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
 朱璃の笑顔と丁寧な礼につられ、2人も微笑み返す。

「何和んでる? 団体さんがお見えだぞ」
  いつのまにか一人で上がって来た泉李に突っ込まれ、桃弥が慌てて屋敷の外に飛びを降りた。
 少し向こうに馬を連れた桜雅と琉晟の姿が確認でき、朱璃はホッとした。足を引っ張らないように急いで飛び降りようとするとふわりと体が浮いた。
「えっ?」
  お姫様抱っこ!?
  誰とも確認する間もなく、一瞬身体が浮く感覚があり、とっさにふれた衣服を握った。かなりの高さから飛び降りたにも関わらず、大きな手で後頭部を固定された為か衝撃はなかった。

「大丈夫か?」
 整った顔が目の前にある。
「せせせ、泉李様……あ、あの」
 慌てる朱璃に泉李がニカッと笑った。
「無理すんな。まだ痛いだろう」
 そう言われて初めて足の怪我の事を思い出す。だから抱いて飛び降りてくれたのだ。
「ありがとうございました」
 泉李がそっと地面に降ろしてもらい礼を言う朱璃の頭を撫でる。
「無理をするな。なるべく安静にな」
「はい」
 今の状況では無理な相談だと突っ込むものもおらずニコニコと、穏やかな雰囲気の2人だった。

「おいしい所を持っていかれたからと言って怒ってはいけませんよ」
  実に嫌味なタイミングで声を掛けてくる莉己を景雪がひと睨みする。
「誰が怒るか」


 7人は夜明けからも逃げるようにとにかく町外れまで馬を走らせた。
 状況は全く理解出来ていないが足を引っ張らないよう着いて行くだけだと朱璃は神経を集中させる。するとそばに桃弥がやってきた。
「朱璃。足の事聞いた。ごめんな、壺の薬持って来てくれたんだってな。そのせいで怪我しちまって」
「えーちゃうちゃう。壺の薬とか全く関係ないねんっ桃弥は悪くないから謝らんといて」
「でも、薬届けるために来てくれたんだろう」
「私がどんくさいだけやから、ほんまに気にせんといて、そんな大した怪我ちゃうし」
  納得のいかない表情の桃弥に朱璃が思案する。
「じゃあ、足が痛くなったらおんぶをしてくれる?」
「!! ああ、わかったいつでもしてやるっ」
「やったー」
 交渉成立。

  そうこうしている内にに追っ手がこなくなったので、朱璃はやっと状況を説明してもらうことになった。
  莉己の話によると、昨日、王が毒殺されそうになった。(今は意識不明の重体らしい)
  毒を盛った犯人が白桜雅の指示でやったと自白した為、王の実弟、白桜雅が国中に指名手配された。で、星西州の官史が身柄を拘束しに来たというのだ。
 桜雅の無実を知るものからすれば、現王と桜雅を狙った謀反に他ならないのだが、桜雅の容疑を否認出来ない以上、朝廷は「白桜雅の謀反」として動いているのだ。

「そんなアホなこと……」
 前を行く桜雅の背中を見つめ朱璃が呟いた。ツッコミ所が多すぎる。
「頭の固い、いや悪い奴はこれだから困る」
「どこかの安物の芝居でありそうですね」
  2人の笑顔が怖い。この世界にきて美形恐怖症になりそうだと朱璃は目をそらした。

「王様、大丈夫なんでしょうか」
 桜雅のかなり思いつめた横顔が胸に痛い。
「大丈夫だ。あいつが殺して死ぬようなタマなら、もうとっくにあの世の住人だ」
 兄の安否だけを心配する桜雅が今もっとも欲している言葉を告げた。周りも力強く頷き、援護する。
「そうです。特に毒殺はあり得ませんよ。彼は嗅覚が鋭いんです。毒が入っていれば直ぐわかります」
「犬にも勝てる」
 皆、頷いているので真実だろう。王様すごいな。

  やがて、仲間を見つめていた桜雅の張り詰めた空気が和らいた。
「そうだ。そう簡単に死ぬような人じゃなかったな」
落ち着きを取り戻した桜雅に笑顔が戻った。
  
  莉己が桜雅の頭をポンポンと撫でた。
「では、これからの事を決めておきましょう。今、私達を追っている星西州の官は貴女の顔をよく知らないので、問題ありません。しかし朝になれば近衛隊が大勢やってきます。それまでに関を越えましょう。光州に入れば何らかの情報が掴めるでしょうし、心あるものに力を借りる事も可能です」
「どこのどいつの仕業か情報が無さ過ぎてわからねぇが追々報告があるだろう」
「心当たりがあり過ぎるってのもありますけど」
桜雅、桃弥、朱璃の年下組が承知したと頷いた。

「あ、あのっ陵才様は大丈夫でしょうか」
  自分たちを逃がしてくれたあの優しいひとが、大変な目にあっているのではないかと朱璃はずっと気になっていたのだ。
  もちろん話の腰を折った朱璃を咎めたりせず、莉己が優しく答えてくれた。
「それは心配いりませんよ。彼はこの辺りの総元締ですから、誰も手は出せません。彼の情報屋のお陰で 間一髪逃げ出す事が出来て本当に助かりました」
「総元締……」
 あの、人の良さが滲み出ているというのにぴったりな陵才の顔が思い出される。裏ボスだったとは……本当に人は見かけによらない。さすが景雪の友人だ。

「さーて、そろそろ行くか。あとは関の様子だが、……おっと戻ってきたな」
 1人先回りして関周辺を、探っていた琉晟が皆に報告する。ここから1番近い関はすでに閉門され、ぞくぞくと武官が到着しているらしい。
「思ったより早かったな」
「そうですね。中央の律が整ってきたということは喜ばしい事ですけど」
「まぁそういうな。で、北に廻るか?」
  莉己はうなずいたが、景雪は嫌な顔をした。
「緊急事態です。しかたありません」
  皆が次々と馬に飛びのっていく中、朱璃も遅れを取らないよう急いだ。
「んじゃ、出発。飛ばすぞ」
 泉李が先頭を駆け、一行は北に進路を変えて再び走りだした。
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