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242 金 日課と乱入

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「まぁこんなところに立派なモジャが!」
「うぅん……」
「モジャは滋養強壮に良いと聞くから収穫しよう!」
「……おはようタマ」
「おはようモジャモジャ!」

 6時か。
 すっかり朝だ。
 とりあえず日課を済ませよう。

「タマ、畑に行こう」
「モジャ!」

 タマがいつも通り元気よく返事をくれる。
 遂に鳴き声みたいになったか。

「おはよう」
「おはよー!」
「おはようございます」
「おろし金、朝だよ!」
「キュル!」

 朝食の用意をしていたミルキーにも挨拶を済ませる。
 タマは床に寝そべっていたおろし金を、ペシペシ叩いて起こしていた。
 二人と一匹で畑に向かう。

 朝は空気が気持ちいい。
 昨日の自分勝手な自分に対する暗い気持ちも溶けていくようだ。
 しばらく歩いて≪モジャ畑≫へと到着した。

 石華が二体の≪ダイヤモンドナイト≫を従えて、畑の縁に腰かけている。
 
『ご主人様、タマ、おはようなのじゃ』
「おっはよー!」
「おはよう。どうしたんだ、こんなところで?」
『修行したいと言っておったからな、朝食の用意をしているミルキーの代わりに葵の付き添いじゃ』

 言いながら石華の視線が畑の中へ向く。
 俺もそっちへ視線を向ける。
 いつも通りのカオスな光景が広がっていた。

「おー、やってるな」
「タマもやるー!」
「キュル!」

 細マッチョ達が畑仕事をやっていた。
 作物の収穫に雑晶の処理、素手で土を耕してる猛者までいる。
 負けじと、タマとおろし金が飛び出していった。

 真ん中に生える巨大なイカ、≪ピンポン玉≫の傍では葵とムッキーがいる。
 二人で朝の鍛錬を行っているようだ。
 
 葵は剣を振るい、ムッキーは素手で迎え撃つ。
 いや、素手だけど素手じゃないな。
 手や身体の周りにオレンジ色の液体が漂っている。

 ムッキーの手の動きに合わせて揺れる液体は、葵の剣とぶつかっても散らなかった。
 それどころか剣を受け流している。
 あれがムッキーのスキルか。

 聞いた話では、あれは宝石なんだとか。
 本来の石の状態でもかなり硬い。
 有名なダイヤモンドの次に硬いらしい。

 その宝石を液状にして操れる、攻防自在のスキル。
 強そうだ。
 実際、葵も苦戦している。

 ムッキーが攻勢に出た。
 太く長い、棍のようにした宝石を手に取る。
 ヒュンヒュンと回転させて、勢いのままに叩きつけた。

 葵は咄嗟に剣で防いだ。
 攻撃がまるでどこから来るのか分からなかったかのような、ぎりぎりの防御だ。

 ガキャイィン!!

 剣と激突した宝石の棍棒が砕け散る。
 散らばった破片は宝石の雨となって、距離を取った葵を襲う。

「遠距離攻撃はずるい……!」

 葵は急所をガードした。
 多少の被弾は覚悟しているようだ。
 攻撃を受けながら、宝石の嵐の中を突き進んで行く。

 礫は勢いを増して葵へ降り注ぐ。
 しかし葵は止まらない。
 ムッキーもそれを分かっていたのか、両腕からオレンジ色の液体を溢れさせて迎撃の構えを取る。

 距離が詰まる。

 葵の剣とムッキーの拳が激突する――!!

「おはよー!」
「えっ」

 タマが二人の間に現れた。
 ムッキーは葵の剣を受け流すつもりだったらしく、タマが現れても動きを止めただけで済んだ。
 葵の剣は、タマが出現させた結晶の剣で受け止められていた。

 葵は驚いた顔のまま、何も言えないでいる。
 突然すぎてびっくりしただろうな。
 俺もだ。
 ちゃんと注意しておかないと。

「ちょっと行ってくる」
『ご主人様も大変だのう』
「はは、毎日楽しませてもらってるよ」

 石華の苦笑に返しながら、葵達の元へ向かう。
 確かに大変なこともあるけど、楽しいことの方が多い。
 タマのお陰で俺は今ここにいるとすら思う。

 タマが相棒で良かった。

「タマ、邪魔したらダメだろ」
「タマもやるー!」
「タマのはステータスの暴力だからダメ」
「はーい」

 タマも葵と遊びたくなっただけのようだ。
 だけど、葵の修行は技を重点的に鍛えるものだ。
 ステータスお化けのタマとの戦いは、ステータスに開きがありすぎて一方的になってしまう。
 
 少しの差なら戦えるんだろうけどな。
 数倍ところか数千倍までになるとどうしようもない。

 この世界は根本的にはゲームだ。
 数字が持つ意味は大きい。
 いくら技術があっても、Str数百万のタマに殴られたら死ぬ。
 何の修行にもならない。

「ありがとう。正直、死ぬかと思った……!」
「むしろタマが邪魔してごめんね。もうしないように言っておいたから、後で普通に遊んでやって」
「反省してるモジャ」

 葵も死を感じてしまったようだ。
 タマの強さを知ってたらそうなるだろうな。
 PK達を簡単に蹴散らしてるのも見たし、俺の知らない間にタマのステータスを見てしまったらしい。
 
 そんなタマが目の前に武器を持って出てきたら。
 まず間違いなく死を覚悟する。
 そうなったら俺も瞬殺されそうで怖い。
 タマが相棒で良かった。

「分かった。丁度いいし少し休憩する」
「そっか。ポーションはまだある?」
「大丈夫」

 葵は畑の縁まで行くと、傾斜に座り込んだ。
 そのまま仰向けに倒れた。
 ぐにーっと全身で伸びをしている。

 ムッキーは細マッチョ達の指揮をとりつつ、畑仕事に加わった。
 色々やってもらえるのは助かるな。
 人数も多いし。

「キュルル!」

 ドラゴンモードのおろし金が一声鳴いた。
 すぐに一体の細マッチョが降りてきた。

 おろし金を見て不敵に笑う、ように見えた。
 イチゴ細マッチョは一歩踏み出した瞬間、おろし金の鋭い爪によって輪切りにされた。
 身体は消滅し、その場にドロップ品だけが残された。
 フルーツだ。

 おろし金はそれを咥えると、そのまま口に放り込んだ。
 美味しそうに食べている。

 熟したフルーツ達は挑戦者を待ち、挑むと一番闘気の高まったフルーツが降ってくる。
 倒すことが出来れば美味しいフルーツが手に入る。
 ウチの畑の常識だ。
 何度考えても意味が分からない。

「キュル!」

 収穫しては食べる。
 おろし金はもう何度か繰り返した。
 最後の数回は食べずに、カナヘビモードへ移行した。

「キュル!」
「おお、ありがとうな」
「キュルルルル」

 細マッチョリンゴを咥えたまま俺のところへ持って来てくれた。
 受け取って、おろし金を撫でる。
 気持ちよさそうに鳴いている。

 リンゴを一口齧る。
 相変わらず美味しい。
 薄ら割れた腹筋も、食べてしまえば関係ない。

 この後は、ご飯を食べたらストーレだな。
 純白猫の腕前がどこまで上がったかを確認しないといけない。

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