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292 朝と日常
しおりを挟む朝がやって来た。
昨日の夜も、ミゼルとミルキーと一緒のベッドで寝た。
そうするようになって三日目ではあるが、全然慣れない。
俺にはまだまだ刺激が強すぎる。
しばらくしたらいつの間にか寝ちゃってるけど、これまでみたいにすぐには寝付けない。
それはミルキーも同じようで、朝は眠そうにしていることが多くなった。
今も、まだ微妙に眠たそうにベッドの中でもぞもぞと動いている。
「おはようミルキー」
「あ、おはようございます。起こしちゃいましたか?」
「大丈夫、多分いつも起きてる時間だから目が覚めただけだよ」
時間は、もう6時前だ。
俺が畑仕事に行く時間だからな。
こんな時間にミルキーがまだベッドにいるのは、中々珍しい。
「いつの間にかこんな時間に……」
「まだ早いしゆっくりしてたら?」
「ミゼル様にも言われましたけど、そういうわけにもいかないですよ。そろそろ起きます」
「そっか。んー……! そういえば、ミゼルは?」
起き上がって、伸びをする。
広いベッドの上に、ミゼルの姿はない。
それどころか、部屋にもいない。
「三十分ほど前に下へ降りて行かれましたよ。ナガマサさんも起きたし、私ももう起きます」
「それじゃあ行こうか」
装備を変更した俺達は、揃って一階へと降りた。
キッチンで朝食の支度をするミゼルの姿が見える。
挨拶を交わして、ミルキーはミゼルと一緒に朝食の準備。
俺は日課の畑へ出掛ける。
ミゼルによれば、タマと葵とおろし金はもう畑へ向かったらしい。
葵は熱心で頑張り屋で凄いな。
朝が弱い筈なのにこんなに早くから修行とは。
「シーソー、おいで」
「ジジ」
声を掛けると、柱に飾ってあった盾のようなものが飛んできた。
そのまま俺の左腕にしがみつく。
俺の装備兼、盾形のモンスターである≪シーソー≫だ。
愛用していた盾型ゴーレムにコインを合成したら、モンスターになった。
その時におろし金の素材で作った剣も組み合わせたから、シールドとソードでシーソーだ。
いつトラブルに巻き込まれるか分からないから、きちんと武装しておくべきだろう。
「それじゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃいませ」
二人の婚約者に見送られて家を出る。
絡んで来る一般プレイヤーは特にいなかった。
すれ違うNPCやプレイヤーに挨拶しながら歩く。
正式にサービス開始する前よりも、βNPCの姿を見かけなくなった気がする。
一般プレイヤー達にとって、俺達はボーナスキャラであり、邪魔者でしかない。
だから、狩場で見掛けたら積極的に襲ってくる。
そんな状況だから、みんな街に移動したり、家に引きこもったりしてるんだろうな。
街や村ではPKが出来なくなったお陰で、外へ出なければ襲われることもない。
つまり戦闘に自信が無い人は、狩り以外でお金を稼ぐ必要がある。
それなら、一部の職業を除けば人の多いところがいいだろう。
俺も畑や家が無ければきっと、そうしていただろう。
「おはようございます。ちょっとすみません、通してくださいね」
畑の周囲にいた一般プレイヤー達に声を掛けてどいてもらう。
ミルキーの言っていた通り、素直に退いてくれた。
こんな時間なのに、まだこんなに人がいるとは思わなかった。
畑としてはかなりおかしな見た目ではあるけど、そんなに見てて面白いかな。
畑の中には関係者しか入れない。
今も俺の後に続いて何人かが足を踏み入れたが、細マッチョ達が殺到して叩きだしてしまった。
警備体制は完璧だな。
見渡してみると、ピンポン玉の前でタマと葵が座り込んでいる。
ムッキーは細マッチョ達を指揮して、畑仕事を手伝ってくれているようだ。
休憩中かな。
「あっ、モジャモジャだ! 収穫しなきゃ!」
「おはよう……!」
近づくと、タマが元気一杯に飛び掛かって来た。
葵も俺に気付いて顔を向けてくれる。
タマを受け止めてだっこしてやりながら、葵も含めて挨拶を返す。
「二人ともおはよう。早いね。モジャは収穫物じゃないぞ。大事に愛でてくれ」
「はーい」
「今日から心の修行だから、張り切ってる……!」
「葵はすごいな。無理しない程度に頑張るんだぞ」
「うん、大丈夫」
「葵はすごいから、だいじょーぶ! 無理しそうになったらちからづくでも止める!」
「あわわわわ……!」
葵と話していると、近づいてくる人影があった。
βNPCだ。
そのアイコンは、紫。
PKを示す色だ。
「皆さん、おはようございます!」
「おはよう紅葉さん」
「おはよー!」
「おはよう」
この人は、紅葉。
コッカー達と一緒にピンポン玉に生える樹の上で、細マッチョ達に抱き枕の刑に処されていた内の一人だ。
赤茶色のロングの髪で、眼が大きいのが特徴だ。
歳は、18くらいに見える。
静かな大人しい感じで、ミルキーや葵に似たタイプに見えるが、紅葉は芯の強い感じはしない。
か弱いって言うんだろうか。
オーバーオールに麦わら帽子がなんとなく似合っている。
「それじゃあ、修行に戻るね」
「タマもフルーツ採ってくる!」
「怪我しないようになー」
駆け出していく二人を、紅葉は静かに見送っている。
この人も、大変そうな境遇だった。
簡単に言えば、コッカー達に捕まっていいように使われていたらしい。
解放されたコッカー達が一目散に逃げ去ってしまい、行く当てもない彼女を放ってはおけなかった。
昭二さんに相談して、ルインと同じように引き取ってもらった。
大人しい性格が良かったのか、ルインもすっかり懐いて姉妹のようだと、昭二さんが教えてくれた。
「今日の収穫物です。細マッチョの皆さんから預かっております」
「おお、ありがとうございます」
取引申請で収穫物を受け取る。
おお、今日は念願の≪ダイヤモンドハーブ≫や≪サファイアハーブ≫が収穫出来ている。
≪ルビーハーブ≫や≪エメラルドハーブ≫も大量だ。
株を増やした甲斐があった。
「お手伝いしてもらえるのは有難いんだけど、気を遣わなくても大丈夫ですよ」
「いえ、助けていただいた恩を返したいです。もし迷惑ということでしたら、やめます……」
「ああいや、そういう訳じゃないんだけど……」
うーん、こういう感じの人はルインといい、苦手だ。
どう接していいか分からない。
でもまぁ、本人がそうしたいって言うならそれでいいか。
迷惑ってわけじゃないし、有難いのは事実だからな。
俺かタマかミルキーが来ないと、収穫物が畑の隅に積み上げられていくからな。
そのまま放置していると生ものは特に、どんどん劣化していってしまう。
ほとんどの作業を細マッチョ達がしてくれているのに畑に通うのが日課なのは、そういう理由だ。
ちなみに、紅葉が畑を手伝うことに、ミルキーとミゼルは特に思うところは無いそうだ。
「それでは、昭二さんの畑のお手伝いに行きます」
「はい、ありがとうございました」
「失礼します」
紅葉は、頭を下げてから去って行く。
感情をあまり感じられないのは、よほど辛い目にあったんだろう。
自分達の人生が優先だけど、昭二も含めて何かしてあげたいところだ。
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