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33 お金じゃ買えないロリがある
しおりを挟む場所を移して、いつもの酒場風喫茶店である。
念の為いつもの六人掛けの席に居座っているが、今はまだ三人しかいない。
俺、サンゾウ、そしてアズール。
アズールは臨時広場で揉めているところを見つけて連れて来た、生産職の女の子だ。
見た目的に十四かちょっと下くらい。
種族は人間っぽいけど、どうだろう。
三人の前にお茶とデザートが運ばれてくる。
ゲームの中だと脂肪にもならないし味は普通に美味しいしで、VR様様だな。
「あ、あの、お金返す……!」
「遠慮しなくても大丈夫ですよ」
「でも」
「本当に大丈夫ですから」
笑いかけながら続けて言うと、アズールは黙り込んでしまった。
ううむ、かなり申し訳なく思われてるようだ。
俺としては何もしてないのにもらったお金が十万程あったから、特に痛くはない。
降って湧いたお金で人助けが出来たのなら、むしろいいことだろう。
「アズールさんって、生産職なんですよね」
「あ、うん、そうだよ」
「良かったら私達のギルドに入りませんか? ギルドを作ろうと話していたところだったので、丁度良いと思うんですけど」
「アズを、ですか?」
「そうです。私含めて六人なんですけど、今のところ生産職の方はいないんです」
「でもアズ、まだレベルも低いし役に立たないと思う……。お金も返さないといけないし……」
せっかくなので勧誘してみたが、あまり乗り気じゃ無いようだ。
活発そうな顔をしているのに表情も暗い。
さっきの一件が響いているのかもしれない。
「大丈夫です、自信を持ってください。レベルなんてすぐに上げられますよ! 何か遠慮しているのであれば、さっきのお金は契約金だと思って貰えれば」
「契約金?」
「そうです。アズールさんを見込んで、是非払いたいと思ったお金です。私達の仲間になってもらえたら、それだけで私は嬉しいです」
「……分かった。アズを、お姫様の仲間にしてください!」
少し強引過ぎたかと思ったが、アズールは頷いてくれた。
しかし、アズールにまでお姫様と呼ばれるとは。
「ありがとうございます。……お姫様?」
「さっきそこの忍者さんがそう言ってたから。それに、お姫様みたいにすっごく可愛いし!」
「ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね、アズールさん」
「アズって呼んで、お姫様!」
「はい、分かりました」
「忍者さんもよろしくね!」
「拙者はサンゾウでござる。よろしく頼むでござるよ、アズ殿」
アズが仲間になった。
ギルドはまだないけど、ギルドメンバーが増えて嬉しいぜ。
明るい茶髪をツインテールにした素朴なロリを仲間に出来るなら、五万ぽっち払ったところで痛くも痒くもないな!
「さあ、ケーキも食べてください。美味しいですよ」
「うむ、この甘夏大福も絶品でござるよ。おひとつどうぞでござる」
「わーい、ありがと!」
▽
スイーツとお茶を楽しんだ後、俺達は狩りに行くことにした。
時間はまだ六時前で、夕飯までまだ時間があるとアズが言ったからだ。
場所は一層≪南の森≫。
初心者が≪西の平原≫の次に狩りをするような、難易度の低い場所だ。
アズはこういったゲーム自体に馴染のない、ホヤホヤの初心者だった。
よく知らない内からパワーレベリングをするのは飽きるのも早いという理由でのチョイスだ。
「さー、頑張って狩りましょう」
「アズ殿、拙者がタゲを受け持つので一匹ずつ相手するでござるよ」
「う、うん!」
それに、ここは動物系のモンスターが多い。
ギルドの作成に必要な素材集めも出来て一石二鳥だ。
「えいっ!」
「そうそう、その調子でござる。よく狙って振るでござるよー」
「うん!」
この森はアクティブモンスターはほとんどいない。
サルやリスやクマ等の動物型のモンスター達が呑気に歩いているのを、近づいて攻撃する形だ。
≪ウルフ≫というそのまんまな狼型モンスターだけはアクティブなので、見つけ次第サンゾウが倒してしまう。
「やっ! たぁっ!」
「アズ殿は筋がいいでござるなー」
「ほんと!?」
「ほんとにござるよ」
「やったー! お姫様も、見てた? 今の見てた!?」
「はい、ちゃんと見てますよ」
むしろ見てしかない。
俺も杖でぶん殴ろうと思ったんだが、アズに見ててと言われて手を出していない。
多分、アズより弱いかもしれないんだけどな、俺。
「よーし、どんどん狩るよー!」
アズは順調に≪キッキー≫やらを手にした棍棒でしばき倒している。
武器が棍棒なのはちょっとシュールだな。
そんなに強くない狩場とはいえ、アズのステータスは戦闘に向いてない上に初期装備だ。
偶にダメージを食らうこともあれば、苦戦することもあった。
それでも俺が回復したり、サンゾウがターゲットを持ったりすることで、楽しく狩りが出来た。
休憩を挟みつつもたっぷり一時間程狩りをした。
サンゾウはご飯は済ませたらしいが、アズは一旦ログアウトするそうだ。
俺も晩御飯はまだだし、ついでにログアウトすることに決めた。
「それではアズさん、また後でこの場所に来てくださいね。皆に紹介しますから」
「うん、分かった!」
「それではお二人とも、また後で」
「またねー!」
「また後で、でござる」
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