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第2話:転生と再会
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自分の身体が、少し軽い気がした。
制服の袖も、いつもより短い。
声変わり前のような喉の感触。
僕は本当に、中学三年生に戻っていた。
最初の数時間は、現実を拒絶していた。
鏡を何度見ても、そこにいるのは三年前の僕。
携帯の連絡先には、まだユイの名前すらない。
机の中から出てきたのは、受験対策プリント。
日付は「4月13日」――彼女と出会う、少し前の春。
どうしてこんなことになった?
頭の中がぐるぐる回る。夢にしては、あまりに鮮明だ。
いや、夢だったとしてもいい。
もしこれが現実なら――やり直せる。
「ユイを……救えるかもしれない。」
________________________________________
転校生がやってきたのは、4月20日の月曜日だった。
中学三年生になって最初の週。
その日だけは、はっきり覚えている。
あの時、教室の空気が変わったのだ。
「じゃあ、自己紹介どうぞ」
担任の声に、前に立つ少女は、静かに一礼した。
「天野ユイです。よろしくお願いします」
その声を聞いた瞬間、僕の心臓は跳ね上がった。
やっぱり、彼女だ。
制服は違う。髪型も、少し幼い。
でも、間違えるはずがない。
あの日、僕の腕の中で目を閉じた彼女。
僕が、守れなかった彼女。
彼女は今、目の前にいる。
何も知らない顔で、まるで初めて会ったように微笑んでいる。
彼女は空いていた窓側の席に座った。
僕の斜め後ろ、二つ隣の列。
同じクラスになったのは偶然じゃない。
――これは、神様がくれたチャンスだ。
でも、それは同時に、恐怖でもあった。
この世界が、どれだけの代償を求めてくるのか。
________________________________________
数日後、彼女は昼休みに僕に声をかけてきた。
「ねえ、相沢くん。体育のとき、走るの速かったよね?」
「……え?」
「リレー、見てた。アンカーでしょ? かっこよかったよ」
その笑顔に、僕は言葉を失った。
以前のユイとは違う。けれど、変わらない温かさがある。
僕はぎこちなく「ありがとう」とだけ返した。
彼女は特に気にする様子もなく、他の女子たちと話しながら戻っていった。
なんて自然に、彼女は人の心に入ってくるんだろう。
……いや、違う。“戻ってくる”んだ。
僕の中にある記憶に、彼女の仕草や声が重なっていく。
目を閉じれば、映画館の薄暗い照明の下で笑っていた彼女。
パン屋の前で悩んでいた彼女。
そして――あの日、最後に見た、泣きそうな顔。
僕の頭の中には、まだ“死”の記憶が焼き付いている。
彼女は、この時間軸でも、同じ運命に向かって進んでいるのかもしれない。
そう思うと、怖くてたまらなかった。
でも、逃げるわけにはいかない。
今度こそ、救う。それが、この転生に託された意味だと信じたい。
________________________________________
それからの僕は、少しずつ彼女と距離を縮めていった。
話しかける頻度は、控えめに。
でも、帰り道が偶然一緒になったときは、ちゃんと横に並んだ。
昼休みに本を読んでいる彼女のそばに座ってみたり、彼女が困っていたプリントをそっと渡してみたり。
少しずつ、少しずつ、時間をかけて。
彼女はそんな僕を不思議そうに見ていたけど、次第に自然な笑顔を向けてくれるようになった。
僕たちはまた――いや、初めて、友達になっていった。
________________________________________
ある日の放課後、夕焼けの校舎裏。
風が柔らかく吹くなか、ユイがふいに言った。
「ねえ、相沢くんってさ……昔、私と会ったことある?」
心臓が止まりそうになった。
「なんか、すごく変なこと言うけど……時々、夢を見るの。知らないはずの景色で、誰かと笑ってる夢。声は聞こえないのに、すごく懐かしい感じがするの」
彼女の目が、真っ直ぐ僕を見ていた。
「……その“誰か”って、僕?」
彼女は、少しだけ驚いた顔をして、ゆっくり頷いた。
「……うん。そうかも。自分でも、よくわからないけど」
沈黙が流れた。赤い陽が、彼女の髪を照らしていた。
言いたかった。
「君は僕の大切な人だったんだ」って。
「君を、過去に失ったんだ」って。
でも、それを言った瞬間にすべてが壊れそうな気がした。
だから僕は、微笑んで言った。
「じゃあ、これからまた会っていこうよ。ちゃんと、今から」
ユイは少し驚いた顔で、でもすぐに笑った。
「……うん、そうだね」
その笑顔を見て、僕は心の中で誓った。
この時間軸こそ、彼女を救う。今度こそ、絶対に。
制服の袖も、いつもより短い。
声変わり前のような喉の感触。
僕は本当に、中学三年生に戻っていた。
最初の数時間は、現実を拒絶していた。
鏡を何度見ても、そこにいるのは三年前の僕。
携帯の連絡先には、まだユイの名前すらない。
机の中から出てきたのは、受験対策プリント。
日付は「4月13日」――彼女と出会う、少し前の春。
どうしてこんなことになった?
頭の中がぐるぐる回る。夢にしては、あまりに鮮明だ。
いや、夢だったとしてもいい。
もしこれが現実なら――やり直せる。
「ユイを……救えるかもしれない。」
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転校生がやってきたのは、4月20日の月曜日だった。
中学三年生になって最初の週。
その日だけは、はっきり覚えている。
あの時、教室の空気が変わったのだ。
「じゃあ、自己紹介どうぞ」
担任の声に、前に立つ少女は、静かに一礼した。
「天野ユイです。よろしくお願いします」
その声を聞いた瞬間、僕の心臓は跳ね上がった。
やっぱり、彼女だ。
制服は違う。髪型も、少し幼い。
でも、間違えるはずがない。
あの日、僕の腕の中で目を閉じた彼女。
僕が、守れなかった彼女。
彼女は今、目の前にいる。
何も知らない顔で、まるで初めて会ったように微笑んでいる。
彼女は空いていた窓側の席に座った。
僕の斜め後ろ、二つ隣の列。
同じクラスになったのは偶然じゃない。
――これは、神様がくれたチャンスだ。
でも、それは同時に、恐怖でもあった。
この世界が、どれだけの代償を求めてくるのか。
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数日後、彼女は昼休みに僕に声をかけてきた。
「ねえ、相沢くん。体育のとき、走るの速かったよね?」
「……え?」
「リレー、見てた。アンカーでしょ? かっこよかったよ」
その笑顔に、僕は言葉を失った。
以前のユイとは違う。けれど、変わらない温かさがある。
僕はぎこちなく「ありがとう」とだけ返した。
彼女は特に気にする様子もなく、他の女子たちと話しながら戻っていった。
なんて自然に、彼女は人の心に入ってくるんだろう。
……いや、違う。“戻ってくる”んだ。
僕の中にある記憶に、彼女の仕草や声が重なっていく。
目を閉じれば、映画館の薄暗い照明の下で笑っていた彼女。
パン屋の前で悩んでいた彼女。
そして――あの日、最後に見た、泣きそうな顔。
僕の頭の中には、まだ“死”の記憶が焼き付いている。
彼女は、この時間軸でも、同じ運命に向かって進んでいるのかもしれない。
そう思うと、怖くてたまらなかった。
でも、逃げるわけにはいかない。
今度こそ、救う。それが、この転生に託された意味だと信じたい。
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それからの僕は、少しずつ彼女と距離を縮めていった。
話しかける頻度は、控えめに。
でも、帰り道が偶然一緒になったときは、ちゃんと横に並んだ。
昼休みに本を読んでいる彼女のそばに座ってみたり、彼女が困っていたプリントをそっと渡してみたり。
少しずつ、少しずつ、時間をかけて。
彼女はそんな僕を不思議そうに見ていたけど、次第に自然な笑顔を向けてくれるようになった。
僕たちはまた――いや、初めて、友達になっていった。
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ある日の放課後、夕焼けの校舎裏。
風が柔らかく吹くなか、ユイがふいに言った。
「ねえ、相沢くんってさ……昔、私と会ったことある?」
心臓が止まりそうになった。
「なんか、すごく変なこと言うけど……時々、夢を見るの。知らないはずの景色で、誰かと笑ってる夢。声は聞こえないのに、すごく懐かしい感じがするの」
彼女の目が、真っ直ぐ僕を見ていた。
「……その“誰か”って、僕?」
彼女は、少しだけ驚いた顔をして、ゆっくり頷いた。
「……うん。そうかも。自分でも、よくわからないけど」
沈黙が流れた。赤い陽が、彼女の髪を照らしていた。
言いたかった。
「君は僕の大切な人だったんだ」って。
「君を、過去に失ったんだ」って。
でも、それを言った瞬間にすべてが壊れそうな気がした。
だから僕は、微笑んで言った。
「じゃあ、これからまた会っていこうよ。ちゃんと、今から」
ユイは少し驚いた顔で、でもすぐに笑った。
「……うん、そうだね」
その笑顔を見て、僕は心の中で誓った。
この時間軸こそ、彼女を救う。今度こそ、絶対に。
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