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第3話:繰り返す恋と喪失
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彼女を救えるはずだった。
一度、あの悲劇を経験してしまえば、同じ轍は踏まない。
何も知らなかった前とは違う。
僕は、彼女の運命を知っている。
でも――世界は、それだけでは変わらなかった。
◆第一周目のやり直し(2周目)◆
ユイの死の原因となった交通事故は、4月28日、午後6時32分。
それは、交差点で偶然起きたものだった。
トラックのブレーキ故障。暴走。避けようのない事故。
だから、僕はその日、ユイを事故現場に近づけないようにした。
放課後の会話を早めに切り上げて、別の道を提案する。
「パン屋じゃなくて、図書館行こうよ」
彼女は「珍しいね」と微笑んで、素直についてきてくれた。
僕は心の中で何度も拳を握った。
これで、助かる。今度こそ。
だが、その夜。
図書館の帰り道。彼女が自転車に乗って帰宅していた時――
信号無視の車に跳ねられて、死亡した。
聞いた時、何かの冗談だと思った。
逃げるように家を飛び出し、病院に駆けつけた。
彼女は、ベッドの上で動かなくなっていた。
目の前が、真っ白になった。
同じように救おうとして、違う形で失った。
どうして――?
どうして、世界は彼女を殺そうとするんだ?
◆第二周目のやり直し(3周目)◆
今度は、もっと大胆な方法を取ることにした。
彼女と仲良くならないこと。
ユイに関わらなければ、彼女の運命を狂わせることもない。
それが、彼女を守る最善だと信じた。
話しかけられても、そっけなく答える。
彼女が落としたプリントも拾わない。
一切の関係を、遮断するように。
その年の秋。
修学旅行で泊まった旅館で、夜中に起きた火災。
避難が遅れたユイは、煙を吸って病院に運ばれ、そのまま帰らぬ人となった。
――ユイは、また死んだ。
僕が、何もしなかったその世界でも。
◆第三周目のやり直し(4周目)◆
絶望していた。
どんなに努力しても、死は彼女を追いかけてくる。
それなら、今度は――
彼女と過ごせる時間を、最後まで大切にしよう。
僕は、積極的に彼女に近づいた。
些細な冗談で笑わせて、放課後は毎日一緒に帰った。
文化祭ではペアで展示をやった。
体育祭のリレーでは手を引いて走った。
そして、告白した。
震える声で、胸が痛いほど緊張して、
「ずっと前から……君のことが、好きだった」と言った。
彼女は、泣きながら笑ってくれた。
「私も……そう思ってた」
その言葉を聞けた瞬間、僕は生まれて初めて幸せという感情を知った。
――1週間後。
彼女は学校に来なくなった。
病名は「先天性の心疾患」。
もともと持っていた病気が、急激に悪化した。
彼女の両親は「最近、何かストレスになることがなかったか」と話していた。
……ああ、そうか。
僕が、原因だったのかもしれない。
どれだけ形を変えても、どれだけ彼女に近づいても、
運命は彼女を連れていく。
彼女の死は、変えられない構造なのかもしれない。
そう思った瞬間、
全ての時間が、音も色も匂いも奪っていった。
◆第四周目の始まり(5周目)◆
目が覚めたとき、僕はもう、怒りも悲しみも湧かなかった。
ただ、冷たくなった彼女の手の感触だけが、永遠に離れない。
転生のたびに、“記憶”は持ち越される。
でも“感情”は、回数を重ねるほど薄れていく気がした。
彼女の声、表情、髪の匂いさえも、少しずつ違って見える。
それなのに、僕はまた彼女を愛してしまう。
こんなこと、いつまで繰り返すんだろう。
彼女を失い続けるこの地獄を、
あと何度、味わえば許されるのだろう。
そのときだった。
5周目のユイが、ふと僕を見て呟いた。
「ねえ……なんか、変な夢を見たの。知らないのに、懐かしい夢」
僕は、ハッとした。
――前も、そんなことを言っていた。
彼女もまた、転生の“何か”に触れているのかもしれない。
ならば、僕がやるべきことは、ただの事故の回避じゃない。
もっと根源的な“運命”そのものに、立ち向かうこと。
次で終わらせる。
次こそ、本当に彼女を守る。
そう誓った。
一度、あの悲劇を経験してしまえば、同じ轍は踏まない。
何も知らなかった前とは違う。
僕は、彼女の運命を知っている。
でも――世界は、それだけでは変わらなかった。
◆第一周目のやり直し(2周目)◆
ユイの死の原因となった交通事故は、4月28日、午後6時32分。
それは、交差点で偶然起きたものだった。
トラックのブレーキ故障。暴走。避けようのない事故。
だから、僕はその日、ユイを事故現場に近づけないようにした。
放課後の会話を早めに切り上げて、別の道を提案する。
「パン屋じゃなくて、図書館行こうよ」
彼女は「珍しいね」と微笑んで、素直についてきてくれた。
僕は心の中で何度も拳を握った。
これで、助かる。今度こそ。
だが、その夜。
図書館の帰り道。彼女が自転車に乗って帰宅していた時――
信号無視の車に跳ねられて、死亡した。
聞いた時、何かの冗談だと思った。
逃げるように家を飛び出し、病院に駆けつけた。
彼女は、ベッドの上で動かなくなっていた。
目の前が、真っ白になった。
同じように救おうとして、違う形で失った。
どうして――?
どうして、世界は彼女を殺そうとするんだ?
◆第二周目のやり直し(3周目)◆
今度は、もっと大胆な方法を取ることにした。
彼女と仲良くならないこと。
ユイに関わらなければ、彼女の運命を狂わせることもない。
それが、彼女を守る最善だと信じた。
話しかけられても、そっけなく答える。
彼女が落としたプリントも拾わない。
一切の関係を、遮断するように。
その年の秋。
修学旅行で泊まった旅館で、夜中に起きた火災。
避難が遅れたユイは、煙を吸って病院に運ばれ、そのまま帰らぬ人となった。
――ユイは、また死んだ。
僕が、何もしなかったその世界でも。
◆第三周目のやり直し(4周目)◆
絶望していた。
どんなに努力しても、死は彼女を追いかけてくる。
それなら、今度は――
彼女と過ごせる時間を、最後まで大切にしよう。
僕は、積極的に彼女に近づいた。
些細な冗談で笑わせて、放課後は毎日一緒に帰った。
文化祭ではペアで展示をやった。
体育祭のリレーでは手を引いて走った。
そして、告白した。
震える声で、胸が痛いほど緊張して、
「ずっと前から……君のことが、好きだった」と言った。
彼女は、泣きながら笑ってくれた。
「私も……そう思ってた」
その言葉を聞けた瞬間、僕は生まれて初めて幸せという感情を知った。
――1週間後。
彼女は学校に来なくなった。
病名は「先天性の心疾患」。
もともと持っていた病気が、急激に悪化した。
彼女の両親は「最近、何かストレスになることがなかったか」と話していた。
……ああ、そうか。
僕が、原因だったのかもしれない。
どれだけ形を変えても、どれだけ彼女に近づいても、
運命は彼女を連れていく。
彼女の死は、変えられない構造なのかもしれない。
そう思った瞬間、
全ての時間が、音も色も匂いも奪っていった。
◆第四周目の始まり(5周目)◆
目が覚めたとき、僕はもう、怒りも悲しみも湧かなかった。
ただ、冷たくなった彼女の手の感触だけが、永遠に離れない。
転生のたびに、“記憶”は持ち越される。
でも“感情”は、回数を重ねるほど薄れていく気がした。
彼女の声、表情、髪の匂いさえも、少しずつ違って見える。
それなのに、僕はまた彼女を愛してしまう。
こんなこと、いつまで繰り返すんだろう。
彼女を失い続けるこの地獄を、
あと何度、味わえば許されるのだろう。
そのときだった。
5周目のユイが、ふと僕を見て呟いた。
「ねえ……なんか、変な夢を見たの。知らないのに、懐かしい夢」
僕は、ハッとした。
――前も、そんなことを言っていた。
彼女もまた、転生の“何か”に触れているのかもしれない。
ならば、僕がやるべきことは、ただの事故の回避じゃない。
もっと根源的な“運命”そのものに、立ち向かうこと。
次で終わらせる。
次こそ、本当に彼女を守る。
そう誓った。
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