告白されたら爆発する呪いについて

永文

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第5話:たとえ爆発しても

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 春が、本格的に訪れた。
 桜は散り際に入り、風に舞う花びらが空を流れていく。
 校舎の窓から見える景色は、ほんの少しだけ、去年と違って見えた。

 昼休み。教室の片隅、俺は窓際の席でぼんやりと外を眺めていた。

「斑目、お前……最近、全然爆発しねぇな」

 声の主は、いつもどおり椎名圭吾。
 教室の空気を濁すことなく、唐突なひと言をぶっ込んでくるあたり、いつも通りすぎてありがたい。

「言い方もうちょっと何とかならなかったのか?」

「いやいや、“爆発する男”って肩書きが消えたの、わりと重大ニュースだぞ?」

「そんな肩書き、欲しくもなかった」

 言いながらも、心のどこかで苦笑がこぼれる。
 確かに、もう“あの痛み”はない。
 告白されても、怖くない。
 誰かの好意に、怯えなくなった。
 いや――正確には、“怯えそうになったとき”、そばにいてくれる人がいる。

「今日、灯ちゃん来るの?」

「うん。昼過ぎに図書室で待ち合わせ」

「まーた本読むのか、二人きりで」

「落ち着くんだよ。あそこ、静かで」

「なるほど、“爆発しない空間”ってやつか。やれやれ、青春ってやつだな」

 圭吾は口では茶化すくせに、なんだかんだ気遣ってくれる。
 俺の“変化”を誰よりも近くで見ていたのは、たぶん彼だった。

(本当に、変われたんだな)

 ふと、あの日の屋上の風を思い出す。
 言えなかったことを、言えた日のことを。
 あの瞬間から、時間が少しずつ前に進み始めた気がする。

________________________________________

 図書室の窓辺に、灯はもう座っていた。
 お気に入りのページを開いたまま、視線は本ではなく、空の向こうに向いている。

「待たせた?」

「ううん。ちょっと早く着いただけ」

 自然に隣に座る。
 ほんの少しだけ触れる肩と肩。
 その距離が、何より安心できる。

「ねえ、直哉」

「ん?」

「私たち、こうしてるけどさ――また、いつか怖くなるかもしれないよね」

「うん。たぶん、そうだな」

「じゃあ、そのときはどうする?」

「……爆発するかもな」

 灯は驚いた顔をして、すぐに笑った。

「え、それでいいの?」

「うん。だって、隣にお前がいるなら、爆発したって構わないって思える」

 静かな沈黙が流れる。
 でも、それは心地のいい静けさだった。
 灯がそっと、俺の手を握る。
 もう、心臓は痛まない。
 それでも、伝えたい言葉はある。

「好きだよ、灯」

「私も、直哉が好き」

 それだけで、十分だった。

________________________________________

 人生には、言えないままで終わってしまう言葉が、いくつもある。
 怖くて、踏み出せなくて、失うのが嫌で。

 だけど、もし――その一言が、未来を変える鍵になるとしたら?

 俺はもう、迷わない。
 たとえ爆発しそうになったって。
 たとえ、また心が揺れたって。

「ちゃんと、言葉にするよ。何度でも」

 その声が、春風に乗って、そっと空へ消えていった。

 呪いはもう、どこにもない。
 ただここにあるのは、
 言えなかった気持ちを、ようやく言えたふたりの、はじまりの風景だった。
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