天使過ぎる可愛いクラスメイトと一途過ぎる可愛い後輩、どっちを選べばいいんだ!?

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夏休み 四章 海水浴とそれぞれの夢

021 神崎さんの「ワトソンくん・・・、それはだね~」というホームズの真似は可愛い

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 醜態をさらしたサンドアートから解放され、ふて寝をしようとパラソルの下で寝そべっていた時、俺の頬にキンキンに冷えてやがる金属製の何かが触れた。

 驚いて飛び起きると、いたずらな笑みを浮かべながら、ポカリスエットの缶を持つ神崎さんの姿があった。

「大変だったね~、お疲れさま。雪くん、のど乾いてない?」

 そう言って、神崎さんは俺の隣にちょこんと腰を下ろし、ポカリの缶を俺に差し出した。

「え、もらっていいの……? ありがとう。」

「いえいえ~、こちらこそさっきは助けてくれてありがとうね。」

「どうしたしまして。ありがとう。」

 そう言って、俺は神崎さんから結露の雫が光るポカリを受け取った。

――あれ?

「……。」

 っていうか、このポカリ封開いてるし……、若干中身が少なくなってる……。もしかして、このポカリって神崎さんが飲んでたやつか!? まじでか? これは「私と関節キスしてもいいよ!」ってことなのか? いや、待て待て……神様に試されてるのだろうか……どうなんだっ!?

 欲望と理性の狭間にいた俺に、神崎さんは突然、「雪くん、サッカー部のキャプテンになったんだね。」と部活の話題を切り出した。

「っえ? なんで……神崎さんがそれを知ってんの?」

 サッカー部のキャプテンになったことは、神崎さんにはまだ伝えていない。驚いてそう尋ねると、神崎さんは少し含みのある笑顔を見せた。

「えへへ~。ワトソンくん……、それはなぜかと言うとだね~。ヒントその一、私だって夏休みは部活で高校に行ってるのだよ。」

 神崎さんは指を一つぴんと立てて、ヒントその一を提示した。ホームズを意識しているのか、探偵っぽい語り口になってるのが可愛くて、話の内容があまり入ってこない。

 えっと……、吹奏楽部も、夏休みは部活で高校に行っているがヒントか。なるほど、なるほど……。駄目だっ、やっぱり神崎さんが可愛いということにしか頭が働かない。

「うーん、まだわからないかな? ヒントその二、最近の私はグランド前の石段の近くで、個人練習をしているのだよ。」

 神崎さんはもう一本指をぴんと立てて、ヒントその二を提示した。グランドと校舎を繋ぐ石段からなら、サッカー部の活動の様子もよく見えるだろう。そこからサッカー部の練習風景を見ていたら、俺がキャプテンになった事に気づいてもおかしくない。

 いや……、でも夏休みに入ってからというもの、神崎さんの姿を俺は見た記憶がないのだけれど。もし傍に神崎さんがいたら、俺の中の神崎センサーが反応し、間違いなくすぐに気が付いているはずだ。

 しかし、結局それ以外の答えは思い浮かばず、「サッカー部の練習を見て、俺がキャプテンになったって気づいたの?」と神崎さんに尋ねた。

「うん。正解だよ!」

 神崎さんはにこっとほほ笑みを浮かべた。

「雪くんは部活に一生懸命集中してて、全然気づかなかったかもだけどね。私、最近グラウンドの石段のところで個人練習してるんだ~。」

「そうだったんだ……。全然気付かなかった……。」

「そしたら、前までよりも雪くん、部活ですごく頑張って声出してたし、雪キャプテン~って後輩から呼ばれてるの聞こえてきたからね。」

 そっか……、そうだったのか。神崎さんが傍にいるのに気が付かなかったなんて……。以前の俺では考えられないことだ。神崎さんへの恋心を失くそうと試みている俺にとって、これはほんのわずかな事だが、確実に一歩成長したと言える。この一歩は小さいが、人類にとっては偉大な一歩である!

「……。」

 でも、どこか……、何となく少し寂しいような感覚がした……。そしてその事には気が付かないように俺は努めた。

「キャプテンなんてすごいなぁ。さすが雪くんだね。」

 神崎さんは少し上目遣いになり、感心するような表情で俺を眺めた。水に濡れた彼女の前髪が、なんとも色っぽく見えてしまう。

「いや、ちゃんとキャプテンできてるのか……、正直分かんないんだけどね。サッカーだって、子供の頃に無理やり地元のクラブチームに入らされて……それで高校も何となく続けてるって部分あったし……。」

 もちろん、キャプテンとして任命された以上は、責任感を持って人一倍頑張らなければと思っている。だが、部活にだけ俺の全て捧げるというほどの熱意はない。

「そっかぁ。雪くんはサッカー好きじゃないの?」
「……。」

 神崎さんの唐突な質問に、俺は何と返答するべきか言葉に詰まった。

「好き……と聞かれたら、もちろん好きだと思う……。でも、練習が辛いときもあるし、別にプロのサッカー選手になろうとしてるわけでもないし……。」

 神崎さんは、上手くまとまらない俺の話を、最後まで静かに耳を傾けてくれていた。

「それに……部活よりも、他にも大事な事もいっぱいあると思うし、そっちでも今は色々悩んで……、サッカーは好きだけど、それだけにかまけてるっていうわけにもいかないのかな。でも、そんな自分が中途半端なんじゃないかって思ったりもして……。ごめん、あんまり話がまとまらなくて。」

 そう頭を下げる俺に対して、神崎さんは「ううん、雪くんの言いたいことはわかるよ。」とほほ笑んだ。

「だから俺は……部活にしても、他のことにしても、そんなに……上手くできてる自信はないかな。もっと一つのことに打ち込んだり、一つの事に自分の心を捧げられたら、きっともっと上手くできるのかもしれないんだけど……」

 勉強と部活のことだって、俺は中途半端な努力をし、それに見合ったBからA-くらいの評価を得ているだけだ。自分からA+、Sの評価を得るため全力で努力しようとはしない。

 将来のことだって同じだ。特にこれと言って夢もなく、それなりにいい大学に行ければいいかぐらいに思っている。いつか本当にやりたいことが見つかればいいと思っているが、そんなものいつ見つかるんだ? 

――神崎さんとちろるの事もそうだ。自分の心に対し、いつも中途半端で決心がつけられない。いつになったら決められるんだ? そんな自分が嫌になってしまう。

 神崎さんは、そんな俺に対して優しく微笑みながらこう言った。

「うん……そっか。でも私は、“雪くんは”今のままでいいと思うんだ。」
「えっ?」

 “雪くんは”という言葉が、妙に強調されて聞こえた気がした。

「あっ、変な意味じゃなくてね……。雪くんは頭がよくて、色々なことがわかるから、その分多くのことで悩むのかもしれないと思うんだ。」

 静かに神崎さんの意図する言葉に耳を傾ける。

「だけど雪くんは――、きっと色々な事を同時にやったり、考えたりしながらでも、ちゃんと全部上手くこなせる人だと思う。もし一つに選ばなくちゃ駄目な時も、その時になれば自分の選ぶべき道もわかる。だから、雪くんは今のままでいいと思うよ。」

 何の根拠もない言葉だ。しかし、神崎さんの言葉はお世辞でも何でもなく、彼女の見た俺を飾り付けなく評価してくれていると感じた。

「……そうかな。」

 一つに専心するのではなく、今自分ができる事やするべき事に幅広く務め、そして自分の選ぶべき道を悩み続ける。それで本当にいいのだろうか。

「それにさ、何か一つに決めて全部を捧げるって大変だし、それが……正しいかどうかも、自分がどうしたいのかだってわからない時があるから……。悩んでるって事は、真剣に考え続けてるって事だから……、私は何も悪くないと思うよ。ごめんね、私も話が上手くまとまらないや。」

 神崎さんは慈愛に満ちた表情で、俺をやさしく包み込むように語りかける。

「――うん。雪くんなら……きっと大丈夫だよ。」

 なんだか、胸の奥がぽかぽかと温められるような感覚がした。神崎さんは、やっぱりただ可愛いのではなく、人として尊敬できる素敵な人だ。

「……ありがとう。神崎さんの言いたい事は……とってもよくわかったし、すごく励まされた。」

「そっか。よかった~。」

 神崎さんはそう言って、少し照れくさそうに笑った。
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