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二学期 二章 妹の体育祭
010 家族と仕事と友達はそれ相応に大事
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昼食が終わり、体育祭午後の部が始まった。全校女子生徒による表現ダンスは中学生女子のあどけない様子が可愛らしかったが、風花はあまり気のりしないのか、超気だるそうに両手に持ったポンポンを適当に振り回していた。
「風花のやつ、やる気ねぇなぁ。」
俺の言葉に、母はふっと小さく笑った。
「あら、あれはあれで可愛いじゃないの。」
おそらく、「何故、踊らなくてはいけないんだ! しかもダンスの曲や振りを教師が決めるとか、もはや教師の自己満足じゃないか! 操り人形じゃないぞ。」とでも文句たらたらだったに違いない。一方の絵梨ちゃんも、とても恥ずかしそうにおどおどとダンスをしていた。
「うーん、なぁ母さん。風花は何か打ち込めるものとかってないのかなぁ。」
基本的にスペックの高い風花だから、何か真剣に相応の時間と努力を捧げられるものがあれば、きっとその分野で大成できるはずだと思う。軟式テニス部に入っていたが、それも中二の反抗期の際に結局やめてしまっている。
「風花はまだ中学生でしょ。それこそ人の事よりも、進路についてはあんたの方が真剣に考えなきゃ駄目でしょ?」
「仰る通りでございます……。」
「少し前の時代なら、いい大学に入って大企業に就職するのが成功する幸せへの道だと思われてたけど、今は随分と社会も、働き方も、幸せの形も変わっているのよ。幸せになりたければ、頭を使い考えなさい。」
「そう言われても……困ったことに、何が向いているのかも、やりたい事なのかもわからないんだなぁこれが。」
以前ならそれが普通だと切り捨てていた。
しかし最近は、少し焦りを感じないでもない。
「まぁ普通はそんなもんよ。でも、幸せになるためには、家族と仕事と友達は――それ相応に大事なものだと思う。そして私は、その三つにおいて相応に満足している。」
家族と仕事と友達――確かに相応に大事だろう。
「そうなんだ。あんまり母さんとこういう話した事ないな。」
「お父さんとはあるの?」
「いや、それもないな。」
「今度お酒でも飲みながら話してみたら?」
「まだ未成年なのですけど……ってか、公務員がそんな事言っていいのかよ。」
「公務員だって人間よ。学校の教師だって、聖職者だって、総理大臣だって、どんな偉そうな人もみんなただの人間。そして人間である以上、悪い事をしていない人間なんていない。」
「そんなもんかなぁ。」
「そんなもんよ。」
その後も滞りなくプログラムは進み、風花たちの体育祭は終了した。
中学の体育祭が終わった夜、姉貴と父は家に帰るとすぐに俺の撮った写真と、母の撮ったビデオを見たがった。
「おい雪。ちゃんと風花の写真を撮ったんだろうな?」
学校では泣く子も黙る生徒会長――青葉吹雪は帰宅して風花に労いの言葉をかけた後、鬼気迫る勢いで俺にそう詰め寄ってきた。
「さすが末っ子は人気だなぁ。ってか、姉貴もなかなかのシスコンだよな。」
「そりゃ、お前よりは風花の方が百倍可愛いに決まっているだろう。」
「まぁ否定しないけども……。」
姉貴に撮った写真を見せてやると、「おぉ、頑張っているじゃないか」と喜々とした様子であった。
「うん? この女子生徒に風花が肩をかしてるのは何だ?」
「あぁ、それは徒競走中に隣のレーンでこけた子を、風花が助けてるところだ。」
「なんと!? 風花、なんて素晴しいんだ。私の妹として誇りに思うよ。」
そう言って、姉貴は風花の頭をわしわしと撫でた。
「ちょっと、お姉ちゃん恥ずかしいよ///」
そう言いながらも、風花もまんざらではなさそうである。確かにこれは凄い事だと俺も感心した。
実をいうと、あの後に絵梨ちゃんがこっそり教えてくれたことなのだが、このこけた女子生徒は、風花が中二の時に絵梨ちゃんの件でもめた女子生徒だったらしい。それ以来ずっと犬猿の仲だったそうだが、それでも風花はゴール寸前にこけてしまった彼女に肩をかしたのだ。
俺ならそれはできない。というか普通はできない。
「風花は今日よく頑張ってたよ。まぁダンスは酷かったけど。」
母が撮ったダンスの映像を眺めながら言った俺の言葉に、風花は不服そうな顔をこちらに向けた。
「うるさいなぁ。やりたくなかっただけで、やればできるんだから。」
やればできるって言葉は、基本的にはマイナスな意味合いの言葉だ。できるやつは最初からやるのである。しかし、やりたくないという強い意志があるこの場合、そう簡単にマイナスな意味合いではとれないか。
「高校の体育祭は来週だよね……? それって、私も見に行ってもいい……かな?」
風花の突然の申し出に、姉貴と俺は顔を見合わせた。
「あぁ、別に構わないけど……さすがに高校にもなると、あまり生徒の家族が来ることはないぞ?」
「うん、それでもいいの。お姉ちゃんとお兄ちゃんが通う高校の事、もう少し知りたいって思っただけだから。」
少し照れながら言う氷菓。
それを微笑んで見つめる姉貴。
「そっか。風花も受験だもんな。」
風花も彼女なりに、自分の進路の事を考えているのだ。
俺も進路の事を真剣に考えなければいけない時期が近づいている。
しかし、まだ決定するまでにはいささかの時間は残されている。
「我が校の体育祭は生徒主導の一風変わったものになるだろう。楽しみにしていなさい。」
「はーい!」
そして翌週、俺たちの通う高校の体育祭の日がやってきた。
「風花のやつ、やる気ねぇなぁ。」
俺の言葉に、母はふっと小さく笑った。
「あら、あれはあれで可愛いじゃないの。」
おそらく、「何故、踊らなくてはいけないんだ! しかもダンスの曲や振りを教師が決めるとか、もはや教師の自己満足じゃないか! 操り人形じゃないぞ。」とでも文句たらたらだったに違いない。一方の絵梨ちゃんも、とても恥ずかしそうにおどおどとダンスをしていた。
「うーん、なぁ母さん。風花は何か打ち込めるものとかってないのかなぁ。」
基本的にスペックの高い風花だから、何か真剣に相応の時間と努力を捧げられるものがあれば、きっとその分野で大成できるはずだと思う。軟式テニス部に入っていたが、それも中二の反抗期の際に結局やめてしまっている。
「風花はまだ中学生でしょ。それこそ人の事よりも、進路についてはあんたの方が真剣に考えなきゃ駄目でしょ?」
「仰る通りでございます……。」
「少し前の時代なら、いい大学に入って大企業に就職するのが成功する幸せへの道だと思われてたけど、今は随分と社会も、働き方も、幸せの形も変わっているのよ。幸せになりたければ、頭を使い考えなさい。」
「そう言われても……困ったことに、何が向いているのかも、やりたい事なのかもわからないんだなぁこれが。」
以前ならそれが普通だと切り捨てていた。
しかし最近は、少し焦りを感じないでもない。
「まぁ普通はそんなもんよ。でも、幸せになるためには、家族と仕事と友達は――それ相応に大事なものだと思う。そして私は、その三つにおいて相応に満足している。」
家族と仕事と友達――確かに相応に大事だろう。
「そうなんだ。あんまり母さんとこういう話した事ないな。」
「お父さんとはあるの?」
「いや、それもないな。」
「今度お酒でも飲みながら話してみたら?」
「まだ未成年なのですけど……ってか、公務員がそんな事言っていいのかよ。」
「公務員だって人間よ。学校の教師だって、聖職者だって、総理大臣だって、どんな偉そうな人もみんなただの人間。そして人間である以上、悪い事をしていない人間なんていない。」
「そんなもんかなぁ。」
「そんなもんよ。」
その後も滞りなくプログラムは進み、風花たちの体育祭は終了した。
中学の体育祭が終わった夜、姉貴と父は家に帰るとすぐに俺の撮った写真と、母の撮ったビデオを見たがった。
「おい雪。ちゃんと風花の写真を撮ったんだろうな?」
学校では泣く子も黙る生徒会長――青葉吹雪は帰宅して風花に労いの言葉をかけた後、鬼気迫る勢いで俺にそう詰め寄ってきた。
「さすが末っ子は人気だなぁ。ってか、姉貴もなかなかのシスコンだよな。」
「そりゃ、お前よりは風花の方が百倍可愛いに決まっているだろう。」
「まぁ否定しないけども……。」
姉貴に撮った写真を見せてやると、「おぉ、頑張っているじゃないか」と喜々とした様子であった。
「うん? この女子生徒に風花が肩をかしてるのは何だ?」
「あぁ、それは徒競走中に隣のレーンでこけた子を、風花が助けてるところだ。」
「なんと!? 風花、なんて素晴しいんだ。私の妹として誇りに思うよ。」
そう言って、姉貴は風花の頭をわしわしと撫でた。
「ちょっと、お姉ちゃん恥ずかしいよ///」
そう言いながらも、風花もまんざらではなさそうである。確かにこれは凄い事だと俺も感心した。
実をいうと、あの後に絵梨ちゃんがこっそり教えてくれたことなのだが、このこけた女子生徒は、風花が中二の時に絵梨ちゃんの件でもめた女子生徒だったらしい。それ以来ずっと犬猿の仲だったそうだが、それでも風花はゴール寸前にこけてしまった彼女に肩をかしたのだ。
俺ならそれはできない。というか普通はできない。
「風花は今日よく頑張ってたよ。まぁダンスは酷かったけど。」
母が撮ったダンスの映像を眺めながら言った俺の言葉に、風花は不服そうな顔をこちらに向けた。
「うるさいなぁ。やりたくなかっただけで、やればできるんだから。」
やればできるって言葉は、基本的にはマイナスな意味合いの言葉だ。できるやつは最初からやるのである。しかし、やりたくないという強い意志があるこの場合、そう簡単にマイナスな意味合いではとれないか。
「高校の体育祭は来週だよね……? それって、私も見に行ってもいい……かな?」
風花の突然の申し出に、姉貴と俺は顔を見合わせた。
「あぁ、別に構わないけど……さすがに高校にもなると、あまり生徒の家族が来ることはないぞ?」
「うん、それでもいいの。お姉ちゃんとお兄ちゃんが通う高校の事、もう少し知りたいって思っただけだから。」
少し照れながら言う氷菓。
それを微笑んで見つめる姉貴。
「そっか。風花も受験だもんな。」
風花も彼女なりに、自分の進路の事を考えているのだ。
俺も進路の事を真剣に考えなければいけない時期が近づいている。
しかし、まだ決定するまでにはいささかの時間は残されている。
「我が校の体育祭は生徒主導の一風変わったものになるだろう。楽しみにしていなさい。」
「はーい!」
そして翌週、俺たちの通う高校の体育祭の日がやってきた。
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