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二学期 四章 生徒会選挙
018 「巨人は駆逐してやる!」と意気込む副会長
しおりを挟む暦は十月、そろそろ衣替えの時期だ。半袖の服を着る生徒も最近はめっきり見なくなった。
体育祭を終え、行事間における束の間の平常な日々。ただし平常であっても平穏とは限らない。
昼休みに自販機までぷらぷら外を歩いていると、唐突に声をかけられた。
「雪、ちょっと相談が――」
聞き覚えのある舌っ足らずな声、そして声の主の姿は見えない。二学期に入ってからよく見られるデジャブな怪奇現象。
「……幻聴か?」
「もういいでしょっ! ここよ、ここっ!」
ぴょんぴょん跳ねたるは、ちびっ子副会長の永森氷菓である。
「おぉ、小さくて視界に入らなかった。……さて、お前から依頼されるのはデジャブなんだけど……今度は何だよ? 来週からの生徒会選挙のことか?」
時期から察するにそれ以外にないだろう。
氷菓は「御明察ね。」とにこっとほほ笑んだ。
「ところで、お前の相談とやらを聞く前に、俺は喉が渇いたのだけど……」
「……なによ? 今時、法律相談所だって話を聞くだけなら無料なのに、雪は友達からの相談を聞くだけでジュースをたかるのね。」
「ちげーよ、ただ喉が渇いたって言っただけだ。相談ならジュースを買ってからゆっくり聞いてやるからさ。」
そう言って自販機に150円を入れる。ボタンを押そうとしてふと気が付いた。
「氷菓って、一番上の段の飲み物とか届かないだろ? ほら……、一番上の段のぐんぐんグルト、今なら俺がボタンを押してやるぞ。」
非常に不愉快そうな顔を浮かべ、氷菓は俺を見上げた。
「余計なお世話よ。」
「それにしても、俺が企業の人間なら、ぐんぐんグルトは一番下の段に設置するけどな。だって需要あるのは氷菓みたいなちびっ子なんだから――」
そこまで言った瞬間、氷菓は一番下の段のおしるこ(HOT)を押した。
「っおい! 勝手に押すな。ぐんぐんグルトのボタンに背が届かないからって僻むなよ。」
「うるさい、巨人は駆逐してやるっ!」
どこのイェーガーだ。
仕方なく熱いおしるこを啜りながら、ベンチに座って氷菓の話を聞いた。甘いお汁粉は余計に喉が渇く。
「っで、相談って何なんだよ。」
俺の問いに、氷菓はおずおずと口を開いた。
「実は……プロパガンダを一緒に考えてほしいと思って。」
なんだっけ、プロパガンダ……。
「プロパガンダ? あ、あぁ……プロパガンダね。うん、いいと思うよ。大事だもんね、プロパガンダ。」
ガンダムは関係ないし、政治用語だったかな。つい知ったかぶりしてしまった。そんな俺の心境を察してかどうかは知らないが、氷菓が補足をいれてくれた。
「プロパガンダ――簡単にいえば政治活動などにおける宣伝。」
最初から簡単に言えよ、このロリっ子め。
「も、もちろん知ってるとも……。なんだ――まだ考えてなかったのか、プロパガンダ。」
「うん……前に吹雪さまからアドバイスされて、色々考えてみた。それで自分の理想とすることはたくさん思いついたの。でも、うまくまとめられないというか……。短くわかりやすくアピールできればいいのだけど。」
「なるほど、氷菓の政治思想を聞いて、客観的な視点から短くまとめてほしいと。」
氷菓は小さな頭を縦に振った。
「話が早くて助かるわ。」
話が早いのが俺の百八ある長所の一つである。しかし、ここで一つの疑問……とまではいかないが、確認したいことがある。
「なぜ俺なの?」
「暇そうだったから。」
間髪入れずの即答。
この野郎。おしるこを買わされた上に何て言い草だ。
「俺は多忙だし多感だから帰るわ。今、おまえは貴重な支援者を一人失ったぞ。」
「ごめんって、冗談よ!」
ベンチから席を立とうとする僕の腕を、氷菓はひしっと握った。無視して教室に帰ろうかと思ったが、子供を引きずる親みたいな構図で注目を引くのも気が向かない。仕方なくもう一度ベンチへ腰を下ろす。
「姉貴にでも頼めばいいじゃん。」
「駄目よ。生徒会選挙に関しては、現生徒会長である吹雪さまからアドバイスは受けられない。それに……来年吹雪さまは卒業する。いつまでも頼ってばかりはいられない。」
氷菓の目にはどこか、寂しさと決別の意志がこもっていた。
「ったく……わかったよ。とりあえず話してみるがいい。氷菓の目指す生徒会長としての志を。全校生徒がお前を支援するに値する志を。クラーク博士も認める大志を。大いなる野望を。」
「そこまで大層なお膳立てをされると、何か言いにくいんだけど……。」
少し困惑しながらも、ぽつぽつと氷菓は自分の理想を、志を、マニュフェストを語った。
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