お隣りのJKさんと料理下手くされ大学生のお裾分け晩御飯

muku

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005 美味しいカレーを作るには

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鍋に水を張り、そこに切った具材をまとめて突っ込もうとする翔を、慌てて桃花が制止した。

「ちょっと待って!何してるんですかっ!」

「えっ、何って…、カレーだから煮込もうとしてるんだけど?」

「カレーを作るときは、具材を炒めてから煮込むのが常識でしょう!?」

「うん…?でも、どうせ煮込んだら具材に火が通るだろ?なんで煮込む前にわざわざ炒めたりするんだ?」

「なんでって、それは…。」

カレーを作るときは、具材を炒めてから煮込む。そんなの当り前だし、今までだって何度も作ってきたが、そのことに疑問を感じたことはなかった。

「わざわざ炒めるからには、何か理由があるんだろ?」

「ちょっと…待ってください。すぐ戻ります。」

桃花はキッチンから出ていくと、一分もかからずに戻ってきた。

「確かに、ちゃんと煮込めば火は通るから食べれますけど、野菜の煮崩れを防いだり、油で炒めることで、表面がコーティングされて旨みがにげないとか、焼き目をつけることで風味がついたり、色々理由はあるんですよ。」

「わざわざネット検索してくれたんだね。すぐスマホで調べるあたり、現代っ子だね。」

「…まだ高校一年生なんだから、知らないことだっていっぱいありますよ!」

開き直ったように言うと、桃花はサラダ油で具材を炒め始めた。牛肉は香ばしい焼き目がつき、玉ねぎの色は透きとおり、ニンジンも艶が出ている。

「あとは煮込むだけですね。」

鍋に水を加え、具材がやわらかくなるまで煮込む。桃花は時折、お玉で表面に出てくるあくを掬いとった。

「ふと思ったんだが、なんであくを掬う必要があるんだ?」

「へっ?」

意表を突かれたような表情で振り向くと、桃花は少し考える素振りをし、「少し鍋を見ててください。」と言い残して、またリビングの方へかけていった。

「あくは旨みの一つなのですが、取り除いた方が見た目も、香りも、舌触りもよくなるんです。多少は残っていても別に問題はないですよ。」

「…うん、もうスマホこっちに置いといたら?」

「何言ってるんですか。ちょっとトイレに行ってただけです。もちろん最初から知ってましたよ。」

桃花は料理のことになると、ついむきになってしまうようだ。頬を膨らましている姿は、まだついこの間まで、中学生だったというあどけなさを色濃く感じさせる。

初めての一人暮らし、見知らぬ環境で、桃花はとても気を張って緊張していたのだろう。

彼女と会うたびに、だんだんと緊張がほどけ、色んな表情を見られることが増えてきたことに嬉しく思う…、そう思う自分がいることに翔は気が付いた。

桃花はおたまでニンジンを掬うと、箸でその柔らかさを確認した。

「具材に箸がすっと通れば、一度火を止めて、カレーのルウを割り入れます。」

「なんで、一旦火を止めるの?」

「……。」

無言でリビングに行こうとする彼女を制止し、「またっ、思い出したら教えて!」と翔は少しご機嫌斜めになりかけた桃花をなだめた。

ルウを投入し、溶けたところで再び加熱する。

底のほうが焦げないように、時折かき混ぜると、カレーの甘美でありながら、スパイシーな香りに食欲が湧きたった。弱火でとろみがつくまで煮込み、美味しそうなカレーが完成した。

平皿にほかほかのご飯をよそい、その上に肉と野菜のいっぱい入った、とろみのついたカレーをかける。

「いただきまーす!!」

二人の声が重なり、同時に最初の一口目を頬張る。

舌の上にとろけるルーが触れた瞬間に、カレーのスパイスが口内に広がり、炒めた肉の香ばしい風味、飴色になるまで炒めた玉ねぎの甘みを感じる。

丁度よい大きさに切られたニンジン、じゃがいもを噛むと、中に閉じ込められた素材のうまみを感じられ、柔らかい牛肉が口内を這う感触もまた心地よい。

「うわっ、上手い。」

「美味しいですね。」

「やっぱり、ちゃんと教わって作ると味が違うな。いつもは水でしゃばしゃばになったり、ニンジンが固いままだったりするんだけどね。」

「まぁ、普通に作っただけなんですけどね。」

「いや、やっぱり炒めたから風味も格段に増してるし、すごいうまいよ。」

ぱくぱくと美味しそうに笑顔で食べる翔の姿に、思わず桃花はスプーンを動かす手を止めて見惚れていた。

「うん?どうした。食べないのか?」

「えっ、いや。すごい素敵な食べっぷりだなって思って。」

「まぁ男の一人暮らしなんて、ろくなもの食べてないからね。」

「そうなんですか。」

「インスタントやレトルト、冷凍食品が僕の血肉を作っていると言っても過言じゃないだろう。」

「まぁ確かに、最近のものはどれも全て美味しいですけど…。やっぱり、手料理の味が恋しくなりませんか?」

「そりゃなるよ。おふくろの味とかなんだそれ?って最初は思ってたけどね。一人暮らしすると、やっぱり温かいごはんを作ってくれる人の有り難さとか、家族と一緒に話しながら団らんするよさを痛感するね。」

「そうですよね。私もこっちに来てから、一人でご飯を食べてると、なんか少しさみしくなっちゃうときがあるんです。」

伏し目がちになった桃花は、少し緊張した声音で「あの…」と小さい声で切り出した。翔は彼女のそのおどおどとした様子を、久しぶりに見た気がした。
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