お隣りのJKさんと料理下手くされ大学生のお裾分け晩御飯

muku

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006 第二回料理教室の約束

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伏し目がちになった桃花は、少し緊張した声音で「あの…」と小さい声で切り出した。翔は彼女のそのおどおどとした様子を、久しぶりに見た気がした。

「…よかったら、これからも…、翔さんのバイトがお休みの時とか、時間のある日は、一緒に料理したり、それ以外でも、一緒にご飯を食べたりしませんか。」

すごく勇気を振り絞るようにして、桃花は翔に尋ねた。

「うん…?そんなの、もちろんオーケーさ。僕としても美味しい手料理が食べれるし、とっても可愛らしい話相手もいるなんて、願ったり叶ったりだよ。」

翔は特に深い意味なく使った“可愛らしい”という言葉だったが、田舎から出てきたばかりの純情乙女である桃花には強く響いたらしかった。顔まで真っ赤になりながら、桃花は無言でカレーを載せたスプーンを口に運ぶ。

「なんか桃花ちゃん顔少し紅くないか…?中辛にしたんだけど、カレーちょっと辛かったかな?」

「いえいえっ!そんなことないですよ!とっても美味しいです。」

桃花は最初の一杯でお腹いっぱいになり、翔はもう一杯おかわりをした。
翔の部屋は窓側にベッドが置いてあり、冬に出したままのこたつが置いてある。その丸いこたつに座って、二人は仲良くきれいにカレーをたいらげた。

「ごちそう様でした。次のバイトのお休みは…いつですか?」

「次は三日後が空いてるかな。大学の授業も午前までだし、昼からゆっくりできるよ。」

「そっ、そうなんですね…!実は私もっ、その日はテスト前で、午前中で学校が終わるんですよ!よっ、よかったらっ、今度は一緒に、買い物に行きませんかっ!?」

何度か噛みながら、最後まできちんと桃花は提案することができた。

「うーん、そうだね。また僕が変な物を買ってきても、桃花ちゃんを困らせちゃうし、あまり何買えばいいかわからないからな…。ぜひともそうしよう。」

翔の返答に、桃花は嬉しさと安堵の気持ちが込み上げてきた。人と話すときは、緊張してしまうことが多い彼女だったが、翔と話すときはまた別の種類の緊張を感じていた。ドキドキと鼓動が速くなるのは同じはずなのに、こんなに幸せな高揚感を伴う緊張は、桃花にとって初めての経験だった。

「そうですね!もうヤシの実買ってきたら駄目ですよ!」

嬉しそうに念を押してくる桃花に、翔は恥ずかしそうに笑った。
神戸に来てからというもの、桃花がこれほど素直に楽しいと感じながら会話をできるのは翔だけであった。いや、実家の田舎でさも、彼女にとってこんなに笑顔で話せる相手は稀有な存在である。

「午前で終わるなら、お昼は食べてないよね。よかったら、ついでにお昼一緒に食べようか。」

「えっ、いいんですか?」

「僕の講義が終わったあと、桃花ちゃんの学校の傍まで迎えに行くよ。ハーバーランドの近くだったら、色々お店もあるからね。」

思いがけない翔からの提案に、桃花は驚きと嬉しさが心に溢れた。

「うれしいです!ありがとうございます!」

「待ち合わせするなら、連絡先交換した方がいいよね。」

「はい!そうですね。」

お互いのスマホを重ね合い、ラインのIDを交換した。その時、お互いのスマホの待ち受け画面が見えた。

「うわー、可愛い!トイプードルですか?」

「うん。実家で飼ってる犬だよ。もう本当に可愛くてね。話すと長くなるから今はやめとくけど、とにかく可愛い。桃花ちゃんの待ち受けは、これは…何かの料理?」

彼女の待ち受け画面には、白い皿の上に色鮮やかに盛られたフランス料理らしいものが映っていた。

「そうです。有名なフレンチのお店に、一度親が連れて行ってくれたことがあって、その時の写真を待ち受けにしちゃいました。」

「そうなんだ。桃花ちゃんらしくていいね!」

「ありがとうございます。」

連絡先を交換し、桃花はお隣の自室へと帰っていった。

“ピローン”

桃花が帰ってから1時間ほど経った頃、翔のスマホが何かの通知を受けた音が聞こえた。ラインの通知がポップアップし表示される。

“今日はありがとうございました。カレー美味しかったですね(*’▽’) 三日後、とても楽しみにしています。では、おやすみなさい(^^)/”

桃花からのメッセージだった。彼女の行儀がいいのも、こういった律儀なところも、田舎の家族がきちっと教育してきたんだろうなと、親の教育に感心しながら、翔は返信を返した。
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