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019 有名シェフの調理ショー
しおりを挟むお腹も膨れたところで、翔とトミーはアルバイトの仕事に戻ることになった。
午後からは有名シェフの調理ショーなどがあり、それの会場整理の仕事が入っていた。
三つ星レストランで働いているという有名シェフたちが腕を振い、そこで作られた料理を無料で試食できるというイベントだ。かなりの人が集まり、翔とトミーは人込みに押されながら各ブースを分ける柵を支えていた。
「すごい人だねー。そこまでして有名シェフの料理を見たいのかな。」
相変らずトミーはやる気がないようだ。シェフがフランベをし、フライパンの上に火柱が上がると、群衆は「おぉーっ!」と声を上げた。
「まぁフランベとか、超早い包丁さばきしてるのを見たら、かっこいいし見応えあるよね。それ以外は、料理に詳しくないとよくわからないけど…。」
「本当はみんな試食だけでいいって思ってるんじゃない?」
各ブースは柵で仕切られており、その中に入って最初から最後まできちんと調理を見た人のみ、試食ができる整理券がもらえる。
「そんなこともないんじゃない?少なくとも彼女たちは違うと思うよ。」
桃花、沙織、栞の調理科に所属する三名の女子高生は、それぞれのブースでシェフの一つ一つの動きを食い入るように見つめている。桃花にいたってはメモまで取っている。
「本当勉強熱心だねー。翔君も見習いなよ!」
「トミーよりは真面目に勉強してるつもりだけど。」
大学の授業中、トミーはいつも小説やら百科事典やら、机の下で授業と関係のない本を読んでいる。
「そうだね。確かに、私はあまり先生になるための勉強はしていない。そもそも、私は先生になるつもりがないんだよ。やっぱり小説家になりたいって思ってる。」
「えっ…、そうなんだ。いきなりの告白でびっくりしたよ。」
一応翔とトミーが所属する学部は文学部である。どれほど本気かは分からないが、小説家を目指す学生も少なからずは存在した。
「素敵な話が書けるかは、正直なところあまり自信はないけどね。」
トミーは少し恥ずかしそうにいった。
「トミーなら大丈夫さ。なかなかいい選択じゃないか?太宰治も『本当に良心をもって情熱を注げる仕事は、この世に教師と小説家だけだ』って感じのことを言っていた気がする。」
翔がそういって笑うと、「適当だなぁ、翔君は。」と、トミーも困ったような顔をしながら笑った。
「まぁ、その話はまた飲みながらゆっくり聞くとして、とりあえず今は真面目に仕事しよう。」
「適当なくせして真面目だな、翔君は。」
「僕の父はO型で、母はA型だからね。」
二人は「押さないでください!」と声をかけながら柵を支える仕事にもどった。
シェフが最後の盛り付けを済ませると、拍手が起こった。試食が始まると、長蛇に並ぶ人たちをきちんと列に並ばせる仕事をした。とはいっても、誰も割り込みをしたり、押し合いしたりする人もいなかったので、特に大変な仕事ではなかった。
ほとんどの人が料理を受け取り、仕事も落ち着いた頃、試食の行列から抜け出した桃花が、こちらにひょこひょことやってきた。
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