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020 フォアグラのテリーヌ
しおりを挟む「お仕事お疲れ様です!」
彼女の手には、先ほどゲットしたらしい、三つ星シェフの料理が大事そうに抱えられていた。
「おっ、三つ星シェフとやらの料理ゲットできたんだ。」
「そうです。フォワグラのテリーヌとキノコのフリカッ…、なんだっけ?なんとかかんとかのヴィンテージワインソースっていうらしいです。一口どうぞ。」
フォアグラの上に、キノコが可愛らしく添えられており、赤紫色のソースがかけられている。見るからに高そうな料理は、安っぽい紙皿の上に載っており、プラスチックのフォークが添えられていた。
「高級料理って、むやみに名前長いよね。いやいや、せっかく桃花ちゃんが並んでゲットしたものなのに悪いよ。」
「美味しい物は、誰かと一緒に食べた方が美味しいじゃないですか。」
「そっか、ありがとう。でも、最初の一口は桃花ちゃんが食べてよ。人の物をその人より先に食べるのは、なんか申し訳ない気がする。」
「もう、そんなこと気にしなくていいのに。…わかりました。」
桃花は紙皿にのったフォアグラを、プラスチックのフォークで一口サイズに切って口に含んだ。とろけるフォアグラの甘みと、少し酸味のあるソースがマッチした味は、食べたものを思わず笑顔にさせた。
「すっごい美味しいです!翔さんも食べてください。」
「っじゃあ、一口だけ…。うわっ、すごい濃厚な味だね。フォアグラなんて、姉の結婚式で食べて以来だよ。」
柔らかいフォアグラは口内でほどけ、甘さと濃くのある油と旨みが広がった。
「翔さんって、お姉さんいらしたんですね。」
「あぁ、言ってなかったか。四つ離れた姉がいるんだけどね。姉も小学校教師してるよ。」
「そうだったんですね!もしかしてお父さんとお母さんも…?」
「いや、父親は警察官で、母は役所で働く公務員だよ。」
「すごい…みなさんお堅いというか、立派で、真面目なお仕事ですね。」
桃花は感心するような表情で言った。
「家がこんなんだから、教育方針も真面目に、まっとうに生きなさいって感じで、僕も含めてみんな頭が固くて、少し息苦しいところもあったけどね。」
頭が固い家に育った翔は、真面目に勉強して、有名大学に入って、大きな企業に就職する、それが親の望んでいることだと信じていた。
しかし、多くの学生がそうであるように、翔も高校二年生のときに、何のために勉強しているのか、自分が本当になりたいものが何なのか、よくわからなくなった時期がある。
その時、翔は自分の人生は自分がなりたい職業を選ぶべきだと、色々な選択肢から教師への道を選んだ。
自分のやりたいことを、一応自分で見つけた翔は、自分の頭の固さが少しましになったと思っているが、それでも客観的に見ると翔はかなり頭の固い人間であった。
「桃花ちゃんのお家の人はなにされてるの?」
「私の父と母は、酒屋をしながら、兼業農家でお米を育ててます。なかなか生活は裕福ではないんですが、一人娘だからって調理科のある神戸の高校にも行かせてくれて、とっても感謝しています!」
「そっか。素敵なご家族だね。今日だって、一生懸命メモを取ってがんばっている桃花ちゃんの姿を見たら、ご両親も嬉しく思うだろうね。」
そう告げると、桃花は少し恥ずかしそうな表情になった。
「えっと…、私がメモとってたの見られてたんですね。…お恥ずかしい///」
そう言う桃花の表情は、言葉と裏腹に少し嬉しそうだった。翔に見られていたという気恥ずかしさと、見てもらえていたという嬉しさの混ざった表情だ。
「何も恥ずかしがることはないさ。立派なことだよ。」
イベントが無事に終わり、まだ片づけが残っている翔とトミーは、桃花、沙織、栞たちと別れた。彼女たちの姿が見えなくなるのを確認すると、すぐにトミーは翔に詰め寄って質問攻めにした。
「おい、翔君!いつのまにJKなんかと仲良くなってたんだい?」
「おい、JKっていうのやめろよ。いや、隣の部屋に引っ越してきたんだよ。」
「君たちは付き合ってるのかい?」
「はぁ?なんでそうなるんだよ?そもそも高校生と付き合えるわけないだろう?」
「いや…だって、どう見たって…桃花ちゃんは、翔君のことを…。」
桃花は、翔のことを好意に思っていると言おうとして、自分の口から言うべきではないと、トミーは判断し口を閉じた。
「…本当に翔君は、この手の話に関してだけは鈍感で、頭が固いな。」
トミーはため息をつきながら、頭が固いのはいつものことかと呟いた。
「だから何のことだよ?」
「世間的、一般的に駄目だって言われていることでも、みんなが言うからそうなんだろうって決めつけるのでなく、もうちょっと自分の頭でよく考えてみないと駄目だ。私はそれだけは忠告しておくよ。」
そう言い終えると、トミーはもう一度ため息をついた。
恋愛においてトミーの言うことは大体的を射ているのだ。しかし、今回ばかりはトミーの意図しているところを掴みかねていた。
翔は釈然としない様子で、徐々に茜色が差し始めた夕焼けを、神戸の海が反射するのを眺めていた。
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