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021 ビアガーデンでの夜
しおりを挟む長いゴールデンウィークも終わってしまい、多くの人が連休終わりの虚しさと自身の重たい心を抱え、普段の忙しない生活に引き戻された。
もとの忙しい生活といっても、世間から見れば暇な生活を営む大学生の翔とトミーは、翌週の週末に三宮のビアガーデンに来ていた。
「あれから、桃花ちゃんとはどうなのよ?」
乾杯してすぐに、トミーは翔と桃花の中の探りを入れた。
「どうって別に普通だよ。時間あるときに、たまに一緒にご飯作ったり、桃花ちゃんが晩御飯作りすぎた時にお裾分けもらったりするくらいだ。」
「女子高生と一緒に料理作るって、なかなか普通じゃないからね。」
トミーは半分まで減ったジョッキを置き、枝豆を頬張る。
「まぁ僕も料理を教えてもらって有り難いし、桃花ちゃんも楽しそうにしてるし、特に問題はないだろ?…というか、今日はその話じゃなくて、僕が色々質問したいんだけど…。」
翔は以前のバイト中に聞いた、トミーが小説家を目指すという話について詳しく聞きたかった。
「この間言った通りさ、私は小説家になりたい。」
「小説家ね…。僕はトミーなら面白い話が語れると思うけれど、それにしても、本がなかなか売れないと言われている中で、ずいぶん思い切った選択だね。」
「まぁね。教員免許は親がどうしても取れってうるさくてね…。」
「そうだったのか。もう色々書いてみたのかい?」
もう書きあがったものがあるならば、ぜひ読ませてくれと翔は言うつもりだった。しかし、それを言う前にトミーに釘を刺された。
「いろいろ書いてはいるんだけどね。…でも、私は翔君には絶対読ませないよ。」
「えっ、なんでだよ。」
「私の書いた作品を君に見せるくらいなら、私は自分のお尻の穴を君に見せた方がましだ。」
トミーは、周りのお客さんにも聞こえそうな声で堂々と言い放った。
「…誰もお前の尻の穴なんて見たくないよ。」
翔が引き気味に答える。まさか小説の中でも、尻の穴がどうとかそんなことばかり書かれていないだろうかと、翔は少し不安になった。
「僕だって遊びまわっている他の学生たちに比べたら、かなり色々な本を読む方だ。せっかくなら、書いた物を読んでくれる人がいた方がいいじゃないか。それにこういっちゃなんだが、人に見せられないようなものを書いているようじゃ、一端の小説家になるのは難しいんじゃないか。」
翔の言葉に対し、トミーはそういうわけではないんだと弁明した。
「私は自分の書いているものを恥ずかしいものだとは思ってないし、それなりに読めるものだとも思っている。だから、私のことを知らない人に対しては、尻の穴じゃなくて堂々と書いた小説を見せるよ。」
トミーはどこか遠い目をして、小さく星が光る都会の夜空を見上げた。
「でも、この大学で一番の、いや生涯においても唯一といえる親友の君には、中途半端なものを読まれたくない。もし君に読んでもらう時があるとしたら、それは私の本がきちんと書店に並び、正式に私は小説家だと名乗れるようになったときだ。」
彼は恥ずかしげなくそう言い切った。この言葉を聞いたとき、トミーは絶対、一端の小説家になるんだなと翔は直感した。
「…そうか。わかった。トミーが一端の小説家になるまで、僕は楽しみに待ってるよ。」
二人はもう一杯ずつ16オンスのビールを注文した。何度かジョッキを重ね合わせ、その日は楽しく飲んだ。
トミーとの別れ際に、桃花ちゃんから伝えるように言われていたことを思い出した。
「そうえば、来週神戸まつりあるだろ。桃花ちゃんたちに案内頼まれてて、トミーにも声をかけてほしいと双子がせがんでるらしいよ。」
「あーそうなんだ、気が向いたらいくよ。気が向いたらね。」
来る確率が30パーセントくらいの返事をし、トミーは須磨方面の電車に乗って帰っていった。
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