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026 風呂上がりのJK
しおりを挟む暗くて静かな室内に、テレビのほの暗い灯りだけが浮かび上がる。
主人公は怪奇現象を専門に追う雑誌記者で、ネット掲示板で噂されている怪奇現象、都市伝説の謎を突き止めるというストーリーだった。
とある町のバス停の傍には、首の無い地蔵が並んでいる。
そのバス停で丑三つ時まで待っていると、運転手以外は誰も乗っていないバスが来るという。それに乗車すると、住人が精神異常を起こして滅んだという村の前でバスは停止し、いつの間にか運転手は消えている。
バス停から少し歩くと、大木の前で何者かの人影が見える。
よく見るとそれは、身長二メートルを超える大男だ。
生々しい音とともに、おそらく先ほどまで生きていた何かに向け、返り血を浴びながら大きな斧を振り落としている。
それを見た主人公が後ずさろうとすると、草に足を取られ“ガサッ”と音を立ててしまった。
「あぁー、もうなんで音立てちゃうかな。」
栞が不服そうに声を上げる。
「まぁホラー映画なら定番だね。」
冷めたように画面を眺める翔と栞に引き換え、桃花と沙織はぶるぶると震えながら、顔を両手で覆い、指の間から恐々とテレビ画面を見つめている。
音に気づいた大男は、斧を振り上げながら主人公を全力で追いかけてきた。それを見た瞬間、桃花と沙織は声にならない悲鳴をあげた。
「うーん。桃花と沙織は怖がってましたが、翔さんはどうでしたか?」
部屋の照明をつけながら、栞は翔に尋ねる。
「そうだな。まぁありきたりの部分も多かったけど、最後のオチはなかなかじゃないか?」
「確かに、そこまで怖くなかったですけど、単に一つのストーリー性ある物語としては楽しめましたね。」
映画の内容を冷静に分析している二人を、桃花と栞は「なんであんな怖いの平然と見れるんだ。」「わからないよ沙織ちゃん。きっと私たちが普通だよ…。」と青冷めた様子で見ていた。
映画が終わり一息ついた頃、時計の針は夜の十一時をさしていた。
「そういえば、もう一枚DVD借りたんやろ?何かりたん?」
少し元気を取り戻した沙織が、栞に尋ねる。
「あー、見たい?翔さん明日休みですか?」
「朝はゆっくりできるが、何借りてきたんだ?」
栞は自分がジャンケンで負けたら観るはずだったDVDをカバンから取り出した。
「戦慄怪奇現象!~人食いゾンビ女現る!!~だよ。」
「なんでもう一枚もホラー借りてんねん!?」
沙織が非難の声をあげる。
「ほら、ジャンケンで負けたときに備えてだよ。まぁ私が圧勝したから必要なかったけどね。」
沙織が「絶対見ないからなぁ!」とDVDを栞から奪おうとする。栞はそれをひらりと躱しながら、「せっかくだから見ようよ。翔さんも見ますよね?沙織抑えといてください。」と涼しい表情で言った。
「オッケー、わかった。」
沙織と栞の間に割って入り、翔は沙織を羽交い絞めにした。
「こら!何すんねん、チカン!変態!裏切りもん~!」
翔が沙織を抑えている間に、栞はDVDを入れ替えて、再び部屋の照明を消した。
暗い部屋に、再び薄暗いテレビの照明が光る。しかし、先ほどと異なり、翔の右側からはフルーティーな甘い香りが、左側からはシトラスの爽やかな香りが、怖いシーンの度に鼻孔をかすめ、画面に集中できなかった。
翔の右では桃花が、左には沙織がぴったりとくっ付き、怖いシーンになるたびに彼の腕にしがみついた。こうなった理由は栞が不満を漏らしたからである。
「っていうか、二人とも、怖いシーンになるたびに顔隠すの禁止っ!!」
先ほどの映画では、桃花はウサギの抱き枕を、沙織は人を駄目にするふわふわクッションを抱えて、怖いシーンになる度にそれに顔を押し付け、画面を見ないようにしていた。
「十分怖かったよ、栞ちゃん…。」
珍しく桃花が反論するも、むなしく二人の盾である枕とクッションは栞に没収されてしまった。
「せっかくホラーみてるのに、怖いところで顔隠したら意味ないでしょうがっ!」
正論といえば正論に聞こえる意見を振りかざし、栞は手に入れたクッションを背もたれに、うさぎの枕を足置きとし、くつろいだ様子で画面を眺めている。
桃花と沙織は、枕やクッションのような、何か大きめの安心できる物が傍にないと不安だった。
しかし、桃花と沙織がお互いを抱きしめ合いながら見るというのは逆効果である。
怖がっている人の近くにいても、その人の感じる恐怖に共鳴し、余計に怖さが増すだけであることを、怖がりの二人は体感的に知っていた。
結果として、桃花は翔の右腕をずっと握っており、沙織は左腕をずっと握っているという現在に至る。翔は二人を慰める様に言った。
「この映画、全然怖くないから大丈夫だよ。」
この映画のメインともいえる『ゾンビ女』は、どっからどう見てもCGの、粗く安っぽい作りであった。
ゾンビ女が這いながら、主人公の中年男性にしがみつくと、その男は木製バットでゾンビ女をぶん殴り撃退していた。
「ゾンビ女よわっ!」
シリアスな画面にも関わらず、思わず栞は噴き出した。その一方で桃花と沙織は、全力で翔の腕にしがみついていた。
上映が終わり、エンドロールが流れる。制作会社や製作者の名前が、神経に触る不快なミュージックとともにスクロールしては消えていく。
それを見て一息ついた桃花と沙織だったが、エンドロールの最後に、唐突に音が切れ、砂嵐の画面に切り替わった。
部屋にいた全員の視線がテレビ画面に注がれる。すると、墓場にふらりとゾンビ女が立っているシーンが流れ、次の瞬間、勢いよく画面に向かって襲い掛かってきた。そして砂嵐が流れ、DVDのチャプターメニューに戻った。
「うわー最後まで、ひどかったですね。シナリオも、CGも、演出も全部C-評価です。そして最後のあれなんですか。…っていうか、そこの三人はいつまで抱き合ってるんですか。」
呆れたような栞の視線の先には、女子高生二人に抱き着かれている翔の姿があった。エンドロールが流れて安心しきっていた桃花と沙織は、唐突なゾンビ女の襲撃により、とっさに翔に抱き着いた。体重の軽い女の子といえど、さすがに二人同時に抱き着かれた翔は、床に押し倒されるような姿になっている。
桃花と沙織は翔にしがみつきながらぶるぶる震えていた。翔が「大丈夫だから、ゾンビ女なんていないから…。」と、その頭を優しくぽんぽんとなでるように触ると、二人は正気を取り戻した。
時計を見ると、時計は零時を回って、既に土曜日から日曜日へと日を跨いでいた。
流石にそろそろ自室に戻って寝ることを、翔が三人に告げようとした時、“ピンポーン、ピンポーン”と二回、桃花の部屋のインターホンを誰かが鳴らしている音が聞こえた。
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