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032 隣りのJKとの相合傘
しおりを挟む午前中は梅雨の時期に珍しい晴れ間が見られたものの、午後から黒々とした雲が渦を空に溜まり始め、翔と桃花が帰ることには雨がぽつぽつと降り始めていた。
「あっ、雨降ってますね…。ごめんなさい。今日の午前は晴れてたから、傘お家に忘れてきちゃって…。」
「昨日と今日の朝はいい天気だったからね…。ゼミの部屋に僕の置き傘があるから取ってくるよ。」
翔はそういうと、五分もたたずに大きな黒い傘をさして、小走りで帰ってきた。
「本当はもう一本傘があればいいんだけど、人の傘を勝手に持って行くわけにはいかないしな。まぁこの傘のサイズなら一緒に入っても二人とも濡れないだろうし、桃花ちゃんが嫌じゃなければだけど…。」
翔の言わんとしていることを桃花は理解した。これは世に聞く相合傘というものだ。桃花はこれまで男の人と相合傘をしたことはない。田舎の男子たちは、雨の日は全力ダッシュではしゃぎながら帰っていた。
「もっもつろんです!」
「もつろん?」
「いっいえ、もちろん!嫌なんかじゃないです。ありがとうございます。」
翔が持つ傘の下に、ひょいっと桃花が入り込んだ。
「荷物重そうだね。持つよ?」
「いえいえ、全然気にしないでください。重くないですから。」
「慣れない環境で疲れてんだから、こういうときは甘えたらいいんだよ?」
「あっはい…。っじゃあ、お言葉に甘えて…すみません。」
差し出される翔の手に、桃花は白い手提げカバンを渡した。それを翔はひょいっと肩にかけて桃花に言った。
「桃花ちゃんって、“すみません”が結構口癖になってるね。」
思いがけない翔からの指摘に、桃花は驚いた様子で「えっ、そうですか?」と尋ねた。
「うん。人になんかしてもらって時とか、よく“すみません”って言ってる気がするな。そんな時は、“ありがとう”だけでいいと僕は思うよ。」
桃花は翔の指摘に確かに思い当たるふしがあった。特に実習が始まってから、職場の人に何か教えてもらったり、サポートしてもらう度に、「すみません」という言葉を使っていた気がする。
「そうですね!すみません。次からは気を付けます!」
桃花はぺこりと頭を下げ、翔に指摘してもらったことへのお礼を示した。
「またすみませんって言ってるよ。」
「あっ、すみません!あっ…。」
「面白いなぁ。まぁその謙虚さは桃花ちゃんのいいところでもあるんだけどね。」
「うーん、難しいですね。」
「そうだね。言葉って難しいね。」
雨を傘が弾く音とともに、笑いながら二人は身を寄せ合って帰った。
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