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しおりを挟む二人の姿が、薄く光って夜道を照らしていた。
本来の彼らはこんな風に、やはり普通では無い。
緑頭は常に姿を消して着いて来てくれてるからあまり気づかないけど、家に最初に現れた時も光ってたもんな。
「二人とも、ご褒美先に渡しとくね。
緑頭が好きだったナッツのカラメルがけ、ミワには照り焼きね。
ちょっとずつ食べるんだよ?」
もしかしたら、帰れないかもしれないし。
「嫌です!」
そう言うとミワはその場で子供の様に頬張って、全部食べてしまった。
「これで、次もちゃんとご褒美くれないとダメなんです!」
「あはは! ミワ、分かったよ。
必ずもっと沢山の照り焼きに、お肉をあげるよ」
「ラグ、私もだ!
私も全部食べてしまった、だからちゃんと、私にもくれないとダメだからな!」
緑頭まで。
「ふふふ、緑頭はちょっとねぇ?
ワザとらしかったよねぇ?」
焦り始めた緑頭が、食べてしまったことにガクリと膝をついて泣き出した。
「嘘だよ、ちゃんと緑頭にもお菓子を沢山あげるから」
「ラグのばかぁ!」
おい、どこの乙女だよ、お前。
そんなやり取りが楽しかった。
「見えない街、今も僕に見えるのかな?」
やっぱりどこか半信半疑で、僕にも今回は見えないんじゃないかとか、そんな事を考えながら城下の門まで来た。
「そっか、今は閉門してる時間か……」
「私が飛び越えられます、ラグ背中へ」
ミワの背中に乗ると、いつもの三倍くらいの大きさになって飛び越えた。
一蹴りで飛びあがり、空中でもう一蹴りして城壁を超えた。
緑頭は普通に空を飛べるから、問題ないとしてこのまま突っ走って見えない街を目指した。
「緑頭、僕の頭の上に乗れるくらい小さくなれ!!」
前に目玉おやじみたいに僕の髪の中に隠れていた時みたいに、僕にくっ付いていれば一緒に入れると思った。
ミワが入れたのは、僕と一緒にいたからじゃないかと思うんだ。
じゃないと、精霊王だけが入れない理由が分からなかったし、僕が必要なら繋がってるこいつらごと迎え入れないといけない筈だ。
「ラグ様!もうすぐあの街が見える筈です!」
次の瞬間、街はミワ達の様に薄く光を発していた。
これが見えるのは間違いなく蒼月だから、だ。
「ミワ、見えたね」
「はい、ラグ様」
疾走していた足をゆっくりと緩めながら、街の手前でしっかりと止まった。
「行くよ、二人とも最後まで付き合わせちゃうけど、よろしくね」
「もちろんですラグ様!」
「当たり前だ、ラグ! ちゃんと帰ってご褒美を貰わないといけないんだからな!!!」
ふふふ、なんて頼もしいんだろう。
拳の強さじゃなく、心が強くなれる、そんな頼もしさだった。
一歩、また一歩と街へ足を踏み入れるたびに、何だか体が縛られるような息苦しさを感じた。
まだ陽も出ない夜だからか?
「昨日? 入った時にはこんな感じじゃ無かったよね?」
「あのキアヌートって奴の仕業かもしれないな」
髪の中から、緑頭が当たり前な事を言っていた。
「そうですね、世界樹の意思は感じられません」
二人は世界樹から生まれてるから、何処かで繋がってるんだろう。
この街を見て回るように、建物の中を覗くと人がベッドで眠りについていた。
この街って、見ない街で入る事すら出来ない街だって聞いてたのに、人がいた。
田んぼとか畑の世話をする人たちなんだろうか?
「この街に人がいるなんて、思ってもいなかった」
「ラグ様、良く見てください」
ミワが覗き込んだ人に違和感を示した。
「服装が、おかしいです。
夜着と言うならまだしも、普通の服に見えます。
その上! 時代が違うように思います!」
寝ている人達は、布すら掛けずに綺麗な姿勢で眠りについていた。
そして来ている服は様々だったが、どう見ても寝る時に来ている服では無かった。
「これ、デザインが確かに……」
学校免除資格試験の為に勉強した、各国の歴史に出て来た文化移行の中で見た服装だった。
今が僕にとってコスプレのようなものだけど、まるでコスプレを見ているようだった。
時間が流れていないのか?
「ラグ、この空間は時の流れがおかしい」
「作物だけが成長し、人の時は止められているようだ」
「全部じゃない、この人は老いている」
これがキアヌートの魔力なら、結界内で時を止め彼らを人工として使っているのか、そして作物や世界樹の恩恵のある土地だけ時が動いてるって事なのか?
そんな事できるの?
「ただの結界魔法じゃないんだ。
多重結界にしても特殊すぎない?」
全体に結界で見えなくして、その中で働く人の時を止め、でお世界樹の土地だけは時を流す、ってそんな複雑な事を一人で出来るんだろうか?
「ラグならできるだろ?」
「んー、ルールが分かれば出来るかも?」
なんでこんなに時代の違う人たちがいるんだろうって疑問の方が、僕にとっては重要でこの人たちがただ、作物の世話をするためだけに集められた人には思えなかった。
魔力を供給するには接触が一番だって、ギルマスが言っていた。
この人たちの魔力量が高かった?
なら、魔力を僕が供給する必要はないんじゃないか?
時間を止めてる意味が分からない。
ここが浦島太郎みたいに、流れが違うにしてもギルマスとかがちゃんとキアヌートを認識してるって事はそれほどではなく、飛行機で赤道を超えて日付変更線を超えるくらいの時差だとしか思えない。
この結界の意味が分からなかった。
「この眠っている中に、ゲオルグとセレニアがいるかもしれない。
この結界の中にちび達はいる?」
緑頭は、いないと答えた。
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