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衛兵から逃げての百合って枠
しおりを挟む謁見室で待つ公爵にお茶を出そうとすると、何故か怪訝な顔をされた。
ここで、涙ぐんで助けを求めなきゃ!
ザッハトルテ・モンブラン公爵様!と手を掴んでみた。
「あ、あの! 助けて下さい!! 私はミルフィーユ、神の加護を持ってます」
ヒロインの魅了に何かしらの反応があるはず!
「それはスキル持ちと言う事か」
「はい、『息吹』と言うスキルで治癒再生能力です」
「そうか、ならば教会か修道院に行くとよいだろう。
だが、私への無礼とは別問題だ」
「えぇ、なんで、なんでよ? この魔具どうなってんのよ?
息吹が使える私は聖女でもおかしくないのに!!」
聖女と言う言葉を出した途端、余計に表情が険しくなって、衛兵を呼ばれた。
「誰か! 衛兵!! この女を捕らえろ!」
えー!このままじゃ捕まっちゃう!!
「何でよー!!」
杏璃はとにかくこの場をどうにか逃げようと藻掻くと、魅了の魔具も多少発動したらしく、拘束される力が緩んだ所で、移動魔具を使ってその場を何とか逃げ切ったのだった。
移動スクロールで出た場所は調理場だった。
「ふー、ヤバかった。
何で私の魅力に落ちないのよ?
そりゃ、すぐに好感度が上がる訳じゃないけど、いきなり修道院とか衛兵とか出てこなかったじゃない!
ヒロインのあたしを、何とか助けようとするはずじゃない!
この魔具で好感度は二倍の速さで溜まるはずなのに、全然、そんな表示も出てこないし!
あ、でもあんな衛兵の好感度は出て来てたわ、……なんで?
攻略対象以外にも好感度ってあるの?」
ゲームの進行にしてはおかしいと思いつつも、まだ他にも接触するシーンはある、と杏璃はポジティブに考えた。
「このゲームの良い所って、他の攻略対象とかと同時進行にならない事よね。
多少時期が被ることはあっても、好感度を進めていく時は一対一で進んでいくから罪悪感とか、選べないって選択は何のよね~」
今はまだザッハトルテ・モンブラン公爵を攻略する章だから、レベル上げをしながら進めればいい、と呟いた。
「ミルフィーユさん、あなた、公爵様に直接お茶を持って行ったらしいじゃない!」
いきなり声を掛けられて振り向くと、侍女長がそこに立っていた。
「え、あ、あの、侍女長に渡すように頼まれたのですが、探してもいらっしゃらなくて、お茶が冷めてしまったら侍女長の責任になってしまうと思って、勝手に私が」
そこで涙を流すと、魅了魔法が効いたらしく、侍女長は杏璃を優しく抱きしめて言った。
「良いのよ、衛兵に捕まりそうになったんですって?
私があの場を少し離れてしまっていたんですもの、あなたのせいじゃないわ。
私の為にしてくれた事ですもの、衛兵には私からもちゃんと説明しておくわ。
でも、公爵様の所へは、まだあなたの立場では行けないの。
そこはちゃんと理解しておいてね」
「ありがとうございます」
「何かあれば私に言うのよ?」
そう言うと一層強く抱きしめて、杏璃の額にキスをして体を放すと、食事に行きなさいと使用人たちが集まる食堂へと促した。
「えっと? これって女性にも効くの?
まるっきり百合仕様な感じなんだけど」
あの日以来、侍女長がなにかと絡んで来ては、熱い眼差しで杏璃を見つめては、ほうっとため息をついていた。
「ミルフィーユさん、辛い事は無い?」
「あ、あの、大丈夫です」
「そう? もし何かあったら、お姉さまに言ってちょうだい?」
「え? お姉さま?」
ヤバいっしょ!
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