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不正
しおりを挟むそれほど目立った功績も無いのに、冒険者ギルドで敵対視されるか自棄に馴れ馴れしくされるか、もしくは無視されるかだった。
この原因は隣でニコニコと笑ってる銀髪のイケメンロイズの所為だった。
あの盛大な告白依頼、ギルドでも公然のカップルみたいな扱い方をされてるけど、僕は受け入れてないし返事すらしていない。
なのに、当たり前のように隣に立って、当たり前のように依頼の相談をして来る。
「なぁ
このヴァンガフォルフの討伐、素材も今値上がり中だし、Eランクよりちょっと上なギリギリEランクな依頼だし、俺が居るからサポも出来るし、どう?」
「どうって、何でサポ前提なのか教えてくれ」
「だって大事な人を守るのは、男の務めだろ?」
「僕も男なんだけど」
ニコッて笑って、大事な人だよ、と。
「ぐぅ」
「じゃ、これで」
「待て、待ってよ!
私たちは?
一緒に行こうって言ってたじゃん!」
ちょっとだけ遠巻きにしてた他の冒険者のうち、ロイズにずっと纏わりついてた女性やら、男性も含めて抗議してきた。
僕の事は放っておいていいから、そっちをどうにかして来なよ、という思いを込めて「僕は他の依頼を受けるから、どうぞどうぞ」と言ってやった。
「え、ちょっと!」
「受付に出したのはロイズ、そして僕と君はパーティでは無いから」
そう、承諾なんかしてないし、ギルドにも申請していない、正真正銘の赤の他人だ。
「じゃぁ、僕はこっちでお願いします」
「は、はい、え!? これを受けるんですか?」
「はい、やります」
「えぇっと、土龍探査及び確保もしくは討伐ですね」
「はい、探査は地形と巣穴の発見で生体がいれば確保か討伐のどちらかですよね」
「この依頼の場合、Eランクで受けられるようにメインは探査です。
討伐や確保は出来れば、です。
その為報酬に探査料金しか出ていませんから」
「じゃぁ、持ってきたら買取はしてもらえるんですか?」
「もちろんです! 土龍は貴重な魔物ですから」
「死体よりは生け捕りって事ですね」
「はい、使い道がありますので」
そんな会話を交わして依頼を正式に受けると、後ろで揉めていたロイズが取り巻きの冒険者たちを振り切って僕の所までやって来た。
「ルイ! 土龍なんて危ないよ! Eランクって言ってもDランクくらいの魔獣だよ」
「索敵がメインで、無理はしません。
それに、僕の人生なので遠慮していただけますか?」
どんな選択をしようと、僕の選択で自己責任だから。
「っ、あの、あのね、」
「ロイズ、もう止めなさいよ、こんな奴!
Aランクのロイズが気にしてあげる必要なんかないのよ」
この前も絡んできたボヨンボヨンした女性が、ロイズの腕に自分の腕を絡めて引き止めていた。
その姿を横目に見て僕はギルドを後にした。
ギルドの依頼書に掛かれてイタ地図を頼りに、街から外れて森というか雑木林の手入れも何もされてないジャングルの様な場所を歩いていた。
「う、湿度が酷いな……」
灌木の絡まる蔦が、林立する大木にも絡んで行く手を阻む。
上を見上げても枝葉の隙間から空がほんの少し見えるだけで、鬱蒼として薄暗かった。
ただ、地図上はそんなに広い範囲の場所じゃない事も分かっていたから、とにかく隅々まで探索しようと思っていた。
この世界にも幽霊って概念が無かったら良かったのに。
歩きながら『真実の目』を使ってみると、どこにも土龍の棲み処なんかは表示されず、そこかしこに墓場とだけ表示された。
「あの受付の人、依頼の地図を間違えたか……」
そんな訳あるか! と思わず声に出してしまうくらい、あり得ない事だと気づいていた。
すり替えと言うより、態と墓場への地図を渡して来たのだと推測できた。
十中八九、ロイズへの感情の所為だろう。
「ギルドがやっちゃダメだろうよ」
広くない場所とは言え、進まない足場に遮られる視界、そして届かない陽射しでも陽が沈んだ事が分かるほど、辺りは静寂と暗闇に包まれ始めていた。
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