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「さとる、泣かないで。
 愛してるよ」

多分汚く変色してる目元やこめかみに、お義父さんはキスをしてくれた。

啄むように、宥めるように。

狡い俺を許してくれるように。

「俺も、お義父さんが好きだよ」

たくさん涙が出る
最期まで分かり合えなかったお父さんに対するような愛情とも違う、確かな恋情がある。

気づかないようにしていたけど、ずっと一緒にいて、心の逃げ場所になってしまっていた。

多分、悪夢を終わらせてくれた時から。





病室の扉が勢いよく開いた。

いつもの検診でもなく、開いたとこに、一志さんと侑士がいた。

「さとる!
 さとる!」
「ああ!さとる!」

痛い。
抱きしめられた体が痛すぎて息が止まりそう。
現実の痛みが、2人を本物だと教えてくれた。

「あああ!
 うあああああ!」

叫びしか出なかった。

2人に会いたくて、会いたくなかったから。

目が潰れてしまうほど、涙が流れて、流れて、声が枯れるまで、泣いた。

「な、んで!
 なんで!
 なんで!!
 なんで、助けてくれなかったの!
 死ぬほど!
 死んじゃうほど痛かった!
 痛くて苦しくて、叫んでも、誰も助けてくれなくて!
 なんで!
 なんで?
 なんで!!?
 俺、が、悪いの?」

「違う!ちがう!
 助けてあげられなくて、ごめん。」
「1人にして、ごめんな。」

「助けて!
 いや!
 助けて!」

会いたいのに、恨み言しかでなかった。
カッコよく役に立てたつもりだったけど、本当は、恨んでたんだ。
あの時、1人にされて、話からも外されて、無理やり寝かしつけられて、恨んでたんだ。

「怖い、怖いよぉ、助けてよぉ
 痛いのやだよ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
 もうやめて!」

錯乱状態だったって、後から聞いた。 
まるで、幼児返りしてたって。

記憶にはないんだ。



鎮静剤を打たれて、ようやくうとうとする頭で、話を聞いた。
ほとんど聞こえていなかった。

覚えている事は、2人が泣き伏していた事と、お義父さんが俺を抱きしめていてくれた事。
愛してるのに、2人が怖い。
大好きなのに、2人が憎い。

どうして?
なんで?

それしか浮かばなかった。
カッコ良くもなれなくて、汚くて醜い体と同じで、醜い心になっちゃったんだ。

誰を許したら良いのか分からなかった。





微睡むように眠っては起きた。
目が覚めるたび、2人を探した。
手を握られて、ここにいるからって聞こえると、すごく安心した。

俺、怒りたかったんだ。

いっぱい怒って、恨み言いって、それでもやっぱり、2人が好きだったんだ。
嫌われたくなくて、あの時寂しくて嫌だったけど、我慢したんだ。

たくさん痛かったけど、我慢したら褒めて優しくしてくれると思ったから、我慢したんだ。

もっといっぱい喧嘩すれば良かった。

もっと嫌だって言えば良かった。

夜目が覚めると、お義父さんが隣で寝ていて、俺の気配で目を開けてくれる。

俺が探すから、2人もベッドを入れて一緒にいてくれた。

3人がいるのを確認すると、ホッとしてまた、眠りにつく、そんな事を繰り返してた。



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