神獣ってモテますか?(モテないゲイは、魔法使いを目指す!@異世界版)

ビーバー父さん

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異世界家族

41シムラクルム編

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「アキ、お前はいなくなってくれるな。」

「何言ってるんですか
 いなくなる訳ないでしょ。」

ふふふと笑うと、まるで小さい子のように俺に抱きついていた腕の力を強め、ためいきをふーっと吐いて、擦り寄って来た。

「タロー様、きっと神様とラエヴはアウィスをちゃんと説得できますよ
 それに、向こうに行ったとしてもタロー様の事を忘れてしまうわけじゃないし」

「だがアキ、アウィスがシムラクルムに嫌がらせや
 危害を加えたら…」

「ね、タロー様
 アウィスは今人ですよ。
 神様が簡単に害を受けるとも思えないのですが」

その人に囚われて命を失かけたのに何を言う、と呆れられた。

確かに、そうだった。
今でも大魔法使いと言われる者たちは存在するし、決して人間が良い隣人というわけではない。

ますます、神や精霊たちと人の間に溝ができるのかもしれない。

「見守るしかない。
 ただ、もし」

「そうですね。
 その時は遠慮なくやりましょう」








ラエヴとシムラクルムがアウィスが働いてる場所へ赴いていた。

アウィスは街の装飾品を扱う店を経営していた。
貴族向けの装飾品を扱い、今いる国王の元へも出入りしてそれなりの地位になっていた。

魔力が全くゼロの平民ではないし、神としての力はなくてもそれなりの魔法を使って、装飾品に色々と付与したりしていた。




「いらっしゃ、兄さん!!
 え、」

アウィスは客と思って振り向いた先の兄ラエヴへ笑顔を見せたが、その少し後ろに立つシムラクルムに顔色を曇らせた。

「何しに?
 この店はそんな高貴な方に合うものはありませんよ」

まだ神だった頃のアウィスの変なこだわりの服は着ていなくて、この世界のスーツのような物に身を包んだ背の高いイケメンでしかなかった。

「アウィス、私たちは伴侶になることにしたんだ」

ラエヴがそう告げると、あからさまに嫌な顔をした。

「へぇ、で?」

商品を並べる手を止めることなく、適当と言った感じで流していた。

「で、また何を兄さんに頼むつもりで言ってんの?
 あぁ、もう、人だから前のような無茶は出来ないですけどね」

あざ笑うようなアウィスにシムラクルムが声をあげた。

「あの時は、私が本当に愚かだった。
 アウィス殿にも迷惑をかけた。
 どうか、許してもらえないだろうか」

「アウィス、私からも頼む」

やっとその手を止めて、二人に向き直ったアウィスはそれまでの薄ら寒い笑顔を捨て、怒りの形相で睨み付けた。

「兄さん、あんたも大概だな。
 俺たちが神籍を降りた理由、忘れたの?
 確かに、ボクがやらかした部分はあったけど、そもそも、そこのクソ神が押し付けて来た人間のせいだろうが」

向こうの世界の神だった時にはなかった男臭さが出ていた。

「だが、お前が嫌がらせ的に魂をすでに生きてる人間の体に入れなければ、あんなことにはならなった。
 それは事実だ。
 私の体を犠牲にしたのは、シムラクルムを苦しめたくなかったからだ。
 その犠牲は、お前への家族愛では無かった。
 だから、わかって欲しい」

「兄さん!
 ボクは兄弟だから好きなんじゃない!
 一人の男として愛してるんだ!!」

「それには前から答えを出してる。
 だから、あの犠牲が必要だった時に甘んじて受け入れたんだ」

心臓を犠牲にした理由が、断ったことへの贖罪であり、シムラクルムへの献身だった。

「ボクは諦めない!」

「諦めてくれ
 ラエヴは、私の伴侶として生きる」

はっきりシムラクルムが宣言した。

「はぁ?
 許すわけないし、諦めたりなんかしない!」

アウィスの怒りの波動が魔力でその辺りの物を飛ばした。
狙った先にはシムラクルムがいて、中にはナイフやら凶器になるものが沢山含まれていた。

「ぐっ!」

シムラクルムの盾になるように、ラエヴが身を挺して庇った。

「兄さん、邪魔!
 そんな身勝手な奴を、なんで!」

「す、まんな、アウィス
 シムラクルムは愛情をもらうことに慣れていないんだよ。
 お前と違って、オプスクリタスと二人で世界を作って来たから
 愛することが当たり前で、愛されることには慣れていないんだよ。
 だから、私は、愛される喜びを教えてやりたいんだよ」

「そ、りゃ、ボクは兄さんが作った世界で後から生まれて来たけど!
 兄さんが弟として愛してくれてるのも、知ってたさ
 それでも、もらえる愛情が嬉しくて、兄さんから愛されていることが誇りだった」

震えながら、アウィスの瞳からは大粒の涙が流れ落ちた。

「アウィス、私を許してくれとは言えない
 ただ、ラエヴと生きることを赦してくれないか」

シムラクルムが、アウィスの体を傷つくのもかまわずに抱きしめた。
ほんの少し、シムラクルムより低い身長のアウィスがいきなり抱きしめられたことにびっくりした。

「愛することは得意なんだ、私は」

優しい笑顔をシムラクルムはアウィスに向け、その背中を抱きしめてトントンと叩いた。
小さいころのアキを泣き止ませるために抱きしめたように。






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