【完結】終わりとはじまりの間

ビーバー父さん

文字の大きさ
3 / 8

退去の日

しおりを挟む

 桂は亮介が周りにいないのを確認しながら部屋へ向かうと、既に引っ越し業者が待機していてすぐに作業に取り掛かって貰えた。
 部屋に入ると警察が来て出て行った時のままで、とにかく処分する物とコンテナ倉庫に運び入れる物とをタグ付けしながら仕分け、梱包をしてもらい運び出すを繰り返した。
 粗大ごみで出すベッドに関してはそのまま粗大ごみとして集積場所へ置いてもらい、それ以外の処分する家電やらは引っ越し業者の方で処分枠として持って行ってもらえた。
 運び出しが終わると、クリーニング業者が入って掃除をしてくれて、入居時と遜色ないくらいにしてもらえたが、一部の壁紙は取り替える事になるだろうと理解していた。
 
「亮介がタバコを吸うからやっぱり少しヤニが付いてるな。
 換気扇の下でもやっぱりダメなんだな」

 運び出し終えた部屋は、何も残っていないただの空洞の様で桂にとってこれが本当の終わりなんだと実感させた。

 コンテナに収納したのを確認すると、その場で現金で支払いを済ませてホテルへと戻った。

「疲れた、本当、マジでなんなんだよ。
 三番手でもいいってやつと付き合えよ、あ、それってただのセフレか」

 口に出して桂は虚しくなった。
 知らないまま、自分こそが亮介のセフレだったのだと、思い知らされたからだった。
 最初からセフレだったらまだしも、一生のパートナーとして同居していたはずだった。
 だが、冷静にこれまでの事を振りかえればおかしなことが多かった。
 自分のSNSチャットLINAには既読にすらならない事が多々あったのに、香子が亮介の行動を把握していたり、桂とのLINAでの電話には出ないのに、香子の子供たちの呼び出しにはすぐ出るとか、どれ程都合よく扱われていたんだと怒りしか湧いてこなかった。
 
「うおぉぉ! 気づけよ!俺! 普通におかしいだろうよ!」

 好きだと言う言葉と気持ちで許容しなきゃいけない気持ちになっていた。
 そうでなくても同性カップルで、女みたいに面倒くさいと思われたくなくて、引き止めたい言葉や心を必死に押しとどめていた。
 消せない気持ちは残るがそれもいつか風化するだろうと、桂は自分に言い聞かせた。




 ビジネスホテルは案外居心地が良くてつい、一週間程連泊してしまい、次の部屋を探せないでいた。

 仕事でクライアントとの打ち合わせに行くのにも、都合がいい立地だったのでホテルを出れない言い訳にしていた。

「それじゃ、次は現地で打ち合わせしましょう。
 図面は先ほどの提案を入れつつ作成してみますから」

『よろしく頼むよ。
 そういえば、引っ越ししたんだって?』

「あ、いえ、まぁ、そうなんですけど、まだ部屋も探せて無くて」

 ネット会議をしながら、打ち合わせも終わり最後に雑談になった相手は桂のクライアントで、結構いい仕事を任せてくれる若手の社長だった。

『どっか紹介しようか?』

「あー、助かりますが、若狭さんが紹介する所って高そうだしなぁ
 やっぱり自分の足で探したいですし、迷惑はかけられませんから」

『迷惑なんかじゃないよ。
 近いうちに飲みに行こうよ、その時までに物件探しておくから』

「はは、ありがとうございます」

 桂は内心、若狭との飲みもこういったプライベートな話をしたくないが故に、今までは断りを入れていた。
 亮介に心配を掛けたくなかったし、桂自身、亮介が好きだから仕事上の付き合いでもなるべく避けていた人物だった。
 それは、なんとなく同じ嗜好の同志な気がしたからだった。
 桂にとってそれだけでは無かった。
 好みか好みじゃないか、で言えば前者だったが実際は素直になれない桂の心が、こんな感情は間違いだと押し込める為の理由でしかなかった。
 だが今は、その頃の状況とは違っていた。
 ほんの一週間前の出来事から目を心を背ける為には、若狭と言う存在が有難かった。

「寂しくなんかないさ、俺には仕事だってある。
 亮介がいなくたって、今までと同じにやっていける」

 自分に言い聞かせる様に呟いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴方へ贈る白い薔薇~思い出の中で

夏目奈緖
BL
亡くなった兄との思い出を回想する。故人になった15歳年上の兄への思慕。初恋の人。忘れられない匂いと思い出。黒崎圭一は黒崎家という古い体質の家の当主を父に持っている。愛人だった母との同居生活の中で、母から愛されず、孤独感を感じていた。そんな6歳の誕生日のある日、自分に兄がいることを知る。それが15歳年上の異母兄の拓海だった。拓海の腕に抱かれ、忘れられない匂いを感じる。それは温もりと、甘えても良いという安心感だった。そして、兄との死別、その後、幸せになっているという報告をしたい。亡くなった兄に寄せる圭一の物語。「恋人はメリーゴーランド少年だった」も併せてどうぞよろしくお願いいたします。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

青龍将軍の新婚生活

蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。 武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。 そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。 「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」 幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。 中華風政略結婚ラブコメ。 ※他のサイトにも投稿しています。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

ふた想い

悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。 だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。 叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。 誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。 *基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。 (表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)

処理中です...