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 テイトを連れ帰った時を思い出していた。
 夕暮れから闇が訪れようとする窓の外を眺めながら、ザクロがテイトの居場所をジョスクに聞いた。

「あの子は、離れか?」

 ジョスクが情事の余韻に浸っていると、テイトの居場所を聞かれ内心慌てながらザクロが与えた離れではない理由を取り繕った。

「離れを嫌がっておりましたから、どこか、好きなところにいるかと」

 あの雑木林の中へ追いやったのがジョスクだと知られるわけにはいかなかった。

「おい!誰か! あの子をここへ連れて来てくれ」

 部屋の外にいたこの屋敷の執事が素早く用件を聞いて、テイトを探しに行った。

 まずい、この時刻ならまだ賊に仕立てた輩が終わってなくて、誰かに見られてしまうかもしれないし、賊が捕まってジョスクが手引きした事がバレてしまうかもしれないと思い、時間稼ぎの為に愚かにも引き止めた。

「今じゃなくても良いじゃないですか、もう少し、私を抱いてください」

「先ほど言ったよな? 私の行く道まで手を取ろうとするな、と。
 私が何をしようと邪魔をするな、と言う意味だと理解できないか?」

「い、いいえ」
 
 恐怖で顔を上げる事が出来なかった。
 元々はヤクザ者だから、普通の男を相手にするのとは迫力が違った。
 お金も事業も全て持っているが、唯一、地位が無かった。
 所詮どこまで行ってもヤクザ者でしかなく、爵位を持つ貴族にとってはただのならず者でしかなかった。
 その為に公爵家と親戚関係になる事で、地位を買ったのだと分かりきっているのに、あのバケモノの様な存在がジョスクの居場所を奪う様な気がして追い出したかった。
 この男の金が無ければ、また昔のように隠れて体を売らなければいけないが、既に売れ時の頃はとうに過ぎていた。
 家門が没落さえしなければ、男爵位でもこの男にとっては有難かったはずなのだ。

 ジョスクが吐いた嘘を信じたのか、疑ったのか分からないが自ら動くという行動を見せた。

「離れが嫌とは面白い」

 股間を隠そうともせずに立ち上がると窓の外を見つめ、ガラスに映し出された表情は恐ろしいほど綺麗に笑って、離れの方向を見つめながら、身支度を始めた。




 執事はすぐさま離れの方へ確認に行くと、ずっと人気が無かった事を伺わせた。
 それは、最初から今までこの離れには主が不在だと言う様に。

「離れが嫌とは言わない方のはず」

 初老の執事はこの時やっと、自分が大きな間違いをしたのではないか、と不安になった。
 今まではジョスクがこの家の主の伴侶と言う前提で行動していた為、逆らうと言う事が無かったが言葉を鵜呑みにしていた事に後悔を覚えた。

「ジョスク様、今回ばかりは問題が大きいかと」

 数人の使用人たちを使って探したが、痕跡さえ見つける事が出来なかった。
 敷地は広いが生活が出来る様な所は限られていたのに、どこにもテイトがいたような生活痕さえなかったのだ。

 ザクロの怒りがいつ爆発するかも分からない状況で、とにかく人手を出して探すしかないと屋敷に戻って下男たちを集める事にしたのだった。



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