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しおりを挟む執事は心なしか引きつった表情で、主であるザクロとトウカを交互に見た。
美人が怒ると怖い、それが執事の脳裏に焼き付いた。
「親様、ずっと一緒にいられますね! 僕、あの、あの、ずっと楽しみにしてて」
テイトは十八になったのに親が恋しくて泣いてしまったと思われたくなくて、必死に笑顔を作ってトウカに料理の説明をしたり、花を飾ってくれた使用人の事を話したりした。
「テイト、分かってるから、大丈夫だよ。
ごめんね、今まで苦労させて辛い思いも痛い思いも一杯させて。
お前を守ってやれない親でごめんね」
「ち、違う、違うよ!
親様はいっぱい庇ってくれてたよ! だけど公爵様がいつ機嫌を損ねるか分からなかったから、あれしか方法が無かったんだし、それに一応戸籍は息子にしてくれたから死ななくてすんだんだよ?
親様が取りなしてくれてたから」
トウカはテイトを抱きしめながら、それでもごめんね、と涙した。
「平気だよ、だって今は幸せだもん」
「でもテイト、僕の事をお父様って呼んでくれないじゃない」
ずっと不自然な呼び方をしていた。
ザクロもそれに合わせて、親御さんと言う言い方をしていたが、テイトに呼べない事情があるのだと思っていた。
「そ、の、公爵家で、お父様と呼ぶとご当主がお怒りになる、って言われたんだ。
本当は僕を息子にしたくなかったって。
その、お父様はずっと公爵様の美しい人で子供なんか産んでない、ってしたかったって」
「そうだったんだね。
知らなくてごめんよ。
もう、いくら呼んでも誰も咎めたりしないから、呼んでくれないか?」
トウカに抱きしめられたまま、テイトが小さな声で、お父様、と呼んだ。
「ありがとう、テイト。
嬉しいよ」
「お父様、お父様!」
テイトがぎゅうぎゅうと抱きついて、初めて呼んだ言葉に涙をあふれさせていた。
そんな姿を見て執事や執事見習い、テイトを慕っていた使用人たちが目頭を押さえていた。
二人の会話や、テイトがこの家に嫁してきた時のボロボロの姿に加えて、明らかに暴力で体を傷つけられた跡の理由が分かり、使用人たちは怒りや恥ずかしさを覚えた。
テイトに助けられ感謝はしていたが、最初の頃はジョスクに煽られたのもあるがバカにしたり仕事を押し付けたりした者もいたからだ。
多少なりとも聞いていた事情も、あくまで想像で実際の親子の会話で知る事実では重さが違った。
もし、自分がその立場なら耐えられただろうか、と。
「さぁさぁ、二人とも!
せっかくのお料理がしょっぱくなってしまいますよ」
ザクロがその場の空気を壊してくれたことで、使用人たちはそれぞれの持ち場で動き始め、そっと見守る目は少し赤くなっていた。
事前に話を合わせていたとはいえ、トウカの容姿に似た遺体を探すのは容易ではなかった。
顔は分からないようにするとは言え、髪色や体のどこかに黒子や目立つシミが無いか、吟味するのに時間がかかった。
「神族でもトウカ殿はひと際珍しい髪色だから、探すのに苦労した」
「そうですよね。
この髪色で公爵が欲しがったみたいですし」
トウカの髪色が薄い緑がかった黒で、クジャクの羽根の様な色は本当に珍しかった。
「で、悩んだ結果、風の神にテイトが力を借りる事にしました」
「ふふふ、聞いてます。
テイトの髪の色と同じなのに、いつも汚れていたから公爵も気づかなかったんですよ」
言外にバカが、と言う言葉が含まれていた。
「では明日、帰る馬車に仕掛けましょう」
「ありがとうございます。
まさか族長が僕の事に関与してるとは思ってもいませんでした」
戸籍が死亡で届が出されていたと言う事は、死亡証明が出されてそれを族長が承認したと言う事だった。
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