【完結】僕の好きな旦那様

ビーバー父さん

文字の大きさ
27 / 36

27

しおりを挟む


 騒ぎはそれほどの時間を要していなかったが、族長と言われる人物が現れるには大分時間が経っていた。

「風の神をおろせる巫覡が! それにトウカ? トウカなのか?!」

 集まっていた大勢の人達をかき分ける様に、トウカの前に出て来た人物が奇跡を見る様にテイトの変化した姿を見て喜び、掌の中のトウカを見て心底驚いて、そして幸せそうに笑った。

「お前、生きていたのか?
 何で今ままで、どこに居たんだ!! 探したんだ! 手を尽くして探したんだ!」

 泣き崩れている族長を、トウカは冷たく見下ろしていた。

「三文芝居はいい加減にしてもらえませんか?
 私が拉致された時、貴方は助けられたはずだ。
 大地の巫覡の貴方なら、私がどこへ、誰に連れ去られたのか知っていたはずだ」

 その言葉を聞いて一瞬テイトの体が震えた。
 
「大地の巫覡でも出来ない事はあるんだ!」

「えぇ、快楽に溺れていれば、大地の精霊も力を貸すこともしないでしょうし、豊穣の神がいくら奔放とは言え風の神無くしては、その力も発揮しきれませんからね」

 大地の精霊と豊穣の神がお互いを支える存在だが、本来の大地の精霊は生真面目な性分で豊穣の神はその広い大地をに恵みをもたらすために奔放だった。
 それは風の神と太陽の神が一対であるのと同じで、風の精霊は気まぐれだが太陽の神は平等さで風を宥めも叱責もする神だった。
 そして力はお互いが不可侵としていた。

「そんなんことは無い! タキが勝手に!
 私はトウカだけを待っていたし、伴侶はお前だけだと思っていたから、誓いはしなかったのだ!」

 その言葉を聞いて、フッとバカにしたような笑いがトウカから漏れた。

「それは伴侶を一人に決められなかった、と言ってる様なものです。
 タキに陥れられ、私は公爵に汚されました。
 既に巫覡ではなくなったと思ったのですが、風の神の配慮で私が次代になりました。
 いいですか?
 私が次代の巫覡なんですよ?
 そこを理解した上で私からの提案を飲んでいただきたいのです」

 トウカが族長を脅すように飲ませた提案は、トウカとシャイアンの行方を追わない事、神事に関してはタキがやれるだけやる事、こちらへの連絡は風の子を通す事、それだった。

「何もシャイアン様も神事をしないとは言ってません。
 ですが、神族の管理でする事は無いです。
 必要最低限、どうしてもシャイアン様ではなくては出来ない事態にのみ、執り行います。
 また、私もシャイアン様も本来の名前を捨てますので、この先名前などで追うとか行政的な何かの手段を講じようとは思わないでくださいね」

 冷笑を浮かべながら、淡々とトウカが述べた事を周りにいた神族は顔色を悪くして聞いていた。

「あおれは、余りにも自分勝手で」
「自分勝手にトウカを公爵へ渡しておいて、何を言う!!
 貴様らをここで一掃したいのを我慢しているのに、これ以上口を開くなら」

 テイトがここまでのやり取りを聞いて、震えるほどの怒りを露わにした。

「そうですね、それも良いかもしれません。
 こんな茶番に付き合って、一応神族を立てたつもりですが、こんな小さな世界で虚栄を満たすような者たちが神の代弁者になるなど、それこそ神への冒涜でしょう」

 トウカも一掃することに是と応えると、テイトがその権能を奮った。

 風は突風を伴い、雲を呼び雨を降らせた。
 十八年前の時の様に。

「これは反逆です!! 
 神への冒涜」
「笑止千万、神の巫覡を貶めておきながら、反逆だの冒涜だのと! 
 神は寄り添う事を望んでいるだけで、その信仰を捨てるならばそれを追わず、信仰を持つ者はそのすべてを受け入れる、それが神だ!
 勝手な偶像信仰を作り上げ、神を蔑ろにしてるのは貴様らだと知れ!」

 吹き荒れる雨風に対して、他の精霊の巫覡たちがなんとか抵抗しようとそれぞれの子らに頼んでみたものの、誰も手を貸す事なく神族国は一夜のうちにその姿を消すことになった。
 
 神族国の滅亡だった。
 
 

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...