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しおりを挟む騒ぎはそれほどの時間を要していなかったが、族長と言われる人物が現れるには大分時間が経っていた。
「風の神をおろせる巫覡が! それにトウカ? トウカなのか?!」
集まっていた大勢の人達をかき分ける様に、トウカの前に出て来た人物が奇跡を見る様にテイトの変化した姿を見て喜び、掌の中のトウカを見て心底驚いて、そして幸せそうに笑った。
「お前、生きていたのか?
何で今ままで、どこに居たんだ!! 探したんだ! 手を尽くして探したんだ!」
泣き崩れている族長を、トウカは冷たく見下ろしていた。
「三文芝居はいい加減にしてもらえませんか?
私が拉致された時、貴方は助けられたはずだ。
大地の巫覡の貴方なら、私がどこへ、誰に連れ去られたのか知っていたはずだ」
その言葉を聞いて一瞬テイトの体が震えた。
「大地の巫覡でも出来ない事はあるんだ!」
「えぇ、快楽に溺れていれば、大地の精霊も力を貸すこともしないでしょうし、豊穣の神がいくら奔放とは言え風の神無くしては、その力も発揮しきれませんからね」
大地の精霊と豊穣の神がお互いを支える存在だが、本来の大地の精霊は生真面目な性分で豊穣の神はその広い大地をに恵みをもたらすために奔放だった。
それは風の神と太陽の神が一対であるのと同じで、風の精霊は気まぐれだが太陽の神は平等さで風を宥めも叱責もする神だった。
そして力はお互いが不可侵としていた。
「そんなんことは無い! タキが勝手に!
私はトウカだけを待っていたし、伴侶はお前だけだと思っていたから、誓いはしなかったのだ!」
その言葉を聞いて、フッとバカにしたような笑いがトウカから漏れた。
「それは伴侶を一人に決められなかった、と言ってる様なものです。
タキに陥れられ、私は公爵に汚されました。
既に巫覡ではなくなったと思ったのですが、風の神の配慮で私が次代になりました。
いいですか?
私が次代の巫覡なんですよ?
そこを理解した上で私からの提案を飲んでいただきたいのです」
トウカが族長を脅すように飲ませた提案は、トウカとシャイアンの行方を追わない事、神事に関してはタキがやれるだけやる事、こちらへの連絡は風の子を通す事、それだった。
「何もシャイアン様も神事をしないとは言ってません。
ですが、神族の管理でする事は無いです。
必要最低限、どうしてもシャイアン様ではなくては出来ない事態にのみ、執り行います。
また、私もシャイアン様も本来の名前を捨てますので、この先名前などで追うとか行政的な何かの手段を講じようとは思わないでくださいね」
冷笑を浮かべながら、淡々とトウカが述べた事を周りにいた神族は顔色を悪くして聞いていた。
「あおれは、余りにも自分勝手で」
「自分勝手にトウカを公爵へ渡しておいて、何を言う!!
貴様らをここで一掃したいのを我慢しているのに、これ以上口を開くなら」
テイトがここまでのやり取りを聞いて、震えるほどの怒りを露わにした。
「そうですね、それも良いかもしれません。
こんな茶番に付き合って、一応神族を立てたつもりですが、こんな小さな世界で虚栄を満たすような者たちが神の代弁者になるなど、それこそ神への冒涜でしょう」
トウカも一掃することに是と応えると、テイトがその権能を奮った。
風は突風を伴い、雲を呼び雨を降らせた。
十八年前の時の様に。
「これは反逆です!!
神への冒涜」
「笑止千万、神の巫覡を貶めておきながら、反逆だの冒涜だのと!
神は寄り添う事を望んでいるだけで、その信仰を捨てるならばそれを追わず、信仰を持つ者はそのすべてを受け入れる、それが神だ!
勝手な偶像信仰を作り上げ、神を蔑ろにしてるのは貴様らだと知れ!」
吹き荒れる雨風に対して、他の精霊の巫覡たちがなんとか抵抗しようとそれぞれの子らに頼んでみたものの、誰も手を貸す事なく神族国は一夜のうちにその姿を消すことになった。
神族国の滅亡だった。
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