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天界革命
脱兎
しおりを挟む別支店だとか、マネも異動するだとかあまり現実味のない話を真に受けたりはしない。
「取り敢えず、保留で。
みなさんのこれまでの努力もプライドも、当たり前の事なんですから。」
俺は、みんなに捕まらないように、こっそりと店を出て、部屋へと戻った。
天界のシステムで、今回は公務で人間界に来ているから、資金に困ることはないが出来れば使いたくない。
報告はあげるけど、居場所は知られたくないから。
ウリエルの事を待っているか、と聞かれたら、正直な気持ち多分来ないだろうと思っている。
居場所を知らせているのに、日々を期待して待つのは辛いから、それなら知らせていないから来ないのだと言い聞かせる方が良かったから。
そうなると、天界から出される資金に手をつけるわけにはいかなかった。
部屋の契約も、人間界にいたときに貯めたお金だったし、探して欲しくないと思えば、この赤い翼が隠してくれるはず。
なら、ガレオスたちからも離れた方がいい。
もし、誰かが来たらすぐに見つかってしまうかも知れないから。
違う土地で、違う部屋をすぐに借りた。
今までが新宿なら、池袋とか、少しだけ繁華街の場所を変えた。
ただ、ダンサーの様な仕事は無いので、バーの仕事にした。
所謂、ゲイバー的なお店だけど変な感じではなくて、純粋に男性客しかいない店。
あれ、それは変な感じに入るのかな?
落ち着いた雰囲気で、ほんの少し安心出来るような、そんな店だった。
カウンターで洗い物をして、時々フロアで片付けをする。
基本はオーダーされたお酒やツマミを出したりするだけだった。
たまに、お喋りをさせられるけど、本来の死んだ表情筋のせいで、大体黙ってグラスを磨き、カウンターにマスターが作ったお酒を出すだけだった。
その人は常連客らしく、マスターにも他のお客にも挨拶をしながら、入ってきた。
「君、最近入った子でしょ?」
「はい、今週から働かせて貰ってます。」
にこやかにとは言えないが、多少口角を上げて答えた。
「ハーフ?」
「さあ?
自分の親は分からないので」
嘘では無いし。
「悪い事聞いちゃったね
お詫びに、一杯飲んでよ」
バーの様な場所で有りがちな会話が続き、お客のお酒をもらう事で売り上げを上げていく。
顔と身長のおかげで、ハタチそこそこで通るから、あまり飲めないと言えば許された。
それでも、雰囲気や流れを見てお酒を貰う場合もある。
「ありがとうございます。
カシスオレンジを頂いてもよろしいでしょうか?」
甘めなカクテルを貰って、お礼を言う。
「名前は何て言うの?」
「ノエです」
「ノエちゃん、綺麗だねー」
今日初めて会った常連客は、シマダさんと名乗った。
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