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秘めた心

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「伯父上、執務室まで送りますよ」

「ん、ありがとう」

 皇太后様がもうすぐ寿命を終わらせる、それ自体は理だから仕方ないが、この魔法がある世界の人達はどうもその理を外してでも執着する所があるようだった。

「もう、難しいのかな。
 エルなら、エルの力ならお祖母様を若返えらせるんじゃないかな」
「伯父上! ひいお祖母様はなんて仰ったかきいてなかったのですか!
 先代陛下がされた執着と同じになってしまいます!
 しかも、生がある側が引き止めるとは!」

 私は思わず、伯父上を叱り飛ばしてしまった。

「リュシアンは強いなあ。
 もしこれがエルだったら、とは考えないの?」

 痛い所を突いてきた。

「助けられる理の範囲であれば、何としてでも足掻きます。
 ですが、人の衰退に対して、足掻く術があるなら最初から過去も未来も無いでしょう」

 アンデット、もしくは不老不死が確立されているなら、未来も必要が無いものだ。

「酷いよ、そんな風に言わなくても良いじゃない。
 誰だって一度は考える事だと思うよ?」

「そうですね。
 私も残す側になれば、そう思います。
 だけど、残される側は未来を見なきゃいけないのに、それを悪い事の様に思いたく無いですよ」

 アイツは、俺が死んで泣いてくれただろうか。

「リュリュ? どうした?」

「あ、いえ。
 なんだか、母様に会いたくなりました」

 前世の話が出来るのは母様だけだからだと思う。
 急に懐かしくて苦しい思い出を吐き出してしまいたくなった。

「リュリュはそんなに立派な男なのに、マザコンだったのかぁ」

 マザコンじゃない、と思う。

「母様は特別ですからね」

 特別の言葉に引っかかったのか、母様に引っかかったのか、どちらにせよ伯父上の心を今占めたのは、母様だと分かった。

「さて、ミラが騒いでるだろうから、仕事に戻るとするか」

 心中は計り知れなかった。
 ただ、頷き私は彼を執務室まで護衛をするだけだった。





「ミラ、すまなかったね」

「テオドア殿下、日中の行動はお体に影響が出ます。  
 お見舞いに行かれたいなら、日差しが翳る夕方にお願いできませんか?」

 執務室で待つミラは、母様にそっくりで今の私には目を背けたくなる人物だった。

「ミラには隠せないなぁ」

「当たり前です、一番長い時間を一緒にいるんですから」

 このやり取りは、キた。
 
「あー、戯れるならお二人だけの時にして下さい。
 私は戻りますから、ミラ、任せたよ」

 部屋を出ようとすると、ミラが実家に顔を出せと言ってきたが、こんな気持ちを抱えた状態では、母様にも会いたくは無かった。

「しばらく休暇を取るつもりだ。
 自由に過ごさせてくれ」

「もう! 兄様はほっとくと部屋に篭りきりになって、ご飯も食べないじゃ無いか!
 一人暮らしなら心配だよ!
 僕が見に行くからね!」

「来なくていい。
 私にも会いたい人がいる」

「え!? 恋人が出来たの?」

 恋人じゃなくても、セックスは出来るさ。
 セフレがそうだ。

「お前が知る必要はない」

 伯父上の顔を見る事なく、扉を閉めた。
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