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前世と今世

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「なんで僕だけにしてくれないの?
 好きなんだよ! なんで! ねぇ、何でだよ!?」

「はっ、は、刺しながら言われても、な、むり、だろ」

 衝撃から、熱さ、そして激痛に体が震えた。
 倒れた上に覆いかぶさって、更に数カ所を刺された。

「だって、だって! いっぱい調べたんだから! 僕の事、僕を恋人にしてくれないなら! 誰か他の人を抱くなんて!! 絶対に嫌だ! 許せないんだ! だから、だからね、仕方ないんだ! 次に生まれ変わったら、恋人になろうね」

「か、んべん、してく、れ、なまえ、も、おぼえてね、ぇよ」

「僕は……、だよ」

 聞き取れなかった名前だが、別にどうでも良い。
 最期のひと突きが振り下ろされ、意識は無くなった。

 義兄じゃなきゃ、大地じゃなきゃ誰だって同じだ。






「はっ!」

 久々に死に際の夢を見た。
 
「はぁ、朝から気分が悪い」

 ベッドから起き上がると隣に眠る娼館の男を横目に見て、シャワーを浴びに浴室へと向かった。

 バカな事を繰り返している自覚はあった。

「前世と何にも変わってねぇな」

 懐かしい口調で、自嘲した。
 背後に気配を感じて振り向くと、全裸の男娼が入り口に立っていた。

「旦那様、お手伝いします」

「いや、構うな」

「昨日はあんなに激しく抱いてくださったのに」

「悪かった。
 割増料金を払おう」

「いりません、その代わり専属にして下さい」

 専属にと言う男娼は、娼館にいるにはだいぶ薹が立っていたせいか、お茶を引く事も多いのだろう。

「私は娼館から出せないぞ」

「構いません。
 身請けをして下さるなんて思っておりません。 
 ただ、私が待つ理由が欲しいのです」

「そうか、来なくても良いなら、指名はしてやろう」

 男娼は目を見開いて、ゆっくりと微笑んだ。
 その微笑みに一瞬見惚れて、チクリと胸が痛んだ。

「旦那様、ありがとうございます」

「いや、大した事は出来ない」

 スッと入ってくると、絡める様に抱きついて来た。

「旦那様、お名前を教えてください」

「俺は、リュ、いや、タツキだ」

「っ、タツキ様、私の事はお好きにお呼び下さい」

 貴族と違って短く刈り込んだ髪は、白髪と思えるくらい白い銀髪に、黒い瞳がアンバランスさを伝えてくるのが気に入って、昨夜はコイツを選んだ。

「なんて名だ?」

「え?」

「お前の名前だ。
 呼ばれたい名があるだろう」

 二人して全裸で何とも間抜けな図式ではあるが、絡みつく腕が心地よいと思ってしまった。

「そ、それなら、ダイチと呼んでください」

 まさか!? そんな訳ない。
 大地が転生したとか、そんな筈、無いって言い切れるか?

 自分が転生者で、母様も転生者なんだから、あり得る話じゃないか。
 血の気が引く思いと同時に、僅かな期待を抱いてしまった。

「タツキ様?」

「いや、何でもない。
 ダイチ、次に来るかどうかは分からんが、来た時はお前を指名しよう」

「ありがとうございます!」

「専属、とは言えんが」

「いいえ、タツキ様が来て下さるだけで、幸せです。
 他の人を抱かないでくれるだけで」

 娼妓のプライドなのだろうか?

 休暇の一日目は、娼館から始まった。


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