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諸悪の根源
しおりを挟む「お兄様、私の為に!」
「は?何を言ってる?」
トルクはこれ以上ないくらい蔑んだ目を、トアに向けた。
こんなクソガキの為に!
コイツが最悪な奴だって分かってたのに!
怒りの矛先を向けるなら自分だと分かっていた。
あの子が好きだった。
可愛かった。
何も知らないまま、レオハルトにおもちゃにされるのを見ていられなくて、あの子の心に石を投げ込んだ。
波紋は広がり続け、ほんの少し、配置を変えた駒を置いたら、面白いように動いてくれた。
あの子を解放できた。
次は自分があの子を守って愛して、自国の為に動こうと決めた。
愛されることを全身で求めるあの子を、自分のものにするのは簡単だったはずなのに、なかなか落ちて来ないから、先に枝に切り傷をつけておいた。
あまり疑わない、優しいだけの子がやっと枝が折れて落ちて来た。
落ちて来たあの子は甘くて甘くて、可愛くて、手放せなくなった。
あの子が笑うと幸せで、あの子が怒ると怖くて、あの子が泣くと辛くなる。
だから、あの子の笑顔をたくさん見たくて、たくさん愛した。
愛したはずだったのに、瞬き程の時間で、あのクソガキが全部壊した。
あの子を利用したくなかったから、誓いも立てたのに、あの子は全部知って、全部受け入れて、全部引き受けて、全部終わらそうとして、壊れた。
最後に聞いた言葉は、それでも私が好きだと言う言葉だった。
なんで目を開けないんだろう。
あのクソガキの言葉の方があの子には大事だったのかな?
ねえ、聞いて、あの子の心臓の音はまだしてるのに、起きてくれない。
今度はトルクが壊れそうだった。
「お兄様、酷い、私を」
「私が酷い?
そうだな、咲季にした事は、私が一番最初に悪い。
だがな、咲季に虚言をぶつけ、侮蔑の言葉を吐いて、自分だけ高みの見物は無いのではないか?」
「咲季様は、それだけの力があるのです!
ならば、その力を家族に使うのは当たり前です!」
「お前は家族じゃないんだろ?
豚と言い切ったじゃないか」
「それは気が動転していたので」
「何も与えない奴が、与えて欲しいと享受ばかりをねだるとは、浅ましいな。」
「おい、貴様ら、戦わないなら
さっさとさきを渡せ!」
「レオハルト、そちらの国の要求は、子供を渡せだったな。
コイツをやる
どうにでもしろ」
「な、お兄様、何を!」
トルクはトアの首を掴んで、レオハルトに向かって振り投げた。
「うお、マジか!」
「ああ、それ持って帰れ」
酷いだの、何だの言っている二人を追い出して、城門を閉めた。
ワイスが咲季を、トルクへ返した。
「トルク様、何故これほどまで傷つけたのですか。
咲季様は、貴方に全てを与えたのに」
「ワイス、私たち皆が悪いのだ。
何も関係ない咲季ちゃんをあてにして、家族という縛りを与えて、利用しようとしたからだ。
あんな性悪の為に、全てを壊してしまった。」
一人は嫌だと言うあの子を、縛り付けて利用しようとした。
でも、好きだったから離したくなかった。
利用したかったからじゃない。
好きで可愛くて、愛していたから話せなかった。
こんな計画を立てる愚かな自分が恥ずかしくて、言えなかった。
「トルク、本当にすまなかった。
咲季ちゃんが目覚めたら」
「目覚めないかもしれません
だって、咲季にとって、この世界も良いことなんてなかったんだから。」
「おい、トルク。
お前がしっかりしなきゃダメだろ?
咲季ちゃんはワイス達に任せて、今日はもう休め。
明日には目覚めてるかもしれないじゃないか」
「神様の力も及ばなかったのに?」
「それでもだ!
咲季ちゃんは、本当にお前の事が好きだったから壊れたんだろ?
だったらお前がどれだけ本気で好きか伝え続けて、ひたすら謝れ!
あんな優しい子が、お前を許さないはずがないさ」
その自信はどこからくるんでしょうかね?
咲季は怒ると物凄く怖いんですよ。
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