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灯る命の火
しおりを挟むシュリがトルクの腕から、エストゥールを受け取った。
「ごめんな、エリュ
お前はいつも人の為なんだな…」
ボロボロと瞬きもせず、床に雫を落としていた。
『バカシュリ!』
『シュリの脳筋!
脳筋なら脳筋らしく、本能で断ち切れよ!
母様が神様のとこで治療されてるから、神の祝福も今は使えないし』
「あ、私が使えるよ。
それに、神の権威と魂の本質を持ってるから、マロの命の泉となら、エリュを再生出来るはずだ。」
ここで初めて、フロウとマロが、父様偉い!と口を揃えた。
失墜していたトルクの威厳が、やっと回復傾向になったのだった。
「ついでに咲季もお迎えにいかないとな。」
「その前に、神殿ぶっ壊す!」
『ねぇ、母様、エリュを産んでくれないかなぁ。
あんな風に、血が繋がらないとか気にさせたくないよ。』
マロの意見も分からなくはないが、あまりにも難しい話だった。
神殿を破壊して行けば当然、レイシン国も動き軍隊が派遣された。
『これ、秘密裏にやる話じゃ無かったっけ?』
マロの一言で、周りが固まった。
内心、やべぇ、と言う表情がダダ漏れになっていた。
『マロ、俺の人選ミスだ。
脳筋に細かい事、出来るわけなかったわ。
まして、エリュがこうなった今、あいつを止められるのは母様しかいないのに、その頼みの綱が治療中だしなぁ。
もう、やらせるだけやらしとこう。』
監視画面は、ぶっ壊したり格闘したりするだけのアクション映画が流れているようだった。
脳筋シュリだけでなく、タナトスから自白証言を証拠に取った、ロゲルとトリシュも加わっていた事は言うまでもなく、ほんの1日半の間に神殿を物理的にも崩壊させ、その地下で捕らえられていた魔族や、旅人たちを解放した。
政治的に交渉予定が、力技で押し通すハメになり、あわや戦争か!となる所を、都合良く自分達の白を使い、神の如く説き伏せた。
言い負かした、とも言う。
実際、トルクにはそのスキルはあるので、あながち間違いではなかった。
やり方は、ぶっ壊れ系だった。
今後は正当な交渉でエスラ国と対話していく事で、話しは落ち着いた。
武力行使があったからこそ、早く決着がついたのも事実だった。
彼らが引き上げる時に、二度と神殿で奴隷や信仰の行き過ぎで監禁のようなことをしないと言う制約をさせた。
力押し過ぎて、レイシン国から反発が無かった訳じゃないが、こちらの王族の息子やその伴侶を拉致監禁、精神支配の上末の息子を殺害、これらの証拠がある以上何も言えなかった。
むしろ、この程度で済んだ事に驚きを覚えた程だった。
エストゥールの亡骸は、シュリが大事に胸に抱えていた。
シュリが危険なら絶対助けると、小さな体で一生懸命言っていたエリュの言葉を思い出して、後悔だけを掘り起こした。
「シュリ、どうなるか分からないが、エリュを元通りに出来るよう、皆んなで力を尽くそう。」
トルクに言われても、シュリの中の罪悪感は消える事は無かった。
「エリュは、いつも俺と一緒にいたいと、助けてくれると言っていたのに。」
「助けられたじゃないか。
エリュが戻ってきたら、ありがとうと、ただそれだけで良いんじゃないか?」
シュリは何かをじっと考え込んで、次に言葉を選びながら父親であるトルクに告げた。
「父様、俺は、エリュを伴侶にしたい。
家族よりそれ以上近い所で繋がりたい」
トルクは漸く決めたか、と言って笑った。
帰路に着く船に乗り込み、広い海を眺めながら腕の中のエリュに、早く俺の気持ちを聞いてくれ、と呟いた。
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