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可及的速やかに
舞踏会は踊る
しおりを挟む「イエニス嬢、ファーストダンスを私と」
ロアール殿下に差し出された手を受けて、少し頬を赤らめる、と言うオプション付きですわ。
「喜んで、ロアール殿下」
会場の中央まで出ると、沢山いた人達は私達を取り囲む様に、輪を描いて広がり私達が踊るには十分過ぎる広さに広がって、まるで牛が馬が競売にかけられているような、値踏みという言葉が正しい視線に晒されてしまいましたわ。
「ふふ、五歳、いやまだ六歳差になるか」
「そうですわね。
あとひと月もすれば、五歳差ですわ」
女は心も体も成長が早くてよ。
それに中身は前世の記憶と相俟って、既に還暦を超えてますわ。
「イエニス嬢、これからは正式な婚約者としてよろしく頼む」
「はい、お役御免になるまで、しっかりと努めさせて頂きますわ」
お喋りをしながらも、素晴らしいリードで踊らされている私に、またもや可哀想な子を見る目を向けられてしまいましたが、もう、あの虐待より、復讐の計画の方が頭を締めていますので、その様に哀れまれなくても宜しいのですよ。
「さあ、まもなく曲が終わる。
どう出るか楽しみだな」
「えぇ、彼らの事ですから間違いなく悪女の悪行を前面に出してくるでしょうね」
聖女様がどれ程の力があるか見せて頂けるので有れば、良い娯楽になりますわ。
曲が終わり、お互いにお辞儀をしてエスコートされて退場すると、待ってましたとばかりに義母が私に向かって手を振り下ろした。
「恥ずかしいとはおもわないのですか!?
妹の婚約者である皇太子殿下を、黒魔術で誘惑するなど!!」
ったー!!
「お母様!
お姉様は愛されたかっただけなんです!
ですから黒魔術に救いを求めたのですから、聖女である私がお姉様を浄化して差し上げる為にも、黒い血を流さなければいけないんです!」
黒魔術ですって。
聖女がいるなら、魔法の一つや二つあってもおかしくないですわね。
「貴様ら、私の婚約者であるイエニス嬢に手をあげ、更に黒魔術などと!
不敬にも程がある!
反逆罪だ、衛兵! 此奴らを取り押さえろ!」
こんなおかしな話が通る筈がないと普通に思うのに、こんな事をする勝算がわからなかったわ。
すると義母は私に体当たりをする様にしてよろめかせると、義妹は持っていたナイフで私の腹部を狙って刺そうとしたけど、身体的にはマト○○クスのキアヌの様な動きが出来る私には避けるなんて造作もない事でしたわ。
グサッ!
「あ、あ、」
私が避けてしまった為に義母がその凶刃に自ら刺される様な形になってしまったのは、残念でしたわ。
「お姉様は悪魔よ!
お母様を盾にして!」
「そうかしら?
なら、あなたの聖女の力で母を救ったら良いじゃない」
「何を言ってるの?
刺されて」
「刺したのは貴方よ」
「私は! お姉様が間違った事をされたから!」
「でも刺したのは貴方よね?
間違って刺しかもしれないけれど、その手で母を刺したのは貴方だから。
聖女さま、どうか母をお救い下さい、かしら?」
聖女の力とやらは偽物だと確認済みですから、もし母が助かるならそれはトリックですわね。
トリックかしら?
「お義母様?
刺された所はどこかしら?」
緊急を要する手段として、ナイフが刺さってる辺りのドレスを引き裂いて確認しましたわ。
「やめて! 何をするの! きゃあああ!」
血は出ておりませんでしたわ。
更に言うと、刺さった振りだけをしていましたわ。
「あら、こちらはオモチャですのね」
「本当だな。
この小細工されたナイフは何だ?」
殿下と衛兵が聖女と義母を取り押さえ、私が引き裂いたドレスに刺さったはずのナイフを見ながら聞かれました。
「お姉様が心を入れ替える様に」
「そして刺した筈が、聖女の力で治癒したとでも言う気だったか?」
皇太子殿下に筋書きを言い当てられたからか、義妹は真っ青になりながら、姉が悪いと訳の分からない理屈を言い始め、聖女とは思えない取り乱し様でしたわ。
「悪女が殿下の婚約者だなんておかしいのよ!
聖女である私が相応しいのに!」
「貴方、聖女ではなくて、ただの詐欺師ではなくて?
このナイフといい、私に刺さっていても、いなくても、治癒したと言い張ったのでしょ?
そして、対価を得ていたのではなくて?」
まあ、裏は取れておりますわ。
「お姉様が悪女なのは本当じゃない!」
「いえ、私たちがお金を積んで噂を流させました」
皇太子殿下の成人の儀でもある舞踏会に、偽家族の商人たちが衛兵に連れてこられていましたわ。
用意周到でしたのね。
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