僕はどうやら最強能力者のようです

榛名レオ

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プロローグ

謎の能力者VS上段の能力者

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   「嘘でしょ……なんでここに……」
私は驚きを隠せなかった。道の真ん中に人が倒れていたので、急いで駆けつけたのだが、その倒れていた人は、クレフティスのリーダーであり、地域トップクラスの強さを持つ能力者、後藤雅弘だった。頭のキレも良く、警察から逃れるのに長けているため、我々も頭を悩ませていた。
「こんな傷だらけで倒れているなんて、誰かにやられたってこと…?」
だとすれば一体誰に?もしかして、『ディアベルス』が?でも、この人に勝てる能力者なんて数が限られるし、気絶させてこのまま放っていくこともしないはず。じゃあ、ディアベルスじゃない誰かになる。誰?誰なの…?
    私がそう考えを巡らせていると、後輩が駆け足でやってきた。
「先輩!やっぱり現金ありました!ざっくりではありますが、盗まれた額とおんなじっす!」
後輩のその声で、私の意識ははっと現実に戻る。
「…って、人倒れてるじゃないすか!」
そう言って後輩は後藤に駆け寄る。
「大丈夫すか!?てっ……え?」
後輩が容態を確認しようとし、後藤の顔を見て愕然とする。
「ちょ、なんでクレフティスのリーダーである後藤がいるんすか!?」
後輩も私と同じく驚きを見せる。
「とりあえず、急いで救急車を読んでちょうだい。あと、ディアベルスにも連絡してちょうだい。」
「分かりました!」
そう言って彼は携帯電話を持ち、イヤホンマイクに何か話しかけながら小走りでパトカーに向かった。とりあえず、一刻も早く心臓マッサージをしないと死んでしまうかもしれない。それになんでこの場所で倒れていたのかも聞かなきゃいけないし。そう思いながら、私は彼の上着を脱がし、上半身を露わにする。
「……!」
見ると、思っていた通り傷だらけではあったが、それよりも気にせずはいられないものがあった。
「何……?この痣…」
彼の腹部の上方には、中央から広がるように紫色に染まっていた。私はそれに唖然としてしまい、手を動かすことができなかった。
「ここに殴られたから気絶したってこと…?え、多分肋骨折れてるよね…?臓器とかも多分大丈夫じゃないよね……あーこういう時って心臓マッサージってしていいんだっけ!!」
と私が焦っていると、後輩が戻ってきた。
「先輩!もうすぐ応援が来ますよ!」
その後輩の声にまた私は途端に冷静になる。いくら焦っても仕方ない。私はできることをすれば良い。そう思い私は後輩と後藤やその部下達の応急処置を施し、更に周辺の調査も行った。










「えー、容態はかなり危険でしたが、あなた方が応急処置に手を施してくれたおかげで命に別状はございません。今後治療し続け、完治しましたらそちらにご連絡をさせていただきますね。」
医師の言葉を聞いた私は少し安心する。
「ありがとうございます。それでは失礼します。」
後輩はそう言い、私たちは病院を後にした。
前日の早朝、応援に駆けつけてくれた他の警察官とディアベルスの助けもあり、後藤その他部下複数人を保護し、現在都内の大学病院で治療されている。更に盗まれた現金も無事回収することが出来たが、一番の謎が残っている。それは…
「クレフティスの奴らを倒したのは誰か、早く見つかると良いっすねー。」
そう。後藤たちをコテンパンにした者の正体だ。
    もし、本当にクレフティスをあんなボコボコにした人がいるのなら放っておく訳にはいかない。早く見つけて、話を聞かなければならないのだから。
    現金が積まれていたワゴン車には、ドライブレコーダーが設置されていた。録画したデータから何か分かるかもしれないと、警察が回収した。恐らく、すぐに結果の連絡が来るかもしれない。
「そういえば、ディアベルスからは何か言われたんすか?」
「クレフティスのメンバーの体調が治ったら、すぐに連絡しろだって。」
「またいつものですか…?なんか、警察が手に入れた手柄ってほとんど向こうに持ってかれてません?俺それなんか腑に落ちないんすけど。」
「仕方ないでしょ。警察はあくまで『一般人』の行政機関。能力者のことは専門外なの。第一、私だって能力のこと詳しくは分かんないし。」
ディアベルスは言わば国家の実力組織のトップであり、警察はそれに準ずる存在。そのため、ディアベルスの言う通りに動くしかない。だが、ディアベルスのやり方に不満を持つものが多数いる。例えば、警察が能力者を保護・逮捕した場合、それらの成果をディアベルスに受け渡さなければならなかったり、その癖捜査や追跡などの足跡を見つける仕事はほとんど私たち警察に任せることが多い。そんな状況なので、ここ最近警察官を辞める人が増えている。
「まあとりあえず、まだ捜査は終わってないので、頑張りましょう。」
というその後輩の声に私は、「そうね。」と返事をした。










「あの、用事って何ですか?」
私と後輩が署に戻ると、上司から用事があると連絡を受け取り、私たちはすぐさま上司の元に向かった。
「昨日のクレフティスが乗ってたワゴン車のドライブレコーダーのデータが取れたから、そっちのパソコンで確認してくれ。」
「分かりました。すぐに確認します。」
そう言い、私はデスクの上にあるノートパソコンを開く。その横に後輩が立っている。
    パソコンの電源を入れると、1件のメールが来ており、差出人は附属鑑定所からだ。これがおそらく上司が言っていたデータの事だろう。さっそく私はそのメールをクリックし、動画を再生した。映っていたのは、建物が少なく、周りには山や、でこぼこした土地が広がっていた。私たちが後藤を見つけたあの場所だ。速いスピードで颯爽とその土地を車が渡っている。
しばらくその映像が流れると、奥から何かがあるの見つけ、進んでいくとそれが人だと分かった。だが、暗闇のなかライトに照らされているためあまり姿は認識できない。そして車は急ブレーキが掛かり、車からぞろぞろと後藤と他のメンバーが降り、車の前の方に向かっていく。
そして、後藤がその人物と話をしている様子が映る。すると突然、その人物は姿を消し、メンバーらの後ろに姿を現すと、メンバーのうちの一人に拳を叩き込み、また瞬時に姿を消し、後藤らの前に姿を現した。
「しゅ、瞬間移動できるの……?」
私は驚きを隠せなかった。今までたくさんの能力者に関わってきたが、瞬間移動できる能力者は初めて見た。もしかしてそういう能力だったりするのかな。と、そう思いながら後輩の方に目を向けると、愕然とした表情で顔を青ざめていた。
「ど、どうしたの?」
私がそう声をかけると、後藤は動揺した声で言った。
「見えないんです……速すぎて……速すぎて全く見えないんです……。」
「……え?」
後輩は、能力者ではあるが、戦闘能力のステータスが低いため、ディアベルスに配属されずに警察官として働いている。でも、反応の速さは普通の能力者よりも優れているため、大体の能力者の動きを見抜くと言われているのだが、
「瞬間移動する能力じゃないの……?」
「能力を発動する動きはありませんでした……能力の解放。本気モードと言っていいでしょう。本気モードにならずに後藤らの後ろに回り込むのは一般的な能力者には到底無理難題な話っす。ですがこいつはそれをやってのけました。しかも後藤らもその動きを認識できていませんでした。」
「嘘…でしょ?」 
私は再び驚きを隠せなかった。後輩や後藤でも目に見えないスピードって……こいつそんなに凄い能力者なの……?私は食い入るように映像にまた目を向ける。
    後藤を除くメンバーがその謎の能力者に襲いかかるが、瞬く間にやられていった。謎の能力者にはかなり余裕があると自分にも分かる。
    そうして後藤はその謎の能力者と一通り話を終えると、後藤は足を踏ん張るような形になり、全身で力を入れている様子映った。正確には、話というより、後藤が一方的に話しているだけだが。その後、炎のような赤いオーラがではじめ、その瞬間、真っ赤な光が放たれた。
「も、もしかしてこれって……」
光が収まると、そこには赤いオーラを纏った後藤が立っていた。私が言ったあと、後輩が言った。
「これが、能力の解放っす。」
そうして後藤は、謎の能力者に襲いかかった。
「は、速い…!」
後輩がそう呟く。普通の人間の私からすればもはや瞬間移動ようなものだ。だが、謎の能力者は体を瞬時に傾け、後藤は勢いよく通り抜けて行った。後藤は再び謎の能力者に襲いかかるが、後藤の攻撃がかわされる。その後、目に止まらない速さで連続攻撃を浴びせようとするが、謎の能力者に一発もその攻撃が当たっていないように見える。
「信じられない……後藤のあの攻撃を全てかわしている……!」
後輩がまた驚きを隠せないように呟いた。
その後、後藤は火の玉をつくり、謎の能力者に数弾放つが全て跳ね返し、その後再び火の玉を宿すが、それは徐々に大きくなり、彼らの体より大きい巨大な火の玉となり、後藤はそれを全身の力を使うように放った。そして巨大な火の玉は物凄いスピードで謎の能力者のすぐ側まで近づいた。
「危ない!」
私がそう叫ぶと、周りの視線がこちらに集まった。恥ずかしい……
    火の玉が謎の能力者に当たる直前、そいつの姿が消えた。そうして、火の玉が謎の能力者の元いた場所から通り過ぎると、姿を現した。
「これもさっきのと同じ?」
「はい。やはりかなりのスピードです。瞬間移動してるとしか思えません。」
後輩がそう言った。私も能力者だったら同じように思ってたのかな。そう思いながら映像を見る。
    かわされたにも関わらず、後藤は何故か余裕の笑みを浮かべていた。すると後藤は腕を上げ、手首を内側に曲げると、先ほど通り過ぎていった巨大な火の玉の動きが止まり、今度は物凄いスピードでバックし、再び謎の能力者に牙を剥くように向かっていく。
「操ってるみたい…」
「操ってるんっすよ。あんな感じで気弾などを操ることは能力者の基本技っす。」
「そ、そうなんだ。」
私はそう返事をする。
    謎の能力者はその巨大な火の玉を受け止める形となり、背中を向けている謎の能力者に向けて後藤が太い光線を放ち、直後に大爆発した。
「あーー!!」
再び、周りの視線が集まる。なかには眉間をしわを寄せている人も何人かいた。肩身が狭く感じる…。横で後輩が笑い堪えていた。こいつー!
    映像からは後藤が高笑いしている様子が伺えた。謎の能力者に勝利を確信しているのだろう。事実、謎の能力者は映っていない。
「……やはり上段の能力者なだけあるっすね。あんな奴に勝ってしまうなんて。」
後輩がそう言うが、だとすれば疑問が残る。後藤らが倒れていた理由だ。この謎の能力者じゃなければ、一体誰がやったというのか。だけど、私は思った。きっとあいつは無事なんだと。何故かはよく分からないが、きっとあいつならやられていない。生きている。私はどこかでそう思っていた。
    後藤が車に戻り、ドアを開けようとしたその瞬間、後藤の背後に何かが映り込んでいるのが見えた。そして、私たちは驚愕した。なぜなら後藤の後ろにいるものの正体は、先ほどの謎の能力者だったからだ。



   


    



    
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