願わぬ天使の成れの果て。

あわつき

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お土産 ~Present~

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【癒しの丘】で、『ミスタシア』と女神、ゼウスが集い、イリア達の帰りを待っていた。


「女神。そろそろイリアちゃん達帰ってくるかしら?」


そわそわしながらミレイが女神に聞いた。


「そうね。もうそろそろだと思うわ」


ドンッーー


女神が答えた矢先、大きな音とともにイリア達が現れた。着地に失敗したのか、ランティスが下敷きになり、カサンドラ、レフィ、ナギ、イリアと積み重なっていた。


「ごめん、ランティス……」
「いや……」


イリア達はすぐに退きながら体勢を整えた。


「イ……」
「イリアちゃん!」


アルカディアを押し退けてミレイがイリアに抱きついた。【ミスタシア】の皆もイリアの元に集まる。改めて彼らを見るとその美貌には見とれてしまう。


「お帰りなさい、イリアちゃん」
「ただいま帰りました」


女神とゼウスもにこやかに彼女達を出迎え、イリアは無事に戻れた事に安堵した。


「ちょっとミレイ!イリアちゃんから離れて」
「嫌よー。貴方ばっかり独り占めは良くないわ」
「だからって抱きつき過ぎ」


イリアに抱きつくミレイをアルカディアが必死に離そうとするがミレイは全く動じていない。


「もう!いい加減離れてよ……」
「えー?まだ良いじゃない」


諦めの悪いミレイにアルカディアが参ってしまい、一度引き離すのをやめた。


「色々お話もあるでしょう。レフィ達もお帰り。今日はゆっくり体を休ませてね」
「はい」
「ねぇ、カサンドラ。その荷物なに?」


ナージャがすぐに長方形の木箱に気付き、興味津々な様子で聞いた。


「あぁ。プレゼント」
「誰に?」
「エチカにね」
「私ですか?」


突然名前が上がった事に驚き、エチカはキョトンとしていた。


「そうそう。合うか解らないんだけど、エチカの支えになればいいなって」


まだ腕にミレイが抱きついていたがイリアは構わず説明した。


「何ですか?」
「義手だよ」


木箱の中を開けると機械で創られた義手が丁寧に包装されていた。


「片腕だと不便だから……。せめて、動きやすいようにと思って」
「私の為に……?ありがとうございます」
「まぁ、でも持ってきたは良いんだけど、どうすればいいかなぁと……」


そう呟きながらイリアは女神に視線を向けた。


「くっつける事なら出来るわ」
「ありがとうございます!女神様」
「でもね、ちょっと時間かかるかも」
「はい……」
「エチカは?この義手を付ける覚悟はある?」


女神に問われ、エチカは躊躇わず頷いた。


「折角イリア達が持ってきてくれたのですから、無下には出来ません」
「いい覚悟ね。では、私の部屋に行きましょう。スーちゃんも来て。イリアちゃん達は此処で待っていてね。エチカにとっては苦痛を伴うから」
「わかりました……」


エチカは義手を受け取り、女神達と神殿へと向かっていった。


「お帰り、レフィ」
「イラ」
「色々と話も聞きたい。私の部屋に行こうか」
「はい!」


レフィは3日振りに会えたイラに安堵し、喜びながら彼の家へと移動していった。


「ナギ、お帰り!」
「お姉!ただいま」
「地上はどうだった?いっぱい話聞かせろよ」
「はい!」
「じゃあ、イリア。うちらはこれで」
「うん。ナギ、ゆっくり休んでね!」
「はい」


ナギは姉のユゥにくっつきながら仲良さげに自分家へと帰っていった。


「カサンドラ、あたしもお話聞きたいなぁ」
「あぁ。色々あったから、ゆっくり話すよ。おれん家でいい?」
「うん。聞きたい」
「じゃあ、行こっか」
「リーちゃん、うちらも帰るね」
「うん。カサンドラもありがとう」


二人は微笑みながら、まるでカップルのように腕を組み、その場を後にした。


「ミレイー!そろそろイリアちゃん解放してよー。大体、以前はそんなじゃなかったじゃん」


痺れを切らしたアルカディアが口を尖らせながら駆り立てた。ミレイは「えー?」とまだ物足りなさそうにしていたが、イリアに微笑まれ、その表情に黙って従った。


「ただいま、アルカディア」
「お帰り、イリアちゃん。地上はどうだった?」


漸くイリアの隣をゲット出来たアルカディアはいつもの優しい表情を見せた。


「楽しかったよ。色々あったけど、久々に息抜きも出来たし、女神様に感謝かな」
「そう。無事に帰って来てくれて良かったよ」
「うん。アルカディア達は女神様といたの?」
「まぁ、お話とか聞いたりね。面白かったよ」
「そうなんだ。他の天使達も変わり無いかな?」
「大丈夫。女神もいたし、問題はないよ」
「そっか。なら良かった」


あっという間に二人だけの世界に入られてしまい、ミレイはタメ息をついた。入る隙がまるでない。イリアがこの天界に来た時からずっと隣にいたアルカディアに今更敵う筈もないと痛感してしまう。


「ミレイ……?」
「気付くのが遅かったせいかしらね。あんな雰囲気出されたら嫌でも分かるわよ」
「えっ……」
「ランティス。貴方、暇でしょ?ワタシとお話しましょうよ」
「え、でも……」


ランティスはイリアから離れる事に躊躇いを見せ、返答に迷った。


「大丈夫よ。アルカディアがいるんだし。このまま此処にいるのは、息苦しいわ」
「……わかった」
「イリアちゃん。ワタシとランティスはあっちの方でお話してくるから。アルカディア、イリアちゃんの事頼んだわよ!」


ミレイは一方的に言い放ち、ランティスを連れて【癒しの丘】から離れていった。


「ミレイ、怒ってた?」
「気にしないで良いよ、イリアちゃん。オレとイリアちゃんがあまりにも良い雰囲気だから嫉妬しちゃったんだよ」
「えっ……」
「イリアちゃん。二人きりになれたんだから、もっと近寄っていいよ」
「アルカディア……」


彼と視線が合い、その綺麗な銀水晶の瞳に魅入られる。アルカディアはそっとイリアに触れ、顔を近付けた。


「ーーあ!」


あと少しの距離で口付けが交わされようとした瞬間、イリアは何かを思い出し、鞄の中を探った。


「イリアちゃん?」
「あのね、アルカディアに……」


ごそごそと勢いよく鞄の中を掻き回すイリアにアルカディアはその鞄の中身が気になった。何がそんなに入っているのか不思議でならない。


「……あった!」


鞄から出てきたのは可愛らしい包み。イリアはそれをアルカディアに渡した。


「これ……」
「お土産。アルカディアにはいつもお世話になってるから」
「……開けていい?」
「うん!」


アルカディアは袋を破かないように慎重に包みを剥がしていった。箱の中に入っていたのは、漆黒のリボンと紅いゴム。アルカディアはそれを手にし、イリアに視線を向けた。


「アルカディアに似合うかなって。えっと、イメチェン?みたいな感じで。結わいたらもっとカッコ良くなるよ」


イリアは照れ臭そうに言った。アルカディアはいつも銀色の長い髪を靡かせているので、結んだら絶対似合うだろうと思い、イリアは密かに買っていた 。


「オレに……」
「あたしがこの天界で笑っていられるのはアルカディアがいてくれるからなんだ。いつも側で見守ってくれててすごく頼りにしてるの。あたしはまだまだ未熟だけど、これからも、支えになって欲しいって思ってる……」
「イリアちゃん……」


彼女の想いを受け取ったアルカディアは、早速紅いゴムとリボンで髪を結わいた。一つにまとまった髪型でもその美しさは変わらない。寧ろいつもと違った印象でドキッとしてしまった。


「良かった。凄く似合ってるよ、アルカディア……」


そう褒めた瞬間、イリアは彼に抱きしめられた。アルカディアの表情が見えず、イリアも黙って受け入れていた。


「……ありがとう。凄く嬉しいよ」
「うん。良かった、喜んでくれて」
「ずっと、大事にするから。ありがとう、イリアちゃん」
「……アルカディア……?」


微かに彼の声が震えているのがわかった。泣く程喜んでくれた事にイリアも嬉しくなる。アルカディアは暫くイリアを抱きしめた後、静かに離れた。


「イリアちゃんは優しいね」
「あ、ありがと。アルカディア……」
「オレだけのモノにしたいな」
「えっ……」
「なーんちゃって。イリアちゃんがあまりにも可愛かったから抱きしめちゃった」
「そっ、そっか」
「ねぇ、イリアちゃん。目、瞑って」
「うん……?」


イリアは何だろうと思いながらも従った。アルカディアは一瞬迷ったが、彼女の額にキスをした。


「…………」


何が起きたのか、イリアは目を開けても呆然としていた。


「お土産のお礼」
「……あ、あぁ。お礼……」
「本当は此方にしたかったんだけど、それはまた今度に取っておくから」


人差し指で唇に触れられ、イリアは顔が赤くなっていた。アルカディアのその優しげで可愛さを含んだ微笑がずっと離れなかった。


「……カッコ良すぎ……」
「女神達、戻ってこないねぇ。どうする?」
「んー……女神様は此処で待っててって言ってたし、義手付けるのって大変だと思うからまだ此処にいた方が良いかな」
「わかった。じゃあ、イリアちゃん。色々お話聞かせて」
「うん。じゃあねぇ…」


イリアはどこから話そうか整理しながら地上で過ごした日々を語り始めたーー。





神殿には医務室に似た部屋があった。そこで女神とゼウスはエチカの身体に義手をくっつける作業を行っていた。神経を繋ぐのでとてつもない痛みを伴うがエチカは必死に耐え、女神達を信じていた。


「凄いわね、この義手。エチカのサイズぴったりに創ってあるわ」
「相当腕のある技術者が創ったのだろう。あと少しで全部繋がる」
「そうね。エチカ、あと少しだから頑張りなさい」
「…はい…」


その後も苦痛と激痛を伴いながらエチカは何とか耐え忍んだーー。



作業が終わったのはそれから二時間後。
痛みも安らぎ、エチカは静かに眠っていた。女神とゼウスも一安心し、疲れを癒していた。


「さてと。一仕事終わったし、イリアちゃんの所へ行って来ようかしら」
「エチカの事は私が見ているよ」  
「ありがとう、スーちゃん」


女神はゼウスに託し、鼻歌を奏でながら   【癒しの丘】へと戻っていった。


「あの……ゼウス様…」


女神と入れ替わりに入ってきたのはカサンドラとナージャ。エチカの事が心配で様子を見に来たらしい。


「大丈夫。無事に終わったよ」
「そっか……。良かった…」


カサンドラは安堵し、眠っているエチカの様子を見た。腕もちゃんと繋がっている。義手とは凄いものだと感心した。


「付いててあげなさい。ナージャは私と話でもしてようか」
「はい!」


ナージャは嬉しそうにゼウスの腕に抱きつき、彼の部屋へと付いていった。
カサンドラはそっとエチカの左手を握り、彼が目を覚ますのを待った。


「エチカ……」


たとえ義手を補おうとも、カサンドラはエチカの側にいるつもりでいた。失ったものが二度と戻らないようにその罪も消えはしない。償いは、許されて終わるようなものではない事を彼は痛い程感じていたーー。
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