世界を喰らうは誰の夢

水雨杞憂

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海無し国の海の幸

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 あとには流れ落ちる水の音を除き、沈黙のみがそこにあった。
 アリスは影の手を振り、着いた液体を払い落とす。
「久々に、少々暴れ過ぎてしまったか。まぁ、たまには羽を伸ばすのも悪くはない」
 アリスは口角を吊り上げ人知を越えた戦闘に呆けたジャックに視線を移した。
「ところでジャックよ。私がここに来た理由はもうひとつあるのだか付き合わぬか?」
「僕に拒否権が?」
「ある。だが、もう二度と私と会うことはないだろう。この国で一生静に慎ましく暮らすがいい」
 アリスはそう言い残しかろうじて形を保っていた玉座の周囲を探索する。
 そして、何か見つけたのか玉座の後ろの瓦礫を足で雑に払いのけた。
「案外、すぐに見つかったか? どうだ、ジャック決まったか?」
「ここに来た時点で僕の存在価値も無くなったようなものさ。流れに身を任せるよ」
 ジャックはゆっくりとアリスが見つけた何かに近寄る。
 そこにあったのは、足元にある細長い窪みであった。その奥にはエレベータと同様のボタンが微かに見える。
 長い棒状のものがあれば押せそうであった。
「よい判断だ」
 アリスは満足げに笑うと難なく影の手を伸ばし奥のボタンを押した。
 すると、一度の大きな振動と共に玉座周囲3歩ほどの空間が円上にゆっくりと下降しはじめたのだった。
「予想通り地下に隠しているようだな」
「一体なにが?」
「行けば分かる。さて、我々は国家規模の工場見学とやらに洒落込むとしようか」
 外の光が入らないような筒の中をたっぷりと時間をかけて下降していく。
 冷ややかな湿っぽい空気を吹き上げながら下降していく空間はこの国という未知の生き物の体内に降りていく食道を彷彿とさせていた。
「ジャックよ。貴様はこの国がお前の全てだと言ったな」
 アリスは再び不敵な笑みを浮かべジャックの顔をじっと見た。
「私がこれからこの国のを見せてやる。この下にあるのはこの国の裏側だ」
 その言葉と共に、エレベータは地表を通過したのか急に壁が無くなり暗い開けた空間が現れた。
 そこは、幾多の呻き声がこだまする地獄のような空間が広がっていた。
 眩むこうな高さの天井に均等に手首を固定された老若男女のヒトガタが全体に拡がっていた。
 ヒトガタと表現するのはそれは人間ではない何かであることだった。薄暗くても分かる青みを帯びた肌に、下半身は魚のような形態。
 それに、下半身から骨と肉を剥き出しにした者さえある。その理由はすぐにわかった。それらの下をゆっくりと浮遊するキューブがいくつもあり、それがまだ下半身がある彼らの真下に着くなりすっぽりと包み込んで肉を削ぎ落としていた。身の毛もよだつような機械的な高音に掻き消され、生気ない悲鳴などは届かない。
「これは……」
 ジャックは言葉が続かず、この情景に一致する言葉を探した。
「まるで工場だな」
 アリスは静に続けた。
「これが『シーフード』の正体だ。人魚と言う魔ノ者は心臓を潰さぬ限り外傷では死なん生物だからな。心臓が生成する魔力と水を供給すればいずれ体は元に戻る。それに加えて美味であり、栄養豊富。これほど、コストパフォーマンスがよい食材があろうか?」
「うっ……」
 ジャックはこみ上げて来た物を強引におさめる。普段の残酷な仕事も淡々とこなしてはいてもこの情景は強烈だった。
「しかもオートメーション化されてる、ご丁寧にな。まさか人魚どもも自分たちの心臓の魔力でこのような生地獄を作り出せる何て創造付かないだろうさ」
「君はこれを知っていたのかい……?」
「人魚が食材であることは知っていたが、これにより私の想像の方がまだましだったな」


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