ガシャドクロの怪談

水雨杞憂

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オカルト研究会

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「で、名前だけ貸せばいいんじゃなかったけ?」 
  
 紀糸が腕を組みながら不服そうに言った。 
 僕たちはあの後すぐにミーティングに参加させられてしまったのだ。一応この教室には学習机を六つほど集めて作られたミーティングスペースなるものが作成されており、そこを囲むようにして座らされている。 
  
「んー。でも、せっかく入ってもらったんだから活動を体験してもらってもいいじゃないっ? そっちのほうが楽しいわよ」 
  
 理香が両手をついて立ち上がり髪を揺らしながらにこやかに言う。また、その足で移動しガラガラっと大きな音を立てて移動式のホワイトボードを引き寄せた。 
 そして、そのままホワイトボードの前に出し仕切り始める。 
 この研究会の実権を握っているのはどうやら彼女のようである。
  
「さて、今回私が提案する調査内容は『川女の正体を探れ』よっ!」 
  
 プレゼンターとなっている彼女は達筆な字でさらっと議題を書きパンパンとホワイトボードを叩いた。 
  
「「川女?」」 
  
 僕と紀糸が首をかしげる。 
  
「えっと、僕から説明しますね。これはこの学校の子から聞いた情報です。この街に大きな川が通っているかと思います。その川の河原で友達と遊んでいたときのお話です……」 
  
 教宗はそう前置きをして手元のノートを読みだした。内容としては大体こんな感じだ。 
  
  
  
  
 この街に大きな川が通っているかと思います。
 これは私がその川の河原で友達と遊んでいたときのお話です。
 その時は私と友達二人の合計三人で河原で遊んでいました。
 普段はカラオケとかに行くことが多いのですが今回はみんな、小遣いが少なく、天気も良かったのでのんびり河原を散策しようとのことになったのです。
 石だらけの河原を落ちているものや、何か生き物がいないかを探しながら下っていました。
 意外にも魚や変な漂流物がいっぱいあって結構楽しいんですよ。
 私たちがそんな簡易的な探検をしながらだいぶ進んだところです。川に隣接するように水が溜まっていて池みたいになっている場所がありました。
 勿論、水の流れなどはなく水は淀み、さっきまで並んでいた綺麗な丸みを帯びていた石たちもその周りだけはヌメッとした藻がこびり付いています。そして、不快にはならない程度の生臭い匂いが漂っていました。
 そろそろ日が暮れそうだったので私たちはそこをぐるっと回ったら帰路に着こうと決め、足を滑らせないように慎重に回り始めました。
 大きな水たまりには藻のせいで水中に魚がいるのか分からず水面にはコバエのような小さな虫が飛び回っており気分があまりよくありません。
 水面を見回しても大きな石が突き出しているか、流れ着いた大木が突き刺さっているかぐらいしか見どころもありませんでした。
 池らしく亀とかが石の上で休んでいたならよかったのですが、やはり生き物は虫ぐらいしか見当たりませんでした。
「ちょっとあれっ!」 
 足元ばかりに注意が行っていた私はその声にびっくりして顔をあげました。
 友達の一人が急に叫び声をあげ指を差していたのです。
 その先を見ましたが特に先ほどと変わったところもありません。
 私が「何もないよ」と振り返ろうとしたときに私は気づいてしまったのです。
  
 私が石だと思っていた物の一つが石ではなくぶくぶくに膨れ上がり黒ずんだ女性の顔だったのです。
 現状を理解できない私……
 顔半分を突き出し恨めしそうにずっとこちらを凝視していた目と私は目が合ってしまった…… 
  
  
  
  
「……あの体験は一生忘れられそうもありません。私は二度と川には近づかないと心に決めました」 
 教宗は怪談を語り終えると満足げにノートを閉じた。 
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