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崖少女
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「で? なんだよ。あたしはこれから学校なんだけど」
化け物狐に怖気ることなく、紀糸は言った。
そのまま、空いていた座布団の上にドカッと座り込む。
「構わねぇさ」
白狐は態勢を変えることなく頭だけを持ち上げ、目を紀糸に向けて言う。
テレビでは朝のニュースがそんなことをお構いなしに流れていた。
テレビの中ではリアルを伝え、紀糸の目の前には怪異があるという異様な空間である。
流れているニュース番組は地方テレビのようで見知った地名の話題などが取り上げられていた。
『昨日夕方頃、小湧木市にある山で男性が倒れているのを山林管理組合の男性が発見し、119番しました。男性は頭部を強く打ち既に死亡していることが確認され崖からの飛び降りだと見られています。同所の転落死は……』
「お、ちょうどやってるな」
「ニュース番組なんていつでもやってるだろ?」
「紀糸……。お前はバカか? 俺はニュース内容のことを言ってるんだよ」
「うっ……」
狐は呆れたように言う。
紀糸は自分の頭の回転が鈍いことを自覚しているので言い返せずむすっと黙り込んだ。
「まぁいい、ここの近くに小さな山があるのは知ってるな?」
「小湧山林公園のことか? そもそもあれって山なのか?」
「土が盛られて高さがあればそれは山よ。まぁ、ちっさいことには変わりないがな。山は山神が管理するもんだが小さい所はそのまま土地神に任せることも多い。詰まる所、俺の管轄ってわけさ」
「なんか、またあたしに面倒ごとを押し付けるつもりか? もう地蔵運びなんかやんねーぞ」
「大丈夫だ、今回はそんなに体力使わねぇから。ちょっと様子をみてきて欲しいだけだ」
「それぐらいなら自分でやれよ」
「かたいこと言うなって。たまにゃ、俺に奉公しろ」
「毎月供え物持ってきてるだろ……」
こうなれば狐は横暴なので諦め交じりのため息をつき不満を漏らしている。
「で、あたしは何をすればいいんだ?」
「さすが、紀糸。聞き分け良くて助かるぜ。使える駒はなんでも使わねぇとな」
「最後の一言余計だよ」
「キッキッキ。とりあえずだ、最近そこの崖から飛び降りが多いのは知ってるな」
「ああ、そのニュースか。確かに多いな、自殺の名所として学校でも噂になってるくらいだし。お化けの仕業とか噂もあるぐらいだ」
「そうなんだ。誰がどう見ても地縛霊の仕業だ」
「じばくれい?」
紀糸は人にくっつき爆発する幽霊を想像しながら聞き返す。
「たぶん、想像している字が違うと思うがまぁいいさ。そんな感じに人に危害を加えやすい霊と思ってくれていい。だいたいこの手はやつぁ、自分の死が認められない輩でな。生者のつもりのせい波長が会いやすく巻き込みやすいんだ。生への執着、自分の死に気づかない。どちらにせよいずれは怨念へ変わる」
白狐はゆっくり立ち上がり、紀糸の方を向き座り直しながら言った。
犬のお座りのように座った狐は足で耳を搔きながら続ける。
「まぁ、お前に言ってもあれか……。っと、言うわけでその地縛霊の様子を見てきてもらいたい」
「はぁ? だからそういうのはお前が自分で行けって。第一、あたしは霊感全くないし」
「逆だ逆、俺が行っても匂いはするんだが奴はびびっちまって出てこねぇ。被害者もそんなに霊感ないやつばっかりだからお前さんに頼んでるんだ」
「きぃちゃん。無理しなくていいよ?」
狐の話を止めるように呟きながら入って来たのは七緒であった。
手にはお盆と、平たい皿に山盛りに盛られたベーコンスクランブルエッグが乗っていて暖かい香りを漂わせている。
「おい、七緒。せっかく、俺が交渉してるのによぉ」
「それ、俗に言うパワハラだから」
「巫女が俗っぽいこと言うんじゃねぇよ」
狐はそう言って軽く唸る。だがそのあとに置かれたスクランブルエッグに顔を突っ込み食べ始めた。
「私が行ってくるから。別にきぃちゃんは来なくても平気だよ?」
七緒の言葉に紀糸は頭をかきながら答えた。
「七緒一人に行かせるわけにも行かないし、しょうがないからあたしも行くよ」
「キッキ、結局行くんじゃねぇか。持つべき物は信者だな」
「お前はもっと感謝しろよ」
「逆だ、紀糸が俺に感謝するべき立場ってやつだ」
「食事中は静かに。きぃちゃん、ごはん食べてく?」
「あー。あたしはいいや。もう食べてきたし」
「そう」
七緒はちょっぴり残念そうに自分の茶碗を取り、狐のせいで零れ落ちそうなスクランブルエッグをすくって米の上にのせた。
「じゃあ、あたしはそろそろ帰るわ。じゃあな、七緒。稲荷」
紀糸は立ち上がるのと同時に食事中の二人に軽く別れを告げた。
「おう、今日はよろしくな」
「はぁ? 今日なのかよ!」
稲荷の言葉に紀糸は思わず振り返っていた。
化け物狐に怖気ることなく、紀糸は言った。
そのまま、空いていた座布団の上にドカッと座り込む。
「構わねぇさ」
白狐は態勢を変えることなく頭だけを持ち上げ、目を紀糸に向けて言う。
テレビでは朝のニュースがそんなことをお構いなしに流れていた。
テレビの中ではリアルを伝え、紀糸の目の前には怪異があるという異様な空間である。
流れているニュース番組は地方テレビのようで見知った地名の話題などが取り上げられていた。
『昨日夕方頃、小湧木市にある山で男性が倒れているのを山林管理組合の男性が発見し、119番しました。男性は頭部を強く打ち既に死亡していることが確認され崖からの飛び降りだと見られています。同所の転落死は……』
「お、ちょうどやってるな」
「ニュース番組なんていつでもやってるだろ?」
「紀糸……。お前はバカか? 俺はニュース内容のことを言ってるんだよ」
「うっ……」
狐は呆れたように言う。
紀糸は自分の頭の回転が鈍いことを自覚しているので言い返せずむすっと黙り込んだ。
「まぁいい、ここの近くに小さな山があるのは知ってるな?」
「小湧山林公園のことか? そもそもあれって山なのか?」
「土が盛られて高さがあればそれは山よ。まぁ、ちっさいことには変わりないがな。山は山神が管理するもんだが小さい所はそのまま土地神に任せることも多い。詰まる所、俺の管轄ってわけさ」
「なんか、またあたしに面倒ごとを押し付けるつもりか? もう地蔵運びなんかやんねーぞ」
「大丈夫だ、今回はそんなに体力使わねぇから。ちょっと様子をみてきて欲しいだけだ」
「それぐらいなら自分でやれよ」
「かたいこと言うなって。たまにゃ、俺に奉公しろ」
「毎月供え物持ってきてるだろ……」
こうなれば狐は横暴なので諦め交じりのため息をつき不満を漏らしている。
「で、あたしは何をすればいいんだ?」
「さすが、紀糸。聞き分け良くて助かるぜ。使える駒はなんでも使わねぇとな」
「最後の一言余計だよ」
「キッキッキ。とりあえずだ、最近そこの崖から飛び降りが多いのは知ってるな」
「ああ、そのニュースか。確かに多いな、自殺の名所として学校でも噂になってるくらいだし。お化けの仕業とか噂もあるぐらいだ」
「そうなんだ。誰がどう見ても地縛霊の仕業だ」
「じばくれい?」
紀糸は人にくっつき爆発する幽霊を想像しながら聞き返す。
「たぶん、想像している字が違うと思うがまぁいいさ。そんな感じに人に危害を加えやすい霊と思ってくれていい。だいたいこの手はやつぁ、自分の死が認められない輩でな。生者のつもりのせい波長が会いやすく巻き込みやすいんだ。生への執着、自分の死に気づかない。どちらにせよいずれは怨念へ変わる」
白狐はゆっくり立ち上がり、紀糸の方を向き座り直しながら言った。
犬のお座りのように座った狐は足で耳を搔きながら続ける。
「まぁ、お前に言ってもあれか……。っと、言うわけでその地縛霊の様子を見てきてもらいたい」
「はぁ? だからそういうのはお前が自分で行けって。第一、あたしは霊感全くないし」
「逆だ逆、俺が行っても匂いはするんだが奴はびびっちまって出てこねぇ。被害者もそんなに霊感ないやつばっかりだからお前さんに頼んでるんだ」
「きぃちゃん。無理しなくていいよ?」
狐の話を止めるように呟きながら入って来たのは七緒であった。
手にはお盆と、平たい皿に山盛りに盛られたベーコンスクランブルエッグが乗っていて暖かい香りを漂わせている。
「おい、七緒。せっかく、俺が交渉してるのによぉ」
「それ、俗に言うパワハラだから」
「巫女が俗っぽいこと言うんじゃねぇよ」
狐はそう言って軽く唸る。だがそのあとに置かれたスクランブルエッグに顔を突っ込み食べ始めた。
「私が行ってくるから。別にきぃちゃんは来なくても平気だよ?」
七緒の言葉に紀糸は頭をかきながら答えた。
「七緒一人に行かせるわけにも行かないし、しょうがないからあたしも行くよ」
「キッキ、結局行くんじゃねぇか。持つべき物は信者だな」
「お前はもっと感謝しろよ」
「逆だ、紀糸が俺に感謝するべき立場ってやつだ」
「食事中は静かに。きぃちゃん、ごはん食べてく?」
「あー。あたしはいいや。もう食べてきたし」
「そう」
七緒はちょっぴり残念そうに自分の茶碗を取り、狐のせいで零れ落ちそうなスクランブルエッグをすくって米の上にのせた。
「じゃあ、あたしはそろそろ帰るわ。じゃあな、七緒。稲荷」
紀糸は立ち上がるのと同時に食事中の二人に軽く別れを告げた。
「おう、今日はよろしくな」
「はぁ? 今日なのかよ!」
稲荷の言葉に紀糸は思わず振り返っていた。
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