儀式の夜

清田いい鳥

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19 チョコレートパフェ

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「……そっか、ついに。ご結婚おめでとーございまーす」
「いやいや。まだ何にも決まったわけじゃない。ていうか、お付き合いとかもしてないから」

「いやいやいや。それ明らか付き合う流れじゃん。まさかこのまま生殺しにするつもりー? 悪魔の王子様~」
「悪……まあそうだよな。最初に結婚匂わせておいてそりゃないよな……」

 駿はアイスコーヒーの氷をストローで突きながら『別にいいんじゃね』とのたまった。さっきまでは付き合う流れだろうと主張していたくせに。どっちの味方をするのだお前は。

 カチカチと生真面目に時を刻んでいた古い柱時計の鐘が鳴った。午後の二時。いつも新聞を読みながらコーヒーを飲む、おじいさんが来る頃合いだ。

 駿は平日の水曜が休みだと聞いていたため、いつもの喫茶店で落ち合わないかと連絡すると即返信があり、今に至る。

「だって。その子が自分で言ったんじゃん。結婚のためじゃないです、自分を成長させるためですーって」
「でもさ、不安と不満が溜まっていくと思うんだよ。そんなときにやたら条件の良い見合いの話が来ちゃったら……いや、来るわけないか。今までずっと断ってきたし、身体も壊しちゃったから」

「ていうかそこだよ、そこ。お前一生独り身のつもりじゃなかった? わりと今更じゃね」
「自分でも自分がわからない。ビビってんのかな。友星の様子がおかしいから……他の人に逃げようとして……」

 滅多にないのが普通であった友星からの連絡。ホテルに連れ込まれてから毎日のように、いや本当に毎日、何かしらの連絡が入るようになっていた。

 今日の身体の調子はどうだ。食欲はあるのか。あまり沢山食べる方じゃないから心配だ。もし車が必要なのに、家族の誰も出せないときは言ってくれ。オレは営業だから、時間の調整が利きやすい。迷惑をかけたくないだろうが自分で運転するのは勧められない。運転中に何かあったら怖いだろう。必ずオレを呼んでくれ。深夜でもいいから。

「クッソ脈ありじゃん! 喜べし」
「もうそういう時期じゃない。一喜一憂してたあの感覚は学生のときに終わらせた……」

「枯れるの早。お前そんなもん、衣も下味もついた肉状態じゃん。あとはお前が家で揚げるだけ。簡単お手頃」
「精肉コーナーにあるやつな。お前んとこのは美味しいからって一時期ずっと夕飯がそれで……あーあ……」

「飽きるなよ。うちの社員が頑張って開発した肉料理を」
「肉の話じゃないから。駿がな……駿が女子だったらな……こんなにウダウダと悩まなかったのに……」

「やっべ。告られる流れ来た。あー残念、用事思い出したかもしんないわ」
「駿さあ、チョコレートパフェ食べたくない?」

「食べる」
「食べるのかよ。素直だな。あ、マスター。注文お願いしまーす」

 店主のおじさんはにっこり笑顔で『アイス大盛り?』と尋ねてくれ、駿が『大盛りで!』と勝手に返事を投げていた。ここのアイスクリームは密度が濃く、ちょっとお高い味がする。楽しみだ。思いつきで注文してみたが、少し気分を上げることができた。

 一度も混雑しているところに遭遇したことのない店内。経営的にどうなのかは不明だが、程よく静かで気に入っている。蔦の葉っぱをざくざくと編んだ籠の中で、まどろんでいるような心地良さがある。

「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ~」

「駿は結婚の予定とかないの?」
「結婚ってひとりじゃ出来ないらしーぞ。知ってた?」

「ふふ、マジ? 初耳なんだけど。プラチナの指輪すればいいんじゃないの」
「婚姻届ってのがあってー、二人分の署名がないとダメらしいわー」

「じゃあ俺の名前書いといて。式はうちでやろう。盛大に」
「やべー、うちの会社に超強力なバックがつくわけだ。超魅力的。全国展開も夢じゃなくなる」

「忙しくなっても夜は必ずうちに帰ってこなきゃ。俺と寝た子はさ、みーんなちょっとずつ幸せになるから」
「あ、それ知ってる。さすがに一等二等は無理だけど、宝くじが当たるようになるとか。信号で引っかかんないとか。やっべ、マムシドリンク常備だな」

「ちょ、宝くじのためにかよ……どした?」
「いや……なーんか見たことある気がして……ご本人様?」

「え? なにが?」

 芸能人でも居るのかと思い、後ろを振り返ってみて驚いた。いつもの新聞を読むおじいさんが座っているはずの席に、友星の姿があったからだ。

 難しそうな顔を肘枕に預け、何やらスマホを弄っている。やや狭めの店内である。こちらの席とは特別距離が開いているわけではない。俺がいることくらい気づくはず。

 こちらの会話が途切れたこともわかるはずだ。コーヒーの香りも消え去るほど不自然な空気が店内を漂っている。どうしよう、と駿と目を合わせたその瞬間、駿が軽く上半身を伸ばし『あのー、藤嶋さんじゃないすか?』と友星に声をかけた。

「……ああ、すみません。お邪魔しちゃ悪いかなーと思って」
「いや別に。良ければ相席どーぞ」

「いえ、通りかかっただけなんで。コーヒー飲んだら出ようかと。あ、注文お願いします。本日のブレンドで」
「はーい、少々お待ちくださーい」
「そすか。じゃあごゆっくり。なあなあけーちゃん、養子縁組するって方法あんぞ」
「え…………えっ? なんの話?」

「つまりー、俺らが書類上の親子になるわけ。そうすっとー、保証人とか、手術の同意書にサインが要るときとか、いちいちお前の弟くんを呼び出さずに済むわけよ」
「ああ……それは考えた。そうなんだよな。もし中途半端に寿命が延びたら、そういうこともあるだろなって」

「人生百年時代だぞ。可能性あるじゃん。もしお前が先に動けなくなっても、俺が色々手続きしてやれるわけ」
「はは、その代わりに相続権も頂戴すると。その辺はまだわかんないからな? うちの一族は長生きだから。基本は死ぬまで相続できないし、寿命対抗試合になるな」

「えー、でも俺のほうが若いしさー」
「どうだかなー。うちのひい婆ちゃん、百歳だぞ。亡くなったとき」

「チッ。せっかく乗り気になったのにー」
「雰囲気がまるで台無しだろ。やり直してくれ」
「……一応、デメリットもありますよ」

「えっ?」

 ドキッとした。たまたま通りかかっただけで、俺に会いにきたわけではない友星。このままさっさと帰るのだろうと思っていたのに、会話にすんなりと入ってきたからだ。

 ついさっき相席に誘ったばかりで、断られた駿が不快な気分になったのではと思い様子を窺うと、よくわからぬニヤニヤ笑いを浮かべていた。……愛想笑いにしては、やや悪どい。

「へー、デメリットってなんすかね?」
「……法律上は夫婦じゃないから。どちらかが浮気したとしても、慰謝料の請求権が発生しない」

「しねーよ。なあ?」
「え? ああ、まあ……するようには見えないけどな。ていうか浮気って言い方——」

「けどな、ってなんだコラ。俺が一生幸せにしてやるからな。見てろよ、ぜってぇ養うぜ!」
「そんなキメ顔向けられましても……あ、ありがとうございます」
「はーい、お待たせしました。チョコレートパフェ二つね。てんこ盛りにしといたよ~」

「……解消する際においての財産分与請求権はないし、別居時にかかった婚姻費用の請求もできない。法的な保護が……あ、すみません」
「はーい、本日のブレンドです。砂糖とミルクはご自由にお使いくださいね~」

「そんなん余裕で大丈夫。俺は店長様、次期社長様。こいつのことは言うまでもない。互いに資産は持ってっから、そんな小銭のことは気にしないよな? な?」
「一生幸せにしてやる、って言ったばかりのその口で……」
「戸籍上、妻はいないが子がいることになり、優先順位第一位の子へ相続権は発生する。でもその前に、親族に訴えられる可能性がある」

「は? 何の罪で訴えられんの」
「親子なのに性交渉するのはおかしい。公序良俗に反する関係だ、養子縁組は無効であると主張されたら?」

 友星の勤め先は保険会社などではなく、法律関係というわけでもない。そんな友星の口から次々と出てくる法律用語。俺はそれらを追いかけるのに精一杯だった。何も論じられることがなく、駿の口出しに茶々を入れることしか出来ていない。

 親子がもし、夫婦のような営みを行っていたら。親族は当然激怒するだろう。酷く気分を害する仮定だが、実の親子が本当に関係していたら警察沙汰は免れず、刑事事件に発展する。果てには全国ニュースになるかもしれない。

 でも元は他人同士であるから……駄目だ。養子縁組はそもそもの話、血が繋がっていない子供を産みの親と同等に養育するための制度である。悪用とまではいかないだろうが、転用のようなことをしている。

 もしもうちの親族に、駿が訴えられてしまったら。かなり苦しいことになる。うちの親族には弁護士がいて、各々の知人友人にも何らかの肩書きを持った人が存在するからだ。大騒動になってしまう。

「んー……まあ、そのときはそのときで仕方ない。愛してたんだからしょうがないだろ、で乗り切るか! なあ!」
「なあ、っておま……それ、みんなの前で言えるのか? 俺に襲われたとか言い出すんじゃ……」
「……じゃあ問題はなさそうですね。お幸せに」

「ありがとうございます! 甘い家庭を築きます! このパフェのように!」
「アイスだし、キンキンに冷え切ってるけど……あ、え? 友星、もう帰るの?」
「うん。それじゃ」

 スプーンをアイスに突き立て口へと運んだ駿のとろけそうな笑顔と、口の端だけで笑みを浮かべた友星の堅い表情が対照的だった。友星の仏頂面を見たことは数えるほどしかなかったため、未だに慣れない。いま食べているもののせいだろうか、胃が冷えたような感じがする。






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こいつらほっとくと永久に喋るから、どこで会話を切るか悩む

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うぇーい('ω')ノ お嬢さん見てるー?


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