人に好かれない僕が獣人の国に転移したらおかしいくらいモテた話

清田いい鳥

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18 元カノ遍歴

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 早朝に一度、目を覚ました。部屋の白い壁が青く染まっている。しかし全く身動きが取れずそのまま眠り、起きたら九時頃だった。

「オルフェく…、うっ、喉痛った、オルフェくん、もう出ないといけないんじゃない?」
「……あー…、また虹を見逃した……」

 虹どころじゃないよオルフェくん、シャワー浴びて出るよ、とあちこち痛い全身を無理やり動かし、せわしなく出る準備を整えた。

 まだ少し寒いので、海の観光シーズンはまだ先のことだ。人がまばらな中、離れたベンチで駅馬車の到着を待った。これで大丈夫、便利な鞄があってよかった。丁寧なパッキングの必要がないからあれこれ突っ込んでも問題がない。助かった。

 朝食を食べていないので、代わりに昨日買った漁師さんがよくおやつに食べるという分厚いビスケットのようなものを二人でかじった。買ってもらったお茶は濃厚なミルクがたっぷりで、スパイスらしきものが効いてて美味しい。

 お腹が温まり、ホッとして心に余裕ができた途端、頭が勝手に前夜のあれこれを思い出し始めてしまった。ああ、なんてことをしてしまったのだろう。経験なかったくせに。もしや、今までわざと純情? 清楚? ぶってた痛い奴だと思われたりしていないだろうか。本当に初めてだったんだけど。

「あのー、オルフェくん、昨日は……」

 …オルフェくんは顔を覆って俯いていた。耳に覇気がない。また反省モードに突入している。

「カイが明らかにおかしくなってんのに、俺、我慢できなくて…ほんとにごめん…俺の欲望をぶつけてしまった…こんな小さい子に…」
「よ、欲望って、いいんだよ。確かにおかしくはなっちゃってたけど、よく寝たから元気だよ、ほら見て」

 手をぐいぐいと引っ張ってみたらやっと手を下ろしてくれて、なんだか辛そうな表情の顔をおもむろに近づけてきた。オルフェくんは外から隠すように口元へ手をかざし、内緒話のような小声で話し始めた。

「ごめんな、下着、汚れてないか…? その、出しちゃったから」
「あっ…………そうなんだ、えっ、いやっ、それはないかな、今のところは」

 顔が暑くなってきた。そういえば、何回やっちゃったんだろう。記憶が飛び飛び過ぎててわからない。…ああ、海は今日も綺麗だなあ。沖に夜景が見える景色はいつ見ても不思議だなあ。

『ただ綺麗な景色を見せたかっただけなのに、これじゃあ犯すために連れ出したのと変わらない』『責任を取らねば』と、オルフェくんはまだボソボソと凄い独り言を言っていた。大丈夫だから、合意だから、とひたすら励まし続けた。ちゃんと伝わってたらいいけど。



 ──────



 機関車の中でまたぐっすり眠ってしまい、寝ぼけ眼のまま手を繋いで錐鞘亭へと歩いて向かった。あれ、今日はお食事処の営業はやってないはずなのに、お店の前に誰かいる。犬耳の人と猫耳の人。なんか見たことあるな。

「あー、やっと帰ってきた! おせーよオルフェ! 腹減った!」
「昼は食べたか? 奢ってやるからちょっと話したいんだが。そちらのお嬢さんも一緒に」

 以前、庭で仕事中に話しかけてきた二人だった。最初に柵の外に立っていた犬耳のアードルフさん。お茶に誘われて、後日告白までされて、断った。次の日に来た猫耳のサシャさん。配達の仕事中で、バーッと喋ったと思ったらパーッと行っちゃって、後日暖かいアイスクリームという謎の食べ物をくれて、引き抜きの誘いをかけてきた人。

「俺はいいけど、カイは疲れてるから休ませてやりたい。悪いな」
「そうかー? めっちゃ艶々してる気ぃするけどー。ていうかオルフェさぁ、ぶっちゃけお前────」
「いいんだ、無理はしなくて大丈夫。お嬢さんとはまた今度」

 オルフェくんの収納魔道具を受け取り、見送った。というより完全に僕が店の中に入るまで見送られた。あの二人、オルフェくんとお友達だったのか。若い人が減ってるらしいから、必然的に距離が近くなりやすいのかも。いいなー、近所の同級生と大人になっても仲良し、みたいな関係。話したいことって何だったんだろう。

「マウラさーん、ただいま戻りましたー!」
「あらっカイくん! おかえりー! お昼食べた? お腹空いてないかい?」

「お昼はまだなんですが、オルフェくんはお友達と食事に行きました。あっ、僕は疲れてるだろうから帰っていいってことで」
「ふんふん。いい感じに仕上がってきたね。あの馬鹿息子もやればできるじゃないか! ははは! ご飯出来てるからお食べ!」

 …マウラさんの言わんとするところは何となく察しがついた。でも何でわかるんだ。匂いか。また匂いの話なのか。



 マウラさんは有り難いことに、大事な息子の嫁にと僕を願ってくださっている。婚前だろうが接近するのは大いに結構なのだろう。でもちょっと、明け透け過ぎやしないか。

 オルフェくんが一緒だからとホイホイお泊まりしに行った僕も今考えたら大概だが。こういう感覚の違いは所謂、文化の違いというやつだろうか。いやー、異国だなあ。

「カイくんお帰りー! ほらこれ美味しいからお食べー。みんな先に食べてるから遠慮なくどーぞぉ」
「カイくん、どうやらオルフェといい仲になれたようじゃないか。おめでとうさん。しっかしねぇ、あのオルフェがねぇ」
「ねーえ。こんな華奢で可愛い子が好みだとは気づかなかったね。だってさあ、今までの彼女ちゃんはさぁ」

 ひゃー。元カノ遍歴の話が始まってしまったぞ。僕が聞いていいやつなんだろうか。一回すでに聞いたし、嫉妬の洗礼も受けたしで今更だって気もするけど。

 初めて彼女らしき女の子ができたのは六歳のとき。まだ園児じゃないか。早熟だな。もちろんチューするくらいの関係だった。…僕はその頃、幼稚園にあるブロックでお城作りにハマっていたぞ。 

 次は七歳のとき。別れてすぐじゃないか。でもまあ、これも清い関係である。僕は小学校に入っても長い間ひとりぼっちだったような。二年生に上がる前にやっと一人たまに話す子ができた。でもその子は人気者で、一軍の友達ってわけじゃなかったなあ。

 そして次は友達なんだか彼女なんだかわからない子たちがいっぱいいて…いっぱい。凄いな。僕はたまに話していたあの子とクラスが別れて、何してたか記憶がない。

 で、十歳のときにできた彼女は幼いながらに色っぽいタイプ。ウサギちゃんだったらしい。僕が十歳のときは…もうやめよう。悲しい記憶をほじくり返すのは。

「とにかくさぁ、色っぽいタイプばっかりだったよねぇ。ザ・女の子みたいなボインちゃんとか」
「気が強そうな子の方が多かったからさぁ、もうこりごりなのかもしれないよぉ。ねぇ、十六歳くらいのときにやってた喧嘩は凄かったよねぇ。女の子が全然負けてなかったよ」
「凄かったねぇ、結局最後はマウラさんが外でやれって二人とも庭に蹴り出してたねぇ!」

「恋人は女の子ばっかりだったね。贅沢なことだよねぇ、ラグーが突っかかるのもありゃ半分嫉妬だろうよ」

『かもねー!』とネズミのおばちゃんたちはケラケラ笑った。

 僕もちょっと嫉妬してしまった。ボインの元カノさんや、喧嘩上等の元カノさんにではない。オルフェくんにである。…やっぱりいいよなあ、人気者の人って。



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© 2023 清田いい鳥
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