体育会系の魔法使いは呪文が覚えられない~暴死するか先輩と寝るかの二択です~

清田いい鳥

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25 合同演習

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 先生が集合をかける。

 穿孔鳥が見つからず少し奥に入ったところ、地面にあるはずのない穴が空いていてアポロニアがそこに落ちた。これは単独で助けに入るとまずいと判断した先輩は引き返して報告に戻ったのだ。

 先生は救援要請をするが、到着までにはどうしても時間がかかるため、何人かの四年生と魔術科の優秀な奴を連れて隊を組むとの指示をしたので、選ばれたユハニの横で俺は即刻手を挙げた。

 先生は不慣れな魔術科の生徒は極力少人数に抑えておきたかったようだが、お願いしますと頼み込んで無理やり隊に入れてもらった。友達のピンチなのに、呑気に炊事はしてらんない。

 杖を振って準備運動してたら、真面目な顔をしたブルーノ先輩が近づいてきた。

「ネオ、ここに居ろ。何が出てくるか分からない。危ないから」
「やだよ! 絶対行く」
「イレネオくん、行きたい気持ちはわかるから、着いたらなるべく離れないで後ろの方にいてね」

 あ? という顔でブルーノ先輩がハヴェル先輩を睨んだ。しかし、ちょっとやめてよと仲裁に入る余裕はゼロだ。

 ブルーノ先輩はため息を吐いたあと、がしりと俺の手をひっつかみ歩き出した。心配そうな顔をしたハヴェル先輩が追ってくる。

 少々面倒なことになったけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。



 現場を見たところ、俺らが入ったような獣道と変わりのないところだった。アポロニアとペアを組んだ先輩も、まさかこんな何の変哲もないところに人ひとり入れる大穴が空いているとは思いもしなかっただろう。

 でも本当に何なんだろう。昨日今日に空けました、という感じがする。

「確実に何かいるな。穴の縁見てみろ」

 自然崩落したとはとても思えない、まるで重機で掘ったような。切れ端が綺麗すぎる。まず先生と四年生、魔術科の同級生が浅いところまで偵察のために入った。



 …………全然出てこないんだけど。

 偵察って言ってなかったっけ。深いところまで行っちゃったのかな? 先生がそんな迂闊なことするか?

 音も何も聞こえてこない。おかしいな、と呟いた他の先輩も入った。……また出てこなくなったんだけど。

 俺たちは顔を見合わせたあと、穴の入り口付近から覗いてみた。外はまだ明るいのに中が真っ暗すぎる。壁のデコボコした様子すらわからない。

 変ですね、とハヴェル先輩に言おうとして振り返った。いない。

 ハヴェル先輩がいたはずのそこは、真っ暗闇が広がるだけの空間と化していたのだ。



「手ぇ繋いでたからセーフってことかな」
「さあな。いいだろ、別にあいつは要らん。杖で照らせるか?」

 さっきから口調が荒いままの先輩に言われて、試しにやってみた。

「ギャー!! 眩しー!!」
「落ち着け!! もう少しこう、針の穴に通す感じで!」
「あっ出来た」

 まだ明るすぎるくらいだがなんとかなった。あーびっくりした。野球場を照らすくらいの光量だった。何万ルクス出したのやら。さすがに要らない。先輩は目が痛ぇ自分でやれば良かった、とブツブツ言っている。

 でも、これだけ照らしてもまだ先が見えない。それに、ただの暗闇空間じゃない。何か、湿気みたいな何かがまとわりつくような。

「この先が濃いな。アポロニアの気配もする」

 何でわかるんだ。俺ひとつもわかんないんだけど。王族の直系は何でもアリだな。
 静かに近づくぞと言われ、手を引かれて歩く。何かを踏む音すらしないところも妙なんだよな。



 あ、あそこだけ天井がぽっかり空いてる、まだ昼間なのに月明かりが射してる、と思ったらアポロニアが遠くで座っていた。バッと手を上げて叫ぼうとしたら、先輩に抱き込まれて声がくぐもった。

 静かに、と目線で指示される。アホの俺はこくこく頷き、その場で一緒にしゃがんだ。

 アポロニア、無事っぽいな。良かった。でもさっきから誰と喋ってるんだろう。身振り手振りを交えながら、時々コロコロと笑っている。

 その奥からキラッと何かが光り、心臓が跳ねた。あれは目だ。こっちに気づいた。気配が変わった先輩が弓をつがえている。

「あら、先輩。イレネオも。探しにきてくれたの?」

 明るい調子で言われて拍子抜けした。んもー。こっちは心配したんだぞ。元気で良かったけど。安心してアポロニアのそばに行こうとしたら、先輩に腕を掴まれた。

「ちょっと待て。なあ、そっちに誰かいるみたいだが、誰と話していた」
「大丈夫ですわ。話をしたいだけなんですって。悪意も感じなかったからお話してたんです」

『ねー!』とアポロニアが何かに話しかけた瞬間、姿が見えてきた。ん? 人間??



 一瞬人間に見えたがそうではなかった。
 腹から下が馬だ。ええと、これは、あれだ、ケンタウロス!!

「……い、……と…てい…、す…に、お……る」
「ごめんねお話してたの、すぐに返すからって言ってるわ。聞こえないんでしょ?」
「うん全然。一文字ずつくらい何か言ってるのはわかるけど」

「でしょうね。この方お喋りだから、話せそうな人に片っ端から話かけてるんだけど全然できなかったらしくて」

 普段神様のそばで色々してるらしいわよー、でも神様ってわりと無口だし仲間も忙しいから、この方の話し相手がいなくてーと軽い口調で話すからめちゃくちゃびっくりした。そもそもいたのかよ神様。まずそこからだよ。

 連絡先交換したのー、とオパールみたいに輝く小さな白い角のようなものを見せてくれた。これをどうやって連絡先として使うんだ。

 アポロニアはこっち、とケンタウロスが指し示したところに進んだが、すぐ姿が見えなくなった。『またねー!』という明るい声だけが聞こえた。

 人の真似をしているのか、感情のわからない顔をしながら手を下に向けて振ったと思ったら、こっちもスッと消えた。バイバイってことか。

 俺たちは顔を見合わせ、円の形に整えられたようなその場に無言で佇んだ。よく見たらここだけ足元に沢山の花が群生している。

「イリアスの花だね。花言葉が確か…あなたは私の安らぎ、愛しています」
「えっ、…もしかしてアポロニア…」

「神の使いに気に入られるってどうなんだろうねー。あっちはこっちの常識に疎いだろうから…」

 臨戦態勢を解いた先輩が、遠い目をして言った。最悪、連れ去られるかもしれないのか。…アポロニアが嫌じゃなければいいけど、会えなくなるのは嫌だなあ。ご両親も泣くじゃないか。

 先輩は突然、ぎゅうと俺を抱きしめた。
 嬉しいけど早く戻らなきゃ、と言ったがしばらくそうしていた。

「ハヴェルはいい奴だと思ってるでしょ」
「えっ、思ってるけど…ハッ、これ嫉妬?ねえ嫉妬?」

 抱きしめ返してはしゃぐ俺に、先輩はそうだよ、と言った。素直でいいなー。

「ハヴェルはね。拘束プレイの名手だから、必要以上に近づかないでね。飛馬ちょうばみたいに鞭で打たれたくないでしょ」

 ……先輩は穏やかな口調で、そう語った。

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