体育会系の魔法使いは呪文が覚えられない~暴死するか先輩と寝るかの二択です~

清田いい鳥

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26 開校記念レース開幕

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「ただいまよりー、第五十二回、王立第二魔術学園主催ー、開校記念レースを開催いたします」

 担任のエタン先生の声が拡声魔道具越しに大きく響いた。

「実況は私、エタン・カニング、解説はレイブン・ヴァーラ先生がお送りいたします」

 今回は実況までやんのかい。まあいい。その方が盛り上がる。アレもバッチリ買ったし、大声援送ってやんよ。



 学園では年に一度、鍛えに鍛えた騎士科の生徒がメイン走者の魔獣レースが開催される。

 上品なのが良いとされるこの国、この学園でも、この日ばかりはマジで無礼講だ。

 食事は評判の良いお店を呼ぶのだが、屋台しかない。食堂ホールも開いてるけどあまり人気はない。コースが見られる露天の席でみんな食べたくなるらしい。

 家族や友達の他に従者も連れて来れるけど、従者がお使いしたあと席に座ってみんなでのんびり食べるのが普通だ。なんたって無礼講だから。普段通りにすると逆に場違いになる。

 品良く振る舞って当たり前の人達が、今日だけ下町っぽさを体験する。そういうお祭りの日なのだ。

 その中に王様とか、王族の誰かがうろうろしてるらしい。それを探すのも楽しみのひとつだ。


 ゆるいようで警備はガチガチ。入り口以外からは入れないよう最新の魔道具で防犯面を固め、入場券は偽造不可能、本人確認付き。毎年記録も残している。

 ボディチェックらしきこともする。学生が訓練を兼ねてスキャン役をするのだ。上手い奴は下着の形までもをリアルに視認できるらしく、絵が上手い奴と組み、裏で…なんてことをやっているそうだ。アホだろお前ら。捕まっても知らんぞ。



 ちなみに俺もレースに出る。若葉杯と名付けられた、賑やかし要員だ。

 お家がよほど大きくないと、魔獣を持つのは難しい。飛馬ちょうばなんかは馬より肝が据わっているし気難しくもないが、単純に価格が高いのである。よく食うし。
 若葉杯に出る大体の生徒達は、お家に馬がいても飛馬はいない、乗り始めたばかりのヒヨッコだ。

 中々言うことを聞かせられず、飛馬に翻弄される子を励ましたり、上手く乗りこなす子を讃えたり。初心者である生徒達を微笑ましく見守る、よちよちレースなのだ。

「イレネオー! ブチかましてこいや!!」
「俺はお前に賭けてるからな! 小遣い全部突っ込んだんだぞ!!」

 大した額にもならない、よちよちレースだっつーの。

 俺は馬鹿な男共の声援を受け、飛馬のジュリア号と馬場に向かった。天井はないが、木製の仕切りつきゲートに並ばされる。始まったらガラガラ引っ張って片付け、ここがゴールになる。

 いやー本格的だなあ。すげえ既視感あるわ。


「位置について、よーい…」

 スパアアアアン!!!!

 ピストルではない。象とSMすんのかってくらい巨大な鞭の音でスタートだ。

 飛馬は戦場に行けるタイプの魔獣なのでビビらない。こいつらはライバルを意識して、走ることしか考えてない。あと、おやつのこと。乗ってるうちにその辺分かってきた。

 チッ、と舌鼓ぜっこを打ち、慣れた駆歩かけあしでさっさと先頭集団へ躍り出る。

 ちょっと振り返ったら、楽しそうにカッポカッポと速歩そくほで進むアポロニアが見えた。馬術は微妙なのーって言ってたのに、上手くなったじゃん。

 俺の出たレースは馬術経験者組なので、わりと何人も追ってきている。油断できない。ジュリアの脚を温存せねば。

「現在1コーナーから2コーナーに向かっております、一番前はリューイ号のロメオ・ファントム、後ろはジョーイ号のジェンティ・ドナル、三番手はジュリア号のイレネオ・ジュスティ、彼らは馬術経験者組の中でも上手いほうなのでしょうか」
「そうだなー。先頭の奴らはまあまあ姿勢が身についてんな。そうだ、イレネオは俺の飛馬に乗せたことあるからさ、速さのハードル下がってると思うわ。後で仕掛けて来るかもな」

「なんと、スピード狂の飛馬クルマ騎乗経験者が中にいる! これは楽しみになってきました」
「おめー今スピード狂って言ったな」

 魔力を食わせたらコロッと態度を変えてきたジュリアと、何度も舐られるのに耐えた俺のコンビに死角はない。

 前の二頭が残り400mで並んだ。ここで仕掛ける。

「ジュリア! 買ったら俺の魔力、腹いっぱい食わしてやるから頑張れ!! 抜くぞ!!」

 チチッと舌鼓の音を変え、後続組には腰飾りになっている鞭を取って打つ。痛みの刺激でやる気になるのだ。戦闘魔獣だからな。

 おやつの話をしたからか、ジュリアの速度がどんどん上がってゆく。ドドドッ、ドドドッ、と馬脚の拍子が変わった。

 あとは俺の問題だ。やる気になってくれたジュリアについて行けるか。行くしかない。絶対に姿勢を崩すな。進行方向を見失うな。

 俺の誘いに乗ってくれてありがとうジュリア!
 たとえおやつが欲しいだけでも、現金なお前が好きだぜジュリア!

「さあ三番手で外につけてきていたジュリア号のイレネオ・ジュスティ、二頭並んで僅差の勝負を続けておりますリューイ号、ジョーイ号の外から、外からジュリア号が押し上げてくる! ジュリア号先頭! ジュリア号先頭! ジュリア号先頭で一着ゴ────ル!!」
「あいつ鞭使ってきたな。来年あいつに賭けとこ」

 俺の小遣い! ありがとう!! やら、ロメオに賭けてたのにテメー!! やらの野郎の叫びをスルーして、女の子達がイレネオくーん! かっこいい! と誉め讃えてくれるコメントだけを耳に入れ、優勝旗を盛大に振った。

 そうだもっと言ってくれ。もっとだ。



 魔獣調教のプロであるカイ先生が、さすがにそろそろ…とジュリアを迎えに来てくれるまで、ジュリアは俺の手を舐り続けた。
 ハァ、ハァ、と息が荒くなってくるジュリアに、楽天的な俺もさすがに噛み千切られるんじゃないかと気が気でなかった。

 そろそろブルーノ先輩のレースが始まる。
 俺はアレをぎゅっと握った。

 何をって?  馬券に決まってるじゃねえか。
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