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7 祝・魔力回路ご開通
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口と口を付けること。知識だけで知っていたそれは、実際にやってみると案外わからないことだらけだった。最初は口を開けたほうが良いのかダメなのか、それすらも経験不足で判断できなかったことを思い出す。
舌の動きや位置すらなにもわからずに、右往左往していた心の動きと舌が連動していたような気がしている。
そのたびに『じっとしとけ』『落ち着け』『息を止めるな』『力を抜け』など言われ、指摘されるがままだった。情けなかった。
ダメだこいつ、と見放されたくない一心で、必死で改善に努めていた。ゆっくり、焦らず。脱力して。彼が集中できるように。無駄に力を入れてしまい、粘膜に覆われた口の中が傷ついたりしないように。
最初は緊張と混乱で心臓をドキドキ鳴らし、無我夢中のあとの曖昧模糊、からの茫然自失という感じで翻弄されているばかりであったが、今は期待とトキメキで心臓をドキドキと鳴らしている。
言われたとおりに力を抜き、入ってくる舌の感触を味わう余裕を持てたころから、なんとも筆舌に尽くしがたい快感に酔えるようになってきた。胸がギュッと縮んで苦しいのに、それが来るたび気持ち良く感じるのだ。
『あと少しで繋がりそうだ』と彼はことさら嬉しそうに笑った。心臓を鳴らすことばかり頑張っていた俺はピンと来ず、そうなんだ、わあ綺麗な笑顔、と思っていただけだった。
それよりも読める単語が増え、書ける単語も少し増え、多少得意ではあった算術の進みの方も順調で、前より出来るようになったことで自信がつき、最初はいっぱいいっぱいだった勉強をするための体力もついてきた。そのことに意識をほとんど持っていかれていた。
この頃は、俺の肩に直接手を回し、脚の間に彼の膝が置かれるようになっていた。謎の接触過多ふたたびである。ほんの少しの時間だが、甘い匂いと柔らかい唇、舌の感触に夢中になる。触ってしまわないように注意もしながら。本当にこの思い出さえあれば一生やっていける。もう充分いい思いをさせてもらっていると思っていたのだ。
そんな時だ。千切れている、通っていない、という彼の仮説が正しかったと実感できた瞬間はある日突然やってきた。
「むっ!? ……ん、はっ、待って、ねえキャロルさ…………」
「待て。いいとこだから」
「んっ……!! んん!! ……ん────!!」
いつもの甘く痺れるようなゾワゾワ感ではない。高熱でも出たのかと思うくらいの悪寒が急に襲ってきたのだ。姿勢の維持もままならず、背もたれにぐったり身を預けても立たなくなってきた足腰では、ズルズルと床に引きずり込まれてしまうようだった。
思わず彼の腰を掴んでしまった。突然の身体の変化が恐ろしく、パニックを起こしかけていたが俺はアホなのでこうも思っていた。うわあ、腰が細い。女の子みたい。
「今の体調はどうなっている。ソファーまで歩けるか? ほら、横になれ」
「な、なんとか、歩けます、あっすみませ……、どうも……」
「ちょっと繋がっただけでこうか。これは一旦出さないとダメだな」
「はあ。あの、お湯みたいなのが、身体の中を、ぐるぐる回ってる、感じが、します……あと、すっ、すっごく寒い、です」
「それでも熱は出ていない。大丈夫だ。病気じゃないから」
ソファーに寝転がった俺の上から彼が覆い被さり、口づけられた。今までは何か入ってきていた感覚とは逆に、引っ張られていく感じがする。ガタガタと勝手に動く身体の震えが収まり始めたと思ったら、今度はほんのり、ふわふわとした気持ちいい眠気が襲ってきた。
間近に感じる甘い香りと、まだ認められるわずかな寒さ。その時は、目の前の温かいものをもっと引き寄せたくなったのを覚えている。
俺は少し力の入るようになった腕を彼の背中にするりと回してしまった。立場がどうとか、身分がどうとか、その時はまるで考えることができなかった。それよりも、なんでこんなに細くて柔らかなのだろう、もっと近くに、としか考えていなかった。
『キスにも色々方法がある。唇を吸ったり、舌を舌で撫でたり、上顎の、ここんとこを舐めたりすんだ。強くやったらダメだぞ。反応を見ろよ。ていうかそこまでやっていいほど進んでんのかよお前は! まずそこを聞かせろよな』
耳年増の兄ちゃんから伝授された方法を、ここぞとばかりに俺は試した。後々不敬だとか、もう来るなと言われるリスクもあったのに、その時は本当に頭になかった。この柔らかいものがもっと欲しい。それしか考えられなかった。
「んっ……! はっ、待てグレイっ……んんっ……!」
多分びっくりして固まっていたと思われる彼が抵抗し始めた。ここでやっと、やらかしちゃったなと昏睡状態だった理性が起き始めたのだが、いやもうちょっと、という下心が拮抗していた。
それにしても、わりと頑張って抵抗しているように思える。しかしこの力の弱さは何だろう。重いものを持たないにしては弱くないか。もしかして、もしかしてこのまま行ってしまえば……
「いっっっ!! 痛ってえええ!!」
「そんなに痛いものか。ふふ、そりゃあ悪いことをしたな」
俺はアホだ。後先を考えずに許可もなくこういうことをやるからだ。俺の大馬鹿野郎が。薄汚い平民風情が。
彼は無慈悲にも、俺の主張を始めた股間の付属物を思いっきり掴んだのだ。いくら彼に腕力がないからといって、露出した内臓をこうされれば瀕死になる。痛過ぎて冷や汗が出てきた。早く、早く収まってくれ。早く。
「う~~……、ごめんなさっ……ごめんなさいっ……でもこれはちょっと酷っ……いたた、まだ痛いっ」
「言うことを聞かないからだ。ちょっとは落ち着け。まあ今のお前は恋人を作れる環境ではないからな。少しの刺激でそうなるのは理解しているつもりだが、まだ早い。勢いで無理を通そうとするな。学園に入って免許を取るまでの辛抱だ。我慢しろ」
無慈悲な制止を行った彼は言うこともまた無慈悲だった。カーテンの隙間から差した明かりが室内の埃をキラキラ照らし、彼の髪も眩く照らしている。呆れたような表情にかかった影の中で、紫の瞳だけが輝いている。
乱れた髪と曲がったシャツの襟元。俺がこうしたのだ、と思った瞬間また手を伸ばしたくなったが、なんとかこらえた。でも頭に浮かんだ言葉だけはどうしても飲み込めなかった。今までずっとできていた我慢が、この時だけはできなかった。
「キャロルさん、好きです。お、お、お慕いしております!!」
「ん? 私もお前のことは好きだぞ」
──えっ!! 嘘でしょ!? と浮かれるには早かった。
「お前は強い魔術師であり戦士になるだろうから、大切に育てているつもりだ」
──ウワー!! これ絶対俺が思ってる意味じゃないやつだー!!
にっこりと笑顔を向けてくれる。無表情なことが多かった彼も、会った回数が増えるにつれて表情も和らいできていた。なのにここで玉砕である。これまで兄ちゃんに色々聞いてはきたが、彼も上手くいかない男のひとりなのだ。俺もここまでだったのか。
それでも俺は諦められなかった。兄ちゃんは結局振られたらしいが、これも彼が言っていた。
『好きだと態度や言葉で伝えることは大切なんだぞ。それまで意識されていなくても、伝えることでそこから意識が始まるからだ。零を一に増やすこと。零にはなにをかけても零だが、一つ増やせりゃ話が違ってくる。まあ俺は一を増やすことすら出来なかったわけだが……』
兄ちゃん俺、なんとか一つ増やしてみるよ。これだけ助けてもらったんだ。兄ちゃんの助言が正しかったことを証明したい。
舌の動きや位置すらなにもわからずに、右往左往していた心の動きと舌が連動していたような気がしている。
そのたびに『じっとしとけ』『落ち着け』『息を止めるな』『力を抜け』など言われ、指摘されるがままだった。情けなかった。
ダメだこいつ、と見放されたくない一心で、必死で改善に努めていた。ゆっくり、焦らず。脱力して。彼が集中できるように。無駄に力を入れてしまい、粘膜に覆われた口の中が傷ついたりしないように。
最初は緊張と混乱で心臓をドキドキ鳴らし、無我夢中のあとの曖昧模糊、からの茫然自失という感じで翻弄されているばかりであったが、今は期待とトキメキで心臓をドキドキと鳴らしている。
言われたとおりに力を抜き、入ってくる舌の感触を味わう余裕を持てたころから、なんとも筆舌に尽くしがたい快感に酔えるようになってきた。胸がギュッと縮んで苦しいのに、それが来るたび気持ち良く感じるのだ。
『あと少しで繋がりそうだ』と彼はことさら嬉しそうに笑った。心臓を鳴らすことばかり頑張っていた俺はピンと来ず、そうなんだ、わあ綺麗な笑顔、と思っていただけだった。
それよりも読める単語が増え、書ける単語も少し増え、多少得意ではあった算術の進みの方も順調で、前より出来るようになったことで自信がつき、最初はいっぱいいっぱいだった勉強をするための体力もついてきた。そのことに意識をほとんど持っていかれていた。
この頃は、俺の肩に直接手を回し、脚の間に彼の膝が置かれるようになっていた。謎の接触過多ふたたびである。ほんの少しの時間だが、甘い匂いと柔らかい唇、舌の感触に夢中になる。触ってしまわないように注意もしながら。本当にこの思い出さえあれば一生やっていける。もう充分いい思いをさせてもらっていると思っていたのだ。
そんな時だ。千切れている、通っていない、という彼の仮説が正しかったと実感できた瞬間はある日突然やってきた。
「むっ!? ……ん、はっ、待って、ねえキャロルさ…………」
「待て。いいとこだから」
「んっ……!! んん!! ……ん────!!」
いつもの甘く痺れるようなゾワゾワ感ではない。高熱でも出たのかと思うくらいの悪寒が急に襲ってきたのだ。姿勢の維持もままならず、背もたれにぐったり身を預けても立たなくなってきた足腰では、ズルズルと床に引きずり込まれてしまうようだった。
思わず彼の腰を掴んでしまった。突然の身体の変化が恐ろしく、パニックを起こしかけていたが俺はアホなのでこうも思っていた。うわあ、腰が細い。女の子みたい。
「今の体調はどうなっている。ソファーまで歩けるか? ほら、横になれ」
「な、なんとか、歩けます、あっすみませ……、どうも……」
「ちょっと繋がっただけでこうか。これは一旦出さないとダメだな」
「はあ。あの、お湯みたいなのが、身体の中を、ぐるぐる回ってる、感じが、します……あと、すっ、すっごく寒い、です」
「それでも熱は出ていない。大丈夫だ。病気じゃないから」
ソファーに寝転がった俺の上から彼が覆い被さり、口づけられた。今までは何か入ってきていた感覚とは逆に、引っ張られていく感じがする。ガタガタと勝手に動く身体の震えが収まり始めたと思ったら、今度はほんのり、ふわふわとした気持ちいい眠気が襲ってきた。
間近に感じる甘い香りと、まだ認められるわずかな寒さ。その時は、目の前の温かいものをもっと引き寄せたくなったのを覚えている。
俺は少し力の入るようになった腕を彼の背中にするりと回してしまった。立場がどうとか、身分がどうとか、その時はまるで考えることができなかった。それよりも、なんでこんなに細くて柔らかなのだろう、もっと近くに、としか考えていなかった。
『キスにも色々方法がある。唇を吸ったり、舌を舌で撫でたり、上顎の、ここんとこを舐めたりすんだ。強くやったらダメだぞ。反応を見ろよ。ていうかそこまでやっていいほど進んでんのかよお前は! まずそこを聞かせろよな』
耳年増の兄ちゃんから伝授された方法を、ここぞとばかりに俺は試した。後々不敬だとか、もう来るなと言われるリスクもあったのに、その時は本当に頭になかった。この柔らかいものがもっと欲しい。それしか考えられなかった。
「んっ……! はっ、待てグレイっ……んんっ……!」
多分びっくりして固まっていたと思われる彼が抵抗し始めた。ここでやっと、やらかしちゃったなと昏睡状態だった理性が起き始めたのだが、いやもうちょっと、という下心が拮抗していた。
それにしても、わりと頑張って抵抗しているように思える。しかしこの力の弱さは何だろう。重いものを持たないにしては弱くないか。もしかして、もしかしてこのまま行ってしまえば……
「いっっっ!! 痛ってえええ!!」
「そんなに痛いものか。ふふ、そりゃあ悪いことをしたな」
俺はアホだ。後先を考えずに許可もなくこういうことをやるからだ。俺の大馬鹿野郎が。薄汚い平民風情が。
彼は無慈悲にも、俺の主張を始めた股間の付属物を思いっきり掴んだのだ。いくら彼に腕力がないからといって、露出した内臓をこうされれば瀕死になる。痛過ぎて冷や汗が出てきた。早く、早く収まってくれ。早く。
「う~~……、ごめんなさっ……ごめんなさいっ……でもこれはちょっと酷っ……いたた、まだ痛いっ」
「言うことを聞かないからだ。ちょっとは落ち着け。まあ今のお前は恋人を作れる環境ではないからな。少しの刺激でそうなるのは理解しているつもりだが、まだ早い。勢いで無理を通そうとするな。学園に入って免許を取るまでの辛抱だ。我慢しろ」
無慈悲な制止を行った彼は言うこともまた無慈悲だった。カーテンの隙間から差した明かりが室内の埃をキラキラ照らし、彼の髪も眩く照らしている。呆れたような表情にかかった影の中で、紫の瞳だけが輝いている。
乱れた髪と曲がったシャツの襟元。俺がこうしたのだ、と思った瞬間また手を伸ばしたくなったが、なんとかこらえた。でも頭に浮かんだ言葉だけはどうしても飲み込めなかった。今までずっとできていた我慢が、この時だけはできなかった。
「キャロルさん、好きです。お、お、お慕いしております!!」
「ん? 私もお前のことは好きだぞ」
──えっ!! 嘘でしょ!? と浮かれるには早かった。
「お前は強い魔術師であり戦士になるだろうから、大切に育てているつもりだ」
──ウワー!! これ絶対俺が思ってる意味じゃないやつだー!!
にっこりと笑顔を向けてくれる。無表情なことが多かった彼も、会った回数が増えるにつれて表情も和らいできていた。なのにここで玉砕である。これまで兄ちゃんに色々聞いてはきたが、彼も上手くいかない男のひとりなのだ。俺もここまでだったのか。
それでも俺は諦められなかった。兄ちゃんは結局振られたらしいが、これも彼が言っていた。
『好きだと態度や言葉で伝えることは大切なんだぞ。それまで意識されていなくても、伝えることでそこから意識が始まるからだ。零を一に増やすこと。零にはなにをかけても零だが、一つ増やせりゃ話が違ってくる。まあ俺は一を増やすことすら出来なかったわけだが……』
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