The war of searching

黒縁めがね

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コーラス遺跡都市防略

第34話コーラル防略、14/悪魔と獅子の戦い/ストレス/増援

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昼間の照り輝き空気すらも揺れるような陽の光も今や山に隠れ初め空は赤く、火の色に染まりつつあった。戦いは膠着状態になり始め、両軍はこの戦の勝利への起点を求めていた。
そして、コーラル防壁南部。
「___また赤色勲章が増えちまうなぁ!」
メネはその言葉を意に解すなく大隊長にツヴァイヘンダーの右顔面に向けた突きの一撃を放つ。大隊長はそれを躱しながらブロートソードの刃にツヴァイヘンダーを沿わせ、そのままブロートソードを右から左へ押しツヴァイヘンダーを払い退けた。メネは払いのけられたツヴァイヘンダーと共に左へ引っ張られるように体制を崩す。大隊長の行ったこの一連の動作は所謂"パリィ"。大隊長は体制を崩したメネの頭を左手で掴みそのまま右膝に引きつけるように膝蹴りをメネの顔面に打ち込んだ。
「ぐぅっ!」
メネは蹴られ、顔を押さえながら後ろに二、三歩と下がる。膝蹴りを撃ち込まれた顔の鼻の穴からは血が滴り落ちた。大隊長はすかさずメネの鎖骨に捩じ込むべく左手に持つブロートソードを逆手に持ち替えメネに迫る。
メネは迫る大隊長を寄せ付けまいと右手に持つツヴァイヘンダーを左から右へ大きく薙ぎ下がり片膝を立てながら跪いた。大隊長は薙がれたそれを躱すべく同じく下る。
メネはそのまま左腰に下げられた黒いミラノ式の黒い兜を取り出し頭に着装した。
「次は必ず殺す…」
メネはそう呟いた。銀色に光るその双眸に秘められた大隊長への怨念は、その兜の上からでもわかるほどに沸々とその強さを増していた。
大隊長はそれを認識すると、残念そうに呟く。
「おいおぃ___」
メネは立ち上がりツヴァイヘンダーを再度左半身を引きながら構える。だが、今回は剣先を大隊長の喉元へ突き付ける。
「___サムライの方が愉しかったぜェ…」
大隊長はメネに左手を伸ばしながら飛び出した。




~~~




遺跡省本庁入り口前。
「ドラゴ兵団、アルドラ弓兵隊各員。___」
アメリナ団長は目の前に整列したドラゴ兵団とアルドラ弓兵隊にそう呼びかけた。その声色は何処か苛つきに近しいものを帯びている。
「___我々は現時点で行動可能な兵団員、弓兵隊員と共にこれより防壁南部へ向かい、ライカード軍大隊相当、"黒の悪魔"と交戦中のミレス帝国軍直轄大隊へ増援として向かう。
到達は夜の帷がかかりきる直前、気を引き締めておくように。」
アメリナ団長はそう言うと踵を返し、南部防壁へ歩き始めた。
「各員、私について来い。」
アメリナ団長の言葉に従い、弓兵・兵団員達はあゆみ始めた。


「デイビッドは大丈夫かねぇ…」
道中、ヨーストはそんなことを呟いた。
ハイミルナンはそれに相槌を打ち、その口を開く。
「…"アルチンゲールさんが付いているから何とかなる"、そう願うわね。」
2人はため息を吐いた。
デイビッドの容態は依然として良い物とは言えない。左腕の大火傷が主な怪我とは言え、途轍もない熱気の中がその身を包んだのだ、たかが大火傷の一つでは済まされない、済んではならない。
「おーい、ルーキーズ!なぁに暗い顔しちゃってんのォ、デイビッドぁ大丈夫だって、アンチンゲールさんが付いてってからさ。」
「…うむ。」
レワイドとラーゴに親しみをこめて"ルーキーズ"と呼ばれた暗い雰囲気のヨーストとハイミルナンとは対照的に、レワイドとラーゴは至って平静としておりまるで気にすらもしていないようだった。
それは、アルチンゲールに対する信頼か。
それとも新人が死に頻する、または至る事態に対する慣れか。恐らくどちらもなのだろう。
「あはは、すいやせん。」
ヨーストは力無くそう答えた。
ハイミルナンはそれに同意するように、小さく頷いた。それらをよそ目にラーゴは3人の近くに立ち、小さく口を開いた。
「…レワイド、ルーキーズ、その辺にしておけ、団長が火を吹くぞ。」
すると4人は団長の方を向いた。
背後からでもわかる程、アメリナ団長の苛立ちが目に見えてわかった。握りしめられた両拳、逆立っている髪の毛先、「ドスドス」と地面を踏み立て歩み進める足。
確かに、今にも火を吹き出しそうだ。



~~~



(クソックソックソッ。何故、何故、黒の悪魔絡みの事になるといつもこう面倒なんだ…ッ!)
アメリナ団長は歯を食いしばる。
その心の中の苦悩の叫びは誰にも聞こえないだろう。だが、それは"書類"として認識する事ができる。コーラル遺跡移動前兵団長執務室、アメリナ団長のデスクの上に積みあがった書類の山。それは、アメリナ団長の黒い悪魔絡みで起こる"面倒"の一端だった。さらにそれは氷山の一角でもあった。他にも事情聴取や、対策会議など時間を食われる物ばかり。書類を片付ける暇もない上休む事もできない。それらが与えるストレスのせいか一時期アメリナ団長は途轍もない胃痛に苛まれたことがあった。

「はぁ…」
そして、アメリナ団長はため息を吐く。
それを聞いた兵団本隊メンバー4人はびくりと体を震わせた。自身らへ向けられた物だと勘違いしたのだろう。
それに気付かぬまま、アメリナは心の中でふとあることを考えていた。
(職務とは関係なしに、愚痴を溢せる相手が居ればなぁ…)



~~~




「死ねぇっ!」
大隊長に袈裟斬りを見舞わんとツヴァイヘンダーを上段に構え迫るメネ。大隊長はその動きに合わせ、同じくメネに迫った大隊長。
メネは剣を振りおろし、大隊長はメネの腹に向けて思いっきり足蹴りをかました。
ほぼ同時の攻撃、勝者は大隊長だった。
わずかに動きが早かった大隊長の蹴りはメネの腹をしっかりと捉えた。メネは蹴られ、後ろへ2mほど飛ばされた。大隊長は上に飛び、ブロートソードを逆手に持ち替えメネに突き立てようとしする。メネはそれをツヴァイヘンダーの腹で受け、上に流す。大隊長は体制が崩れるが、すかさず前転し右膝立ちをしながらメネにブロートソードを構えた。
「俺の動きパクるくらい余裕あんならギフト使った方がいいんじゃぁねえの?」
大隊長はそう言った。メネはそれに答えた。
「もう、使ってる。続きをするぞクズ。」
そう言い、大隊長に飛びかかろうとしたその時。

___大地は揺れる。
その場の断末魔などとは違う別の雄叫びと共に防壁南部に迫るライカード軍、約8000軍がいた。その戦闘に立ち進む馬に乗った2騎の兵士がいた。マイクとブロウズだ。
「仕方ないなぁ、勝負はお預けだ。」
大隊長はそう残念そうに呟く。
そして立ち上がり、南部防壁に向かって歩き出した。メネもそれと同じく構えを解き、兜を外す。そしてメネは大隊長に問う。
「次は、必ず殺す。名前は?」
大隊長は振り向く事なく答えた。
「名乗るほどのモンでもねぇ。大隊長、そう覚えておいてくれよ。」
メネはそれを聞くと拳を固く、固く握りしめた。

そして、南部防壁の門が開く。
中から現れたのは約80騎のグレートランスを持った重装備の騎士達。先頭に立つのはグレイヴを持ったロビンとサーベルを持ったジャック
ロビン騎兵隊の姿があった。
「総員、構え!」
そう騎士達に命令する。
騎士達はそれに従い、グレートランスを構えた。そしてロビンはグレイヴを掲げ叫ぶ。
「勝てば俺の奢りだ、突撃ィ!」
騎士達は防壁に迫るマイク達へ駆け出した。



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