距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚

文字の大きさ
15 / 74

ゆるふわJKと雑魚先輩

しおりを挟む
 駅前のゲームセンター。
 煌びやかな光と音が飛び交い、プレイヤーの熱気と興奮が充満する空間に足を踏み入れる。

「おっ、あったあった。《太Ⅳ》! 久々にやるかぁ」
「俺が勝ったら、ラーメン代半分もらうからな」
「もう払った後だろ! っていうか俺が全額出してるからね!?」

 そんな軽口を叩きながら、並んだ筐体の一つに腰を下ろす。
 太Ⅳこと《太りんぼうタイタンⅣ》は、いま最もプレイ人口が多い格ゲーの一つ。
 プレイヤーは二十人ほどの太っちょキャラの中から一人を選び、最強の座を目指して戦う。
 アーケード版は久々とはいえ、こっちは家でも触ってる。腕が鈍ってるとは思えない。

「行くぜぇ、悟。泣くなよ!」
「泣くのはそっちだっての」

 ゲームが始まる。
 隆輝はパワータイプのキャラであるチャーシューメン、俺はスピードタイプのコムス・B。
 一撃を喰らうだけでも体力を大幅に持っていかれるが、それは「当たれば」の話。
 俺はコムス・Bの華麗な立ち回りで翻弄し、チャーシューメンの固いガードを崩し――。

「はい終わりぃ!」

 画面にKOの文字が浮かぶ。

「……な、なんでだよ……!」
「お前、相変わらず投げに頼りすぎなんだよ。読みやすい」
「投げキャラが投げに頼って何が悪い! おい、リベンジ――」
「はいはーい、次は私の番で~す!」

 ぬっと現れて隆輝をどかす二兎。
 無理やりクレジットを入れて、早々にキャラを選び始める。

「二兎、お前……やったことあるのか?」
「えぇ~、どうですかねぇ? 試してみたらいいんじゃないですかぁ? それとも、私に負けるのが怖いんですかぁ?」
「……ほう。小娘が言うじゃないか」
「小娘って、先輩と一年しか違いませんよぉ~?」
「たった一年、されど一年。その三百六十五日の努力がどれほどの差を生むのか、見せてやろうじゃないか」

 二兎が選んだのはリキ・C。
 知ってか知らずかガチ勢御用達の最強キャラである。
 だが、勝負に勝つために必要なのは単純なキャラ性能だけではない。
 キャラ性能とプレイスキルの掛け算。片方だけが優れていてもダメなのだ。
 ここで負けるようなことがあれば男が廃る。
 そんな意気込みで試合がスタートするが――。

「うりゃっ! それっ! はーいコンボ入った~!」
「嘘だろッ!? ちょ、ちょっと待――」

 俺の体力ゲージが一瞬で溶けていく。
 フェイント、投げ抜け、起き攻め……全部がプロレベル。
 タイミングがえげつない。

「なん、だと……?」

 気がつけば、俺のキャラは何もさせてもらえずに地面に倒れていた。
 深夜に駅前で潰れている酔っ払いですら、もう少し動けるだろう。

「ふふーん、やったぁー! はい、悟先輩の負け~。雑魚ですねぇ~?」
「いや、なんでそんなに強いんだよ……」 
「えー? 先輩のアドバイスのお陰じゃないですかぁ?」

 二兎にアドバイスなどしたことはない。
 カメラの腕だって、俺より遥かに優れている。

「……とりあえず、再戦いいか?」
「しょうがないですねぇー。先輩の心に、私という傷を刻み込んであげます!」

 それから三十分後、俺たちは腕で楽しむゲームから、全身で楽しむ音ゲーコーナーへと戦場を変えていた。
 別に、俺が十戦して一度も勝てなかったからではない。
 脳がサイケでエレクトリックなミュージックを求めているだけだ。
 俺と二兎は隣り合って筐体の前に立ち、画面を見つめていた。

「悟先輩、これやったことあります?」
「《DAINI BEAT》は一回だけな。画面三つを同時操作って、どんな鬼畜ゲームだよ……」
「あれあれ、またボロ負けコースですかぁ?」
「はっ……舐めるなよ。二兎の方がダイビーが得意だとしても、音ゲーをやってきた歴が違うんだよ、歴が」
「私は小学生の時からやってました」
「じゃあもう俺の負けかな」
 
 筐体が開戦のカウントダウンを始める。
 戦いの火蓋が切られると同時に画面に広がる幾何学模様、流れてくる高速ノーツ。
 俺は無心で手を動かす。

「うおっ、はっ、くっそ……これ無理だろ……!」
「わぁ~っ! 先輩、リズムとってるのに全然合ってないですよぉ~? かわいい~」
「バカにしてんのか……!」

 何度もミス判定を出しながら、なんとか最後まで食らいつく。
 結果、当然のように二兎の圧勝。
 perfectの数が三倍くらい違うんですけど。

「楽しかったですねぇ~。あれ、そういえば先輩のお友達は?」

 そこでようやく、隆輝の姿が視界から消えていることに気づいた。

「さっきまでそこに――」

 言いかけたところで、俺のスマホが震えた。
 画面には「葉音」からの――は無視して、すぐ下に「隆輝」からのメッセージ。

『拙者、波動を感じる者にござる。
故あって本日は帰らせていただく。御免』

 どういうことだよ。

「……なんか急用、らしい」
「ふぅん。いいお友達ですねえ?」

 何を察したのか、二兎がわずかに目を細める。
 そしてすぐに、無邪気な声に戻る。

「じゃ、私たちだけで楽しみましょうか! せっかくだし、プリでも撮っていきますぅ?」
「えっ、おい、それはさすがに……!」
「行きま~す!」

 俺の抗議などお構いなしに、二兎は俺の手を引いて歩き出す。
 ゲーセンは相変わらず騒がしいが、隆輝が消えてから、なぜか少しだけ空気が変わった気がした。

 プリクラ筐体の前に立った俺は、マジで帰るべきだったと後悔していた。

「はいは~い、悟先輩、こっちこっち。悩んでる暇なんてないですよ~? タイマー動きますからね~?」

 脅しのようなテンションで俺をブースの中へ押し込む二兎。
 妙に無機質に感じる密室空間。
 背後でカーテンが閉まる音が、やけに重々しい。

「おい、これは流石に冗談が過ぎるっていうか……」

 こいつ、後日どっかに晒すつもりじゃないだろうな。
 俺なんかと撮って何が楽しいんだ。
 
「なにがですかぁ? プリクラって、青春って感じで良くないですか? ……それに、巻島先輩と撮る前に、練習ってことで!」
「練習って……俺、巻島と撮る予定ないぞ」
「え~? そのうち撮ることになると思いますよ~? ふたりでこっそり体育倉庫とか行っちゃう関係ならぁ~」
「っ……!」

 完全に煽られている。なのに、反論できないのが悔しい。

「はーい、じゃあ最初のポーズはこれで~す! 顎クイっ!」
「ふざけんな」
「ふざけてませんよぉ~。私、こういうの好きなんですぅ~」

 軽く俺の顎に指を添え、スマホのカメラみたいなプリクラのレンズに向かって微笑む二兎。
 俺はと言えば、「あ、俺がされる方なんだ」と思いながら、無表情のまま硬直していた。
 シャッターは無情にも切られる。
 フラッシュに照らされるたび、俺の尊厳が削られていく。
 俺の先輩らしさが回復することはなく、そのまま全ての枚数を撮り終わった。

「……なんでこんな目に……」
「いいじゃないですかぁ。楽しくなかったですか?」
「いや、まぁ……貴重な経験ではあるけどさ。絶対に誰にも見せるなよ?」
「分かってますよぉ~、先輩がビビりさんなのは」

 そう言って、二兎は完成したプリのプレビューを眺めていた。
 くるくる変わるポーズ。俺の苦悶の表情。二兎のあざとい笑顔。

「悟先輩、撮られ慣れてないのが出てて、とっても可愛いですね~」
「はいはい。ありがとよ」

 俺が若干ふてくされながら答えると、二兎がふいに真面目な声で言った。

「――でも、今の顔、巻島先輩には見せちゃダメですよ」
「……は? なんで巻島が関係あるんだよ?」

 問いかけるも、二兎に「思考力まで雑魚雑魚な先輩には秘密で~す!」と煽られてしまう。
 
「さ、落書きしましょっか! 『ゆるふわJKと雑魚先輩☆』でいいですかぁ?」
「絶対ダメだろ」

 画面上の俺の顔には、既にハートのスタンプが付けられていた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。 その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに! 戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

処理中です...