距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚

文字の大きさ
35 / 74

行動開始

しおりを挟む
 昼休みのチャイムが鳴ってから数分。
 教室に漂い始めた空気が、どこかよそ行きになっていく。
 男子たちはソワソワと姿勢を正し、女子は「ヤバ……」と声を潜める。
 次々と交わされる小声と視線の先――現れたのは東堂先輩だった。

「数日ぶりの東堂先輩……眼福……ッ!」
「てかスタイル良すぎでしょ、マジで」
「同じ人間とは思えん」
「踏まれてぇ……」

 教室のドアを静かに開けたのに誰もが振り向く。
 彼女の存在は教室という雑然とした空間に一瞬で静寂と緊張をもたらした。

「……こんにちは」

 仲良くしたいが故の挨拶ではなく、視線を向けられたことへの反射としての言葉。
 東堂先輩は上級生というだけではなく、完成された大人に近い存在として下級生たちから羨望の眼差しを向けられている。
 特に女子の間では「こんなふうになれたら」と理想視されているのだ。
 そう思う気持ちもわかる。外見は抜きん出ている。
 巻島が可愛い系の最高峰だとすれば東堂先輩は綺麗系の頂点。芸術作品のようだ。
 
 ――ただ、俺はその先に進みたいとは思わない。

 いまだにファーストコンタクトの印象が強くて仲良くなりたいと思えない。
 仮に俺が友好的でも、向こうは俺が嫌いだろうしな。
 だがしかし、何も始まっていないというのに確信だけが先に俺の元へ走ってくる。
 ここからの展開が、脳内で勝手に再生される。
 周囲の視線が一斉に俺へと向かう。

『なんであいつ?』
『巻島さんと話してるだけでも処刑ものなのに……』
『弱みとか握ってんじゃね?』
『殺意湧いてきた』

 こうなるだろう。再生終わり。
 ということで、現実が想像に追いつく時がやってきた。
 東堂先輩は教室を見渡すと――。

「七里ヶ浜くん、少し話があるの。いいかしら?」

 はい来た。
 断りたくないが「はい」以外の選択肢が見当たらない。

「……わかりました」

 できるだけ目立たないように席を立ったつもりだが、逆に目立ってしまう。
 昼休みの教室で、学年トップの美人先輩に呼び出されてついていく下級生男子という構図。
 どう取り繕っても「イベント発生」だ。
 教室を出る直前、隆輝の噛み殺したような笑いが聞こえた。

 俺の前を歩く東堂先輩は歩幅すら美しかった。
 体幹とテンポが整っていて、見ているとこっちまで背筋を伸ばしたくなるような歩き方だ。
 そして、連れて行かれたのは記憶に新しい屋上。
 巻島が先輩に怒りを露わにした場所である。
 幸いなことに今日は誰もいないようで、先輩は適当に立ち止まると振り返った。
 
「……前に言ったわよね? 葉音のこと、適当に扱ったら許さないって」

 はい、覚えてますとも。俺は頷く。

「あの時は、ありがとうございました」
「……何が?」
「先輩が発破をかけてくれなかったら俺は……あのまま座ったままだったかもしれない。だから、お礼を言わないとって」
「……っ、そう……なのね」

 嫌っている相手に礼を言われて不快に思ったのだろうか、先輩は顔を引き攣らせる。

「……今日の用件は、その話じゃないの」
「じゃあ……なんですか?」

 東堂先輩は一瞬だけ目を伏せ、それから、こちらの顔をじっと見つめながら言った。

「葉音の仕事の話、聞いたわよね」
「……え?」

 意表を突かれた。
 正直なところ、何を言われるか予想もついていなかった。

「ええと……アレのことですか?」

 アレ、とは言ったが何も示していない。
 巻島はアイドルであり、芸能人だ。
 俺に教えてくれる仕事のことも、本来なら他言無用のはず。
 それを、こういう時に「聞きましたよ」と言ってしまうのは、彼女のプロ意識と受け取られてしまうのではないか。
 ……そんなんじゃ説明できない出来事からは目を逸らして。

「……なるほどね。いい心がけだと思うわよ、それ」

 こちらの意図を察してくれたようで、先輩は腕を組みながら一度だけ頷く。

「ファッション誌のモデルをやるの。女子向けだけど、きっとあなたも聞いたことがあるくらいの雑誌のね」

 どんな雑誌かまでは聞いていなかった。
 自分の想像より、さらに上をいっているようだ。

「それは……すごいですね」
「えぇ、すごいのよ。やりたくても中々やれるものじゃない」

 そうですよね、と俺が感心していると、先輩は煮え切らないふうに言った。
 
「普通の恋人ってこういう時……お祝いとか渡すと思うのだけど」
「……そうなんですか?」

 そもそも俺たちは付き合っていないが、言える雰囲気ではない。
 
「そうよ、そういうものなの。プレゼントはもう決めているの?」
「いや……まだ、です」

 東堂先輩はほんの少しだけ表情を崩す。
 それは微笑みのようにも、皮肉のようにも見えた。

「……やっぱりそうなのね。あなた、そういうところがあるわよね。
それとも気付いていないふり?」
「……気づいてない、ふり?」
「――いいえ。ごめんなさい、何でもないわ」

 言いすぎたと思ったのか、それとも何かをこらえたのか。
 東堂先輩はため息のように髪を耳にかけると、視線を逸らした。

「私はもう何を渡すか決めたけど、あなたは葉音の……大切な人だから。変な物を渡されて失望させたくないの」

 そうか。先輩は巻島のことを大事に思っている。
 だから嫌いな相手であったとしても手を貸してくれるんだ。

「だから今日の放課後、私と一緒に――」
「もう少し待ってもらえませんか?」
 
 予想外だったのか、先輩は言葉を途切れさせる。

「少しだけ自分で考えてみたいんです。多分、洒落た物は渡せないと思うけど」

 彼女の顔からすっと熱が引いたのが分かった。

「そう……それがいいわね。彼女も、嬉しいでしょうね」
「え?」
「……別に、なんでもないわ」

 何かを言いかけて、押し殺して背筋を伸ばしているようだった。

「じゃあ、考え付かなかったら教えてちょうだい。都合がついたらね」
「ああ……はい」

 そう返した時にはもう、東堂先輩は背を向けていた。
 歩幅はわずかに不揃いだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。 その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに! 戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

処理中です...