距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚

文字の大きさ
40 / 74

あはっ、そうですねー。それに気づけるなんて、ほんっとうに先輩は可愛いです!

しおりを挟む
「悟せんぱぁ~いっ」

 昇降口で靴を履いていると、甘ったるい声が背後から飛び込んでくる。
 振り返らなくても分かる。二兎だ。

「先輩って、今日はこのまま帰る感じですかぁ?」

 制服のスカートを揺らしながら、俺のすぐ横まで来ていた。
 ニヤニヤと笑っている。
 
「……あ、あぁ。特に予定はないけど」
「そっかぁ、よかったです~」

 二兎が距離を詰めてくる。
 いつもよりテンションが高いように感じた。

「じゃあ一緒に帰りましょうよ。先輩、今日は一段と雑魚雑魚顔ですしぃ~、気分転換に付き合ってあげますっ!」
「いや、別にそんな疲れては――」
「何か言いましたぁ?」

 指先で軽く俺の腕を小突いて、二兎はにこっと笑った。

「わたしぃ、ちょっと寄りたいところがあるんです。付き合ってくれたら嬉しいなぁ~」

 結局、俺は断れずにそのまま一緒に学校を出た。
 向かったのはショッピングモールだった。

「はい、ここですぅ~」

 連れてこられたのはファンシーな雑貨店。
 俺が来るような店ではない。場違いすぎて目が痛い。

「別に買いたいものがあるってわけじゃないんですけどねぇ」

 そう言いながら二兎はキーホルダー売り場を眺め始める。

「あ、これ可愛くないですかぁ?」
「可愛い……んじゃないか?」

 彼女が手にしているのは、最近女子たちの間で流行っているらしいキャラクターのキーホルダー。
 俺にはイマイチ良さがわからない。

「ほら、こういうの彼女さんにあげたらどうですかぁ? 巻島先輩にぃ」

 あくまで軽口だが、俺の反応を待つように横目でちらりと覗いてくる。

「ちなみにこれ、おそろいもあるんですけど~、巻島先輩とそういうものは持ってたりしないんですかぁ?」
「も、持ってないよ」

 そう言うと、二兎は揶揄うように笑う。
 
「先輩、ちょっと動揺してるのバレバレです~」
「……してない」
「してます~」

 笑いながら俺の袖口をくい、と引く。

「じゃあ、私とお揃いにしませんかぁ~?」
 
 そう口にした二兎は、冗談のような、冗談じゃないような目をしていた。

「それは……」
「あ~、そうですよね~。だって先輩には彼女さんがいるんですもんねぇ~」

 分かりやすく肩を落として見せる。あざとい。
 
「いや、俺たちは別に付き合ってるわけじゃ――」

 その瞬間、二兎の目がキラリと光ったように見えた。

「そうですよねっ!?」
「おおっ!? なんだ!?」

 両腕を掴まれる。二兎ってこんな力強かったのか?

「やっぱり……おかしいと思ってました」
「……なにが?」
「先輩という牙城が、こんな簡単に崩されるはずがないんですぅ」

 急に聞き慣れない言葉を使われて驚いた。
 二兎は胸の前で握った拳をぶんぶんと振って、なぜか勝利宣言のようなことを言っている。

「いや、牙城って……そんな大層なもんじゃないだろ」
「それが問題なんですよぉ~。自分じゃ気づいてないのが一番タチ悪いってやつです~」

 あざ笑うような口調。でも、目が笑ってない。

「自分がどれだけ罪なことしてるか分かってないんじゃないですか? 巻島先輩に好かれてるのだって、どうせ途中まで信じてなかったんでしょう?」
「そんなことは……」

 ある。心当たりありまくりだ。

「それで変に口を滑らせて無理やりされちゃったとか、そういう流れじゃないですか?」
「…………」

 何も言えない。
 なんなら、あなたに対して嫉妬してましたよ。

「でも……今日のところは良いです。先輩がどれだけお馬鹿さんでも許してあげますっ!」
「なんで俺、ところどころ罵倒されてんの?」

 二兎は答える気はないようで、しかし謎に嬉しそうにキーホルダーに目を落とす。
 
「……私とおそろい、してみませんか?」
「二兎とおそろい?」
「そうですぅ。巻島先輩と付き合えない悟先輩が可哀想なんで、私が代わりにおそろいしてあげますよ?」

 差し出されたのは、さっきのキーホルダーのペアバージョン。
 どちらがどちらを選んでもいいように色違いになっている。

「でも、こんなの誰かに見られたら困るだろ?」
「誰かって誰ですかぁ~? 大丈夫です、誰も先輩のことなんて見てません!」
「それは悲しいだろ……」
「付き合ってないならいいじゃないですかぁ~」
「……本当はこれが欲しいだけじゃないか?」
「どうですかねぇ~」

 そう言いながら、キーホルダーを俺の手にそっと押しつけてくる。

「今日は私のターンなんですから。巻島先輩も東堂先輩も関係ないで~す」

 二兎がなにを言いたのか全然わからない。
 そして、このままうだうだやるのも面倒だ。
 
「……買うよ」
「えっ……いいんですかぁ!?」
「欲しいんだろ? 買ってやるよ」
「やったぁ! 先輩も付けてくださいね!」
「え? 買うのは二兎のだけで良いだろ?」

 欲しがっているのは彼女なんだし。

「もちろん先輩も付けてくれますよね?」
「いや、だから買うのは二兎のだけで――」
「先輩も付けてくれますよね?」
「………………買ってくるよ」

 「はい」を選ばなと進まないやつだ。
 俺は仕方なく二つのキーホルダーを持ち、後ろからの「ちゃんと付けてくれないとシバき倒しますからね~!」という声を背に浴びながらレジへと向かった。

 店を出た俺たちは、ショッピングモールのエスカレーターを並んで降りていた。

「──で、ちゃんと付けてくれるんですよね?」

 二兎がニヤニヤしながら言ってくる。

「……まぁ、つけるけどさ」
「え、なんかトーン低くないですか? もっとこう、嬉しさ爆発させていいんですよ?」
「爆発しねぇよ」

 後輩にイジられて喜んでたらヤバいだろ。
 悟のSから反転してMだよ。

「ふぅ~ん……先輩が嫌がるなら、わたし付けるのやめちゃおっかな~?」
「やめるの? それなら俺も──」
「やめるとは言ってませんけどぉ!?」

 こっちの反応に食い気味で食い下がってくる。

「ほ、ほんといじりがいありますねぇ、悟先輩は」
「やっぱり、そのために誘ったのかよ」
「……ふふっ、まぁ、ちょっとだけ。でも今日は楽しかったですよ?」

 モールの出口を出ると、夕方の風が顔を撫でる。

「じゃあ私はこれで。この後、ママとご飯なんです」
「おう、気をつけてな」
「はいは~い。バイバイですぅ~!」

 別れる直前、二兎は急に俺の腕を人差し指でツンとつついた。

「……キーホルダー付けてなかったら、明日のお昼ごはん奢ってもらいますからね?」
「隆輝に奢らせるかぁ」
「……お友達を使うのは良くないですよ?」

 俺が悪者みたいになってるんだが。

「それにしても、よくやるよなぁ」
「何がですか?」
「いや、俺をイジるために自分も付けるなんて、体張ってるよなと思って」
「あはっ、そうですねー。それに気づけるなんて、ほんっとうに先輩は可愛いです!」

 褒められているはずなのに褒められている気がしない。

「でも、いいんです。今は関係を意識してもらわないといけないんで~」

 クスクスと笑いながら、二兎はふわりと手を振って歩き出す。
 歩きながらも何度かちらちらと振り返ってくるその姿。
 どうしてか、キーホルダーの入ったカバンが重く感じた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。 その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに! 戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

処理中です...