距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚

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メッセージが届きました

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「さて……どうしたもんか」

 帰宅して諸々を済ませた後、俺は悩んでいた。
 手のひらにはキーホルダー。
 数時間ほど前に二兎に脅されて買ったやつだ。
 彼女には付けろと言われているが、こちらとしても気軽に乗るわけにはいかない。

 オタクにとってキーホルダーとは自己主張の最たるものだ。
 自分はどの作品の何に心を奪われていると全世界に発表することになる。
 当然、〇〇という作品のキーホルダーを付けた俺がダサいことをすれば、〇〇という作品そのものがダサいと思われてしまう可能性もあるわけで。
 軽い気持ちでカバンから垂らすことはできない。

 それだけじゃない。俺はこのキャラクターのことを全く知らなかった。
 元々はweb漫画だか何かで、そこから人気が出始めて今では天下をとっている。
 老若男女……の老は分からないが、少なくとも若男女からは絶大な支持を集めているようで、ちょっとした社会現象だ。

 少なくとも俺は、人気であっても知らないそれを、知らないまま付けたくはない。
 基本的に逆張りオタクだからな。
 ヒーロー映画は全員カッコいいが、漫画やアニメでは王道主人公より斜に構えた脇役の方が好き。
 カードゲームでも大型モンスターを出しての決着より、特殊勝利やライブラリアウトが好きなのだ。
 まったく面倒臭い性質である。

 まぁ、ここまで長々と考えて何が結論かというと――女子とお揃いの物を、他人から見える場所に吊るすことにビビりまくっていた。

 かれこれ三十分はキーホルダーを眺めている。
 いきなりコイツが動き出して「やっぱり机の上とかに置いててくれればいいよ」と言ってくれるのを待っている。
 
 だが、俺の耳に届いたのはマスコットの(推定)高い声ではなく、メッセージが来たことを告げるスマホの「シュポンッ……」だった。

 俺にメッセージを送ってくる相手なんて、巻島か隆輝くらいしかいない。
 今は夜の九時。巻島から連絡が来るのは二十三時くらいだから隆輝だろう。
 そう思って通知を確認すると、見慣れない名前。

 その相手は「涼」――東堂先輩だった。
 この前、一緒に巻島のプレゼントを探してもらった日に「週末に会うなら連絡先くらい知っておいた方がいいでしょ?」と言われ、交換していたのだ。
 やや気分が重いがメッセージを開く。

『こんばんは。七里ヶ浜くんのアカウントで合ってるわよね?』
「合ってます」

 他に誰がいるんだよと思いつつ返信する。

『それなら良かったわ。いよいよ明日がデートの日だけど、予定を確認しておこうと思って』
「そうですね」
「よろしくお願いします」
『デートの練習の日ということよ』

 デートの練習ということ。先輩は何を言っているのかと首をひねったが、もう一度、頭からメッセージを読み直して理解した。

「訂正されなくてもさすがに分かりますよ」
『そう。ならいいんだけど。もしかすると勘違いしてしまうかと思ったから送っただけ。他意はないわ』

 空白の時間があってから無駄に慎重に告げられる。
 こう見ると、十人十色という言葉の意味がよく分かる。
 
 巻島は返信が早く、短文というか現実の会話のようなテンポで送ってくる。
 対して東堂先輩の返事は淡白な部類で、言いたいことを全て打ち込んでから送ってくる。
 両者の性格がメッセージから読み取りやすい。

 ……ちなみに隆輝はというと、SNSの面白い投稿や共通の趣味の新情報を余すことなく共有してくれる。意外とありがたい。

 考察はここまでにして、「勘違いしていない」と打とうとした時、アプリ内で更なる通知が届いた。送り主は「葉音」。
 彼女とのMINEは日課になっていた。
 どうしてこの時間にという疑問もあいまって、反射的にトークを開いてしまう。

『悟くん悟くん悟くんー!』
『大好きだよー!』
『今日は少し早く終わった!』
『これから帰って自主練しようと思う!』

 アイドルのレッスンは大変だろう。
 俺は未だに碌に知らないが、彼女の所属するグループはダンスパフォーマンスも一流らしい。
 となれば、レッスンの過酷さも推して知ることができる。
 それなのに巻島の文面からは疲れが一切感じられない。

「お疲れ様」
「帰っても練習だなんて偉すぎる」
『でしょ!』
『いつか悟くんにもライブ見てほしいからさ』
『その時に他のメンバーに目移りしないように』
『頑張ろうと思ってるんだ』

 自分が彼女の活力になっているなら素直に嬉しい。
 労いの言葉を送ろうとすると――。

【涼からメッセージが届きました:七里ヶ浜くん……】

 東堂先輩ともメッセージをしている最中だった。
 思い返せば返信を後回しにしてしまっていたし、ずっと待ってくれていたのだろう。
 申し訳なく思いトークを移動する。

『七里ヶ浜くん、どうしたの? 何か気を悪くしてしまったなら謝るわ』

 まずい。余計な心配をかけてしまった。
 そもそも先輩が謝るなんて意外ではあるが、そんなことは後だ。
 急いで文章を組み立てる。

「すみません」
「宅配便がきてしまって」

 嘘をついてしまった。許してくれ。

『あら、そうだったのね。しっかり受け取れたかしら?』
「おかげさまでバッチリです」
『それじゃあ明日の予定を決めましょうか。最初は無難なデートがいいと思うから、お昼過ぎに渋谷で待ち合わせ。カフェに行ってから服を見にいくのはどうかしら?』

 俺からすればバリバリのデートだが、やはり現役モデルは違う。
 無難だなんて、カフェや服屋は行き飽きているということだろう。

【葉音からメッセージが届きました:悟くん大丈……】

 ……あ、巻島に返事してなかった。
 急いで巻島のトークに戻る。

『悟くん大丈夫?』
『なにかあった?』
『もしかして体調悪い?』
『今から看病しにいくよ』
「ごめん! 大丈夫!」
「ちょうど宅配便がきちやって」

 指を無理に動かしすぎて誤字してしまったが、どうにか誤魔化せたか?

『そっか』
『なら良かった!』
「突然いなくなってごめんな」
「ライブの話だったよね」

【涼からメッセージが届きました:それとも他に……】

 今度は先輩への返事が疎かに。
 とりあえず既読だけ付けようとトークを開く。

『それとも他に行きたいところがあったりするかしら?』

 順番に済ませよう。
 まず先輩に既読をつけた。
 このタイミングでなら、返事が遅くても思考時間と捉えられる。
 今のうちに巻島に――。

【葉音からメッセージが届きました:そうライブ!……】

 巻島とはライブの話をしていた。
 普段、会っている時でさえ輝いて見える巻島だ。
 それが目の前で歌って踊るなんて、さぞ心に残るだろう。

「めちゃくちゃ楽しみしてるよ」
「待ち遠しい」

 ……よし、これで巻島にメッセージを送った。
 続いて俺はトーク一覧へと戻り、上から二番目。
 つまり東堂先輩のトークを開いたところで、身体が凍りついた。

(……どうして巻島のトークを開いてるんだ?)
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